2014年4月号
特集1 - ビジネス創造の歯車を回す
地域に根差したベンチャー支援の仕組みをつくる
顔写真

後藤 良子 Profile
(ごとう・りょうこ)

一般社団法人TXアントレプレナーパートナーズ事務局長


TX アントレプレナーパートナーズ(TEP)は、その名称が示すようにつくばエクスプレス(TX)沿線を中心に、起業家・ベンチャー企業を育成・支援する地域コミュニティーを目指している。後藤事務局長に戦略を聞いた。

(本誌編集長 登坂和洋)

4年余り活動されてこられたようですが、目指していることは?

TXアントレプレナーパートナーズ(TEP)は、つくばエクスプレス(TX)沿線を中心に起業家やベンチャー企業の支援活動を行っています。設立は2009 年11月で、活動から約4年半が経ちました。TX 沿線エリアには、日本有数の国立大学や研究施設が集積し、多くの先進的研究や先端技術の開発が行われています。また、それらに関わる大変貴重な人材も数多く集まっています。このような地域のポテンシャルを生かし、大学・研究機関、行政、企業、個人支援者が連携することで、地域に根差した持続可能なベンチャー支援の仕組みを構築することを目指しています。

どんな方が参加されているのですか

TEPは基本的に会員制で、次のようにさまざまな形でご参加いただいています。構成メンバーは現在200会員(企業、個人等)を超えています。

・アントレプレナー会員:支援を希望する個人起業家やベンチャー企業

・エンジェル会員:資金的支援ばかりでなく積極的な経営参画も行う経営経験者

・サポート会員:専門的な知識でベンチャー企業を支援する弁護士や会計士など

・コーポレート会員(2014年4月より新設):事業会社、法律・会計事務所、監査法人などTEPの組織運営支援やベンチャーへの支援を提供し、ベンチャー企業との連携や共同事業等を望む法人

・アドバイザリーボード:人的協力、情報提供、ネットワーク紹介などで協力連携する地域行政、公的支援機関、公的研究機関等

・パートナー拠点:拠点の連携利用や現地情報提供等が可能な国内外のパートナー

どんな活動をなさっていますか

活動は「ベンチャー企業が事業プレゼンテーションを行いアドバイスが得られる定例プレゼン会の開催」「各ベンチャー企業のニーズに応じた支援者マッチングと個別支援」「実践的支援となるビジネスプラン作成セミナーの主催」「TEP EXPOや交流会の開催など一般参加も可能な機会の提供と情報発信」などです。これらを通じてベンチャー企業に寄り添うハンズオン型の支援と、その母体となるベンチャー周辺コミュニティーの醸成を促進しています。活動の成果として、今年3月末時点で、TEPエンジェル会員による出資・経営参画は合計14社となっています。

他の支援組織にはないTEPの特長は?

日本は、今でも世界トップレベルの特許数を持つ技術大国ですが、一方で、起業活動率は先進諸国と比較して、非常に低い状況です。せっかくの先端技術の多くが、何らかの理由で研究室や企業内にとどまってしまい、広く社会に還元するには至っていないのです。海外と比較して日本に不足しているのは、起業家やベンチャー企業を育成・支援する仕組み、また彼らを尊重し応援する社会的文化です。

図1 つくばエクスプレス沿線におけるイノベーションのエコシステム

図1はベンチャー企業が成長・飛躍していくために必要な、私たちが考えるイノベーションのエコシステム(持続可能な仕組み)のイメージですが、この中の「エンジェル・メンター」は、わが国では最も不足している部分かもしれません。米国で成功を遂げているベンチャー企業の多くには、メンターと呼ばれる先輩起業家のアドバイザーがいて、彼らの成長に大きく貢献しています。成功したベンチャー企業はまた、次世代のベンチャー企業のメンターとなり、これが社会の中で循環していきます。TEPでは起業・経営経験があり個人として投資する意思もある個人や、ベンチャー支援実績の豊富な専門家個人を集め、ベンチャー企業に対し、支援コミュニティー全体で総合的な支援が実施できるよう努めています。

TEPの大きな特徴となっているのが、このエンジェル会員とサポート会員です。TEPのエンジェル会員は、投資リターンを求めるだけの個人投資家とは異なり、個人的に投資した企業に対して、多くの場合、実際にそのベンチャー企業の非常勤取締役などに就任し、自ら汗をかいてベンチャー企業の経営に携わっていきます。こうすることで、企業はそのエンジェル会員の知識やノウハウばかりでなく、人的ネットワークや交渉力までをも含む深い支援を受けることが可能となり、これは資金的支援をはるかに超える価値となります。また、日本にはエンジェルの組織は少ないながらいくつかありますが、サポート会員のようなメンバーがいることはなかなかありません。現役でバリバリ活躍されている専門家たちが、最新の情報やノウハウを携え、「起業家やベンチャー企業を育成することで、日本を元気にしたい!」という思いで、日々ボランティアベースで活動しています。

企業の分布、活動から見えてきたことは?

アントレプレナー会員(現在100会員強)は、定例プレゼン会、個別支援等を通じたスクリーニングを経て、「ロールモデル企業」、およびこれに次ぐ「重点支援企業」を定期的に選抜しています。

ロールモデル企業に対しては、投資・役員参画するエンジェル会員が主に担当して支援しており、各社の事業分野は、IT・ソフトウエア36%、ナノテクノロジー21%が1、2位で、このほかはライフサイエンス、ロボット、製造・サービスがほぼ同じ比率です。会社設立からの年数は、1~4年が42%、5~9年が33%で、ロールモデル企業の半数以上が従業員数10~19名の規模の会社になっています。支援内容で一番多いのはやはり「経営・事業戦略アドバイス」で、83%の企業に行っています。以下、「事業計画構築」と「広報活動・PR支援」がそれぞれ75%、「ビジネスパートナー・顧客紹介」67%、「外部資金調達支援」50%と続きます。

重点支援企業に対しては、サポート会員が2~3人でチームを組んでその時々のニーズに応じて柔軟に支援を実施しています。

その他の企業についても、ベンチャー企業の視点に立って、具体的に即効性のある支援を提供したいと考えていますが、実は事業計画書が未熟なベンチャー企業が非常に多いという事実に直面しました。これは日本のベンチャーに限ったことではありませんが、とにかく事業計画書が書けないと、資金調達や販路開拓はおろか、まず事業としてスタートできないはずです。しかし逆に、理路整然とした事業計画書を書ききることができれば、誰に対しても納得のいく説明が可能となり、資金調達や顧客獲得、ビジネスパートナーの獲得もぐっとスムーズになります。この状況を少しでも改善したい思いで、TEPのサポート会員が講師を務め、一昨年度よりTEPビジネスプラン作成セミナーを会員以外にも公開して実施しています。このセミナーに参加した受講者には、充実した講義内容、ワークショップ、そして手取り足取りのビジネスプラン作成指導に、毎回大変好評を頂いています。

今後の展開は?

TEPは2014年度より柏の葉オープンイノベーションラボ (KOIL)へ本拠点を移し、新たなフェーズを迎えます。具体的には、新しく以下のプログラムを展開していく予定です。

・創業支援プログラムの提供によるオンサイト支援の実現

・常駐拠点設置によるベンチャー企業周辺の人や最新情報の集約化

・コーポレート会員の新設や地域との連携によるエコシステムの拡大、定着化

・海外ネットワークの強化、拡大

これまでの支援が特定の場所で定常的に行える環境を構築できることで、より効率的できめ細やかな支援が可能となります。TEPでは、ここをベンチャー企業やベンチャー企業支援に携わる人と情報が集まる場所にしたいと考えています。また、前掲のエコシステムの図1にある「大手企業」は、実はこれまでTEPでは手を付けられていないところでした。しかし活動から4年半が経ち、成長する企業も少しずつ出てきているからか、TEPのベンチャーを支援したいという中・大企業からのアプローチが少しずつ増えてきています。これまではこれら企業を受け入れる仕組みが無かったのですが、今年度より「コーポレート会員」を新たに設け、ベンチャー企業にとっても大手企業にとってもメリットのあるプラットフォームを築けたらと考えています。さらに、グローバルな視点を持って活躍する日本企業や、日本マーケットに進出したい海外企業を受け入れていくために、海外の同様のコミュニティーとの連携、ネットワーク拡大にも力を入れていく予定です。これも、常設の拠点あってこそ実現できることです。

TEPはTX沿線エリアに集積する技術を活かして、地域に根差した大きなエコシステムの構築を目指して活動を続けてまいりましたが、新たなフェーズに移る本年度は、非常に重要な年であり、かつダイナミックで面白い年になると思っています。このエコシステムの輪に、是非多くの皆さまに加わっていただければうれしいです。