2014年4月号
単発記事
ビジネスをつくり出すTLOを目指して
―聖マリアンナ医科大学・MPO株式会社の挑戦―
顔写真

天野 徹也 Profile
(あまの・てつや)

MPO株式会社 代表取締役社長



聖マリアンナ医科大学は、“医療現場は知財の宝庫”という考えのもと、学内の特許だけでなく意匠・商標・著作権・ノウハウ、さらに研究者のアイデア・ネットワークも活用し、「知」から「財」を生み出すことを目指している。同大学が設立し、同大学指定の技術移転機関(TLO)であるMPO株式会社は、さまざまな手段を駆使して大学の技術を育て、事業化に結び付けようとしている。

産学官連携活動において「技術移転だけでは飯を食えない」との声が聞かれ、多くの技術移転機関(TLO)や産学連携部門が苦戦している。日本版バイ・ドール制度の施行から15年たち、この活動による成果が問われている。MPO株式会社(以下「弊社」)は2004年7月に設立された、聖マリアンナ医科大学(以下「聖医大」)指定TLOであり、本社を、同大学難病治療研究センターに置いている。大学と企業を仲介するだけでなく事業化に深く関与する新たな技術移転のかたちである事業創出機関(Business Development Organization:BDO)を目指す、われわれの取り組みを紹介する。

ライフサイエンス分野に特化

聖医大は川崎市北部に位置する私立医科大学である。聖医大の研究の特徴は、臨床応用を見据えた研究であることと、大学病院だけが可能な医療ではなく一般の病院でも実施可能なかたちにすることである。これまでに多くのバイオベンチャーを輩出してきた歴史に加え、大学トップのリーダーシップのもと産学官連携活動にも力を入れている。2004年に知財事業推進センターを設置するとともに、単科医科大学の特性や規模を踏まえ機動性の高いTLOとして弊社を設立し、大学が保有する知的財産の発掘および権利化と社会的活用を促進している。

聖医大では、大学や病院から生まれた知的財産を特許だけに限定していない。“医療現場は知財の宝庫”の考えのもと、意匠・商標・著作権・ノウハウ等、さらに研究者のアイデア・ネットワークも活用し、「知」から「財」を生み出す仕組みを創りあげている。具体的には、研究シーズ(特許)→企業(共同研究・共同出願・ライセンス)→製品化という一般的な流れだけでなく、意匠をもとにした医療材料の製品化や医師の人的ネットワークを活用したNPO法人(ソーシャルビジネス含む)の設立など、多様な入口から多様な出口までをフォローできる人材をそろえ、また企業としてそのノウハウを蓄積している。そのため、特許出願や共同研究等の獲得のみならず、ベンチャー企業、NPO法人および一般社団法人の創設を含め、さまざまな手段を駆使して大学の技術を育てている(図1)。

図1 MPO株式会社の知的財産活用のフレームワーク

事業に深く関与する知的財産の総合プロデューサー

技術移転を行うためには、大学の技術の単なる仲介役ではなく、シーズ開拓~マッチング~知財化~プロトタイプ開発~商品化~メンテナンスまでの一連のサイクルを“プロジェクト”単位で管理し、プロジェクト・マネジメントを行う「知的財産の総合プロデューサー」となる必要がある。マネジメントには幾つかの方法論はあるが、例えばマッチング時に複数企業と同時並行で交渉する場合、企業側に企画書を作成してもらい、研究開発(研究費)から販売(ロイヤリティ)までの事業計画について、われわれと事前に擦り合わせをした上でプロトタイプ開発に着手することもある。すわなち、出口を見据え、ビジネスモデルを構築し、それに必要となる要素をかき集めて、効率的かつ強力に事業を推進することを意味している。

その成果の一つとして、2006年に設立された聖医大発ベンチャー企業である株式会社ナノエッグがある。同社は、科学的裏付けに基づいた「MARIANNA」ブランドの化粧品(写真1)を展開し、大学技術の事業化に成功している(Japan Venture Awards 2012では中小企業庁長官賞受賞)数少ない大学発ベンチャーの1社であり、その技術を応用した医薬品の研究開発を行うなど、今後のさらなる事業展開が期待できる。同社に対しては、創業時から役員として弊社の人材を兼務させ、ビジネスモデルの構築、資本政策、知財戦略、法務や経理などのバックオフィス業務、さらには自ら営業活動も行い、事業を全面的に支援した。このように、大学の技術を事業化するには、事業に深く関与し技術を育てることが重要である。

写真1 「MARIANNA」ブランドの化粧品

また、新たな聖医大発ベンチャーとして、大学で培ってきた再生医療技術の普及を目的とした株式会社細胞応用技術研究所を2012年に設立した。再生医療関連の法整備は現在進められている最中であるが、その動向を踏まえた同社のビジネスモデルは、かながわビジネスオーディション2013にて準グランプリにあたる奨励賞を受賞するなど高い評価を得ている。

川崎市を中心とする地域中小企業と連携

大学発ベンチャーの創出や大手企業との連携だけでなく、地域のものづくりを主とする中小企業との連携強化も重要である。中小企業との連携には、医療機器や医療サービスの開発が有用と考え、医療現場のニーズ抽出を精力的に行っている。医療現場のアイデアやニーズはそのままマーケティングにつながる(医療従事者が最終顧客となることが多い)ことから、学内の全医局を個別に丹念に“おしかけ”訪問することにより、ニーズを洗い出すユニークな取り組みも行っている。現在までにそのニーズ数は約150件に達し、2012年度には、京浜臨海部ライフイノベーション国際戦略総合特区を展開する川崎市、川崎市産業振興財団などと共催するライフサイエンスセミナーなどを活用して企業との交流を進め、31件のマッチングにつなげた。その中の数件は研究開発助成金を獲得し、数年での実用化を予定している。

ビューティフル・エイジングによるまちづくり

文部科学省の平成25年度革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)、大学等シーズ・ニーズ創出強化支援事業(イノベーション対話促進プログラム)をきっかけとして、川崎市周辺の産・学・官が一体となり、医学、工学だけでなく経営学、芸術学等を融合した新たなまちづくりを検討している。“ビューティフル・エイジング”をコンセプトに、街の人々の心身の美しさを通して、街全体の魅力が醸成されるための新たなサービスや製品の創出を本事業で追及している。聖医大および弊社はアイデア段階から事業化まで一貫した支援を行い、この取り組みで生まれたアイデアに対して、さまざまな角度から事業化を検討する。今後、ビューティフル・エイジングに寄与する新しいサービスや製品を川崎市から発信したい。

成功事例を生み出す

聖医大は昨年、大学の知財を着実かつ迅速に事業化に結び付ける仕組みの一つとして、「産学連携橋渡し助成金」(年に3回実施予定)を設立し、産学官連携活動をより一層推進するためのエコシステムを構築しつつある。今後、さらに大きな「知」と「財」のサイクルを回していくためには、やはり大学発ベンチャーの存在が鍵になるとわれわれは考える。この「知」「財」サイクルを非常に大きくかつ加速的に回すことにより、ライフサイエンス分野の革新的な事業を創出し、患者さんだけでなく一般の方の健康増進にも寄与するとともに、医療関係者や研究者が夢を持てるような産学官連携活動を代表する大きな成功事例を生み出していきたい。