2013年12月号
特集1 - 女性の参画 次の100年へ
JST「さきがけ」事業での女性研究者支援

平野 美緒 Profile
(ひらの・みお)

独立行政法人科学技術振興機構
産学連携展開部 産学連携支援担当 主査


科学技術振興機構(JST)の研究者を支援する事業の一つ「戦略的創造研究推進事業個人型研究」。通称「さきがけ」である。この事業における女性参画の取り組みは?

はじめに

科学技術振興機構(JST)には研究者を支援する事業の一つに戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)がある。チャレンジ精神に富んだ独創的アイデアを持つ研究者に原則3年半の研究期間中におよそ3千万~4千万円を支給し、挑戦的な発想で科学技術イノベーションの源泉を生み出す研究をしてもらうものだ。従来の学問領域の壁を取り払い異分野融合による新しい研究分野を切り拓く研究領域は、国(文部科学省)が示した戦略目標を踏まえてJST自らが設定する。この事業は、平成3年に事業開始してから今年で22年が経過している。

平成19年度に発足した「生命現象の革新モデルと展開」領域では、偶然ではあるが、さきがけ事業を総括するJST担当課長が女性、研究推進の中心的な役割を果たす研究総括が女性、研究者の事務をサポートする事務参事が女性であり、そこで女性研究者が6名活躍した。筆者は、その当時さきがけ事業の事務担当をしていたこともあり、今回紹介させていただきたい。

生命現象と数理モデリングの融合を目指す

さきがけ事業では、新規発足した年度から3カ年にわたって研究者を採択し、採択された年度より原則3年半研究を実施することとなっている。本領域では、平成19年度採択研究者(1期生、研究終了22年度末)が11名(うち女性2名)、平成20年度採択研究者(2期生、同23年度末)が10名(うち女性2名)、平成21年度採択研究者(3期生、同24年度末)が14名(うち女性2名)となっており、全研究者35名中、女性研究者が6名採択されている。本領域は、多様な生命現象に潜むメカニズムの解明に資する斬新な数理モデルを構築するのが狙いで、治療、防疫、環境保全などに貢献できる予測力や発展性に富む研究を対象とした。具体的には、遺伝子やタンパク質、細胞、組織、器官、個体、群集など、さまざまなスケールのもの、また発生、形態形成、脳神経、行動、社会、生態、進化などの多岐にわたる現象を含んだものだった。

なでしこキャンペーン

JSTは、男女共同参画を推進するために、戦略事業において女性の参画を推進するための支援策を講じてきているが、さきがけでは「なでしこキャンペーン」を実施している。その甲斐あってか、さきがけ応募者に占める女性研究者の割合は1割程度(図1)、採択された女性研究者は1割を超えており(図2)、ここ数年はある程度の高い水準を示している。

図1 応募者に占める女性研究者の割合

図2 採択者に占める女性研究者の割合

折りしも、女性が活躍したこの「生命現象の革新モデルと展開」領域が発足して間もなくのころ、なでしこキャンペーンは設立された。当時さきがけ事業を総括していたJSTバイオサイエンスデータベースセンター企画運営室長の白木澤佳子さん(当時:JST研究推進部さきがけ担当調査役)は、当時を振り返ってこう述べている。

白木澤佳子 さん

当時、初めての女性のさきがけ担当課長ということもあり、苗字も比較的珍しいので、出張先などで研究者とご挨拶をすると、すぐに自分の名前と顔を覚えてもらえました。女性であるということがデメリットばかりというわけではありません。また、より多くの女性研究者にさきがけで研究を推進してもらいたい、そのためにはまず応募する女性研究者を増やしたい、という想いから、さきがけに採択された女性研究者からのメッセージを紹介する『なでしこキャンペーン』というサイト*1を立ち上げました。その後、より充実した内容となり現在も最新情報が掲載されています。是非、これからもより多くの女性研究者に積極的にさきがけに応募していただきたいと思います。

研究総括を務めた奈良女子大学名誉教授の重定南奈子さんは、この領域において独自に展開した取り組みの意義を次のように述べている。

重定南奈子 さん

研究者選考にあたっては、募集要項に示された共通の選考基準に加えて、本領域で独自に定めた『同じレベルの評価を得た提案については、より若い人および女性を優先する』ことを基準に実施しました。募集は3回にわたって行われましたが、応募者は計451名、内女性は75名(17%)でした。選考結果は、採択者35名に対して女性は6名(17%)でした。偶然にも、応募者と採択者で女性の割合が共に17%であったのは、喜ばしいことでした。研究総括が女性であったことが影響したのか、17%という数字は、その当時のさきがけ全体の応募者に占める女性の割合と比べても、かなり高かったと記憶しています。ただし、それでも国が掲げる理学系女性研究者の採用目標である20%には届いていません。

また、JST領域サポートスタッフとして対応した事務参事の最首八重子さんは、次のようなコメントを寄せてくれた。

最首八重子 さん

領域会議などで顔を合わすときや直接電話などで、女性研究者から研究と家庭の両立などプライベートなことで悩みを打ち明けられることもありました。私自身、子育てをしながら仕事を続けられてきましたのは、周りの人たちの協力があったからこそであり、その時の恩返しのつもりで、積極的に研究者の勤務場所に足を運び、不安や悩みに耳を傾ける努力をしてきました。

このほか、領域アドバイザー10名のうち、女性領域アドバイザー1名が登用された。

ライフイベント支援の活用

さきがけ事業では、出産、育児などライフイベント時に、研究の一時中断や研究期間延長が審査の上認められる制度となっている。本領域では、先に述べた女性研究者6名のうち、3名が本領域期間中にライフイベントを迎え、うち1名は、産休後すぐに研究に復帰したが、残り2名はライフイベント制度を活用して、育児休暇を利用し、認められた範囲内で研究期間延長を行った。この間、JST領域サポートスタッフで技術参事の八木健吉さん、事務参事の最首八重子さんおよびJST本部担当が、直接研究者のもとへ出向き産後の保育問題などについてもきめ細かくフォローアップしたので、スムーズに研究に復帰でき、無事に研究を全うした。また、この3名の女性研究者全員が本領域終了までに見事に正規職員としてそれぞれ大学・機関に就職できたことは、本人たちの資質ももちろんのこと、さきがけ事業のライフイベント制度が貢献した側面も大きかったと思われる。

また、男性研究者1名も配偶者の出産後の海外留学を支援するためにさきがけのライフイベント制度を活用した。男性研究者によるライフイベント制度の活用は、さきがけ事業では当時初めてのケースであったが、JST領域サポートスタッフとJST本部担当の前向きな対応により実現したもので、男女の分け隔てなく研究と家庭の両方を大切にしたい研究者を心から支援したいという熱意が伝わってくるものであった。この男性研究者については育児休暇の取得に伴い研究期間を9カ月間延長したため、同期のさきがけ研究者とともに研究終了を迎えることができず、本年12月21日に東京大学本郷キャンパス内にある中島記念ホールで研究成果公開報告会を行うこととなっている。なお、本領域で一足先に卒業した研究者たちが、報告会終了後に懇話会(本領域の卒業生が自主的な運営で一堂に集まる研究会)を開催する計画を立てるなど、さきがけ研究者の絆の強さが感じられる機転に富んだ企画も行われることとなっている。

実際に、この制度を利用した声として、千葉大学大学院工学研究科特任准教授の菅原路子さんは次のように述べている。

菅原路子 さん

正直なところ、研究とライフイベントとを両立させることができたのかどうか、今もまだよく分かりません。とはいえ、幸い、研究領域の雰囲気が男性研究者も含めライフイベントに理解的でしたので、その観点から、ライフイベントと研究との両立は進めやすかったのだろうと思います。重定先生をはじめ八木さん、最首さんの支えは、大変心強いものでした。これからもライフイベントに関わる制度は、是非拡充されてほしいと思います。

また、日本大学生産工学部数理情報工学科准教授の野々村真規子さんも、次のようなコメントを寄せてくれた。

野々村真規子 さん

出産・育児に対して、重定先生、八木さん、最首さんの理解があり、大変助かりました。出産・育児をしていない研究者と同等に研究するには、集中して研究する時間を確保できるように保育所だけではなく、家事・育児を手伝ってもらえる環境を、家族の協力や民間のサポートサービスを上手に活用して作ることが必要だと思います。

大事なのは周りの理解

女性研究者がますます活躍できるようになるためには何が必要か。「女性研究者の皆さんが勇気を持ってさまざまな新しいことにチャレンジすることと、そのチャレンジを周りが理解して支えることの2つが大事」と白木澤佳子さんは指摘する。周りの理解と支えの重要性は、今回メッセージを寄せていただいた他の方々も一様に強調している。

今回の記事執筆にあたり、研究総括である重定南奈子さんから次のようなメッセージをいただいたので最後に紹介させていただきたい。

「さきがけの期間は3年に過ぎない。育児はさらにしばらく続くのである。どんなに有能な人材でも、一つのことに集中する時間がなければ、その能力を十分に発揮することは困難であろう。安心して預けられる保育所が速やかに整備されることを切に要望する。

育児中の研究者には、一時期研究のスピードが落ちることがあるかもしれないが、あきらめないで、細切れの時間でも大事にし、一歩一歩粘り強く頑張ることが何よりも大切であると言いたい。最初の難関である出産から研究復帰までを乗り越えることができたのだから、次の困難も克服できると信念をもって進んでほしい。激しい競争の中で、時には遅れが気になることもあろうが、大きく構えて、途切れなく追求していけば、やがてはその蓄積が大きな成果につながっていくことを期待する。」

*1
「なでしこキャンペーン」ホームページ
https://www.jst.go.jp/kisoken/presto/nadeshiko/