2014年10月号
連載 - 各国の研究開発戦略
第3回 ドイツ
製造業高度化プロジェクト「インダストリー4.0」

澤田 朋子 Profile
(さわだ・ともこ)

独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター 海外動向ユニット フェロー


これまで主に安い労働力で組み立てを中心に行ってきたアジア諸国や南米諸国が技術力、イノベーション力を備えてきている。これは先進工業国にとって大きな脅威であり、新たなコンセプト下で次世代の稼ぎ頭を生む努力が必要だ。ドイツの取り組みは?

注目される製造業再活性化の動き

世界的に製造業再活性化の議論が高まっている。複雑化する生産プロセスや日進月歩の技術革新など、現代の製造業は大きなチャレンジの中に置かれている。エネルギーをはじめとした有限な資源をどう利用していくか、ますます短くなるイノベーションサイクルにどう対応するかなど課題は多い。ドイツをはじめとした先進工業国にとって、これまで主に安い労働力で組み立てを中心に行ってきたアジア諸国や南米諸国が技術力、イノベーション力を備えてきていることは大きな脅威である。また、急激に進む高齢化で将来の労働人口が減少することは避けて通れない事実であり、国際競争力維持のためにも新たなコンセプト下で次世代の稼ぎ頭を生む努力が必要となってきている。このような背景を踏まえてドイツ連邦政府から2011年に出されたのが、産学官共同のアクションプラン「インダストリー4.0」である。「インダストリー4.0」とは、第四次産業革命の意で、 手工業からワットの蒸気機関発明に代表される機械工業への変換「第一次産業革命」、電気を利用したベルトコンベヤーによる大量生産「第二次産業革命」、コンピューター制御によるIT利用の「第三次産業革命」を経て、現在、グローバル化した世界経済は新しいものづくりの時代に来ているというということで、命名されたドイツ特有の概念である。輸出競争力のある、高度に個別化された製品を輸出することと、工作機械の輸出大国としてスマートファクトリの生産技術そのものを輸出する二段階の戦略(デュアル戦略)を持っている。生産の標準化をいち早く推し進め、世界の工場でその一番の鍵となる部分をドイツが握るというのが「インダストリー4.0」の戦略である。

産業革命の4段階

産官学の連携体制

2006年に発表されたドイツ初の科学技術イノベーション戦略、「ハイテク戦略」は2010年に更新され、現在「ハイテク戦略2020」として実施されている(~2015年)。同戦略の中で政府は、社会的な課題を解決するための10のアクションプラン(政策)を順次提示した。 そのうちの一つが「インダストリー4.0」である。他の九つのプランと比べて、「インダストリー4.0」は、ドイツの主産業に関わること、経済成長や雇用の確保など喫緊の課題を包含することなどから、政策としての優先度が高いとドイツ国内では認識されている。産業界、アカデミア、政府、労働組合が力を合わせ、日本や欧米の先進国、BRICS(Brazil、Russia、India、China、South Africa)など新興工業地域に先んじて製造業再生のイニシアチブを握ろうと一丸となっている。

「インダストリー4.0」政策の推進に大きな役割を果たしているのが、フラウンホーファー応用研究促進協会(Fraunhofer-Gesellschaft:以下「FhG」)である。ソフトウエア、センサー、ネットワーク、集積回路、オートメーション、労働マネジメントなど多岐にわたる分野の研究で、大学および企業と連携し、研究主体あるいは橋渡しの機関として大きな役割を果たしている。

インダストリー4.0 「考える工場」

「インダストリー4.0」では、スマートな「考える工場」の実現を目指している。ここでは、(1)全ての製品は製造に必要なデータを備え、(2)製造工程の全ての機械がネットワークにつながり自立的に動作し、(3)生産の状況に応じて機械、プロセスが適宜最適化される。資源やエネルギーの無駄の少ない工場で、小ロットでも低コストの生産を可能にすることが期待されるのが未来の「考える工場」である。ドイツ連邦教育研究省(BMBF)が2012年に出した「インダストリー4.0」に関する計画書(Zukunftsbild – Industrie 4.0)には、2025年までに米国、中国を抜いて輸出世界第1位になるという目標が明記されている。

インダストリー4.0 産学連携ケーススタディー

ハイテク戦略の下で実施されている、旗艦プログラム「先端クラスター競争」に採択された15のクラスターの中で、オストヴェストファーレン=リッペ(デュッセルドルフから北東に150km)のit’s OWL(Intelligent Technical Systems OstWestfalen-Lippe)を7月に視察した。連邦政府から5年で2億ユーロ(日本円で約280億円)、3億ユーロ(約420億円)を産業界が拠出するマッチングファンドである。参加機関は、大学、FhGなどアカデミアが17機関、研究開発プロジェクトを率いる企業が22社、賛助会員企業が80社、商工会議所など関連団体が約30機関となっている。五つの基盤技術をアカデミアが、33のイノベーションプロジェクトを企業が主体となって研究し、小規模企業である賛助会員には技術移転プロジェクトを通して、新技術を還元する仕組みとなっている。2012年の助成開始から2年余りで、既に当初目標の1万人の新規雇用、50社の新規起業、地元大学における四つの学部・学科新設を達成した、成功しているクラスターの一つである。

「インダストリー4.0」の目標である「考える工場」の研究開発を行っており、ドイツ国内でも研究拠点として注目されている。下記の写真は、オストヴェストファーレン=リッペ専門大学(Hochschule Ostwestfalen-Lippe)構内に企業の寄付で建設された研究棟で、クラスターに参加している企業の研究部門や、フラウンホーファーIOSB-INA(オプトエレクトロニクス・システム技術画像処理研究所産業オートメーション研究センター)、オストヴェストファーレン=リッペ専門大学の研究者がまさにFace to Faceで研究を行っている。フラウンホーファーIOSB-INAは、総合大学(University)ではなく、専門大学に設置されたFhGとしては初めての研究センターで、限りなく実践的な応用研究を行っている。このデモ機は、今春のハノーバーメッセ2014で展示されたもの。集中制御で動線を指示するのではなく、パーツに搭載されているチップが次の工程を示し、ベルトコンベヤーを進んで行く。ロボットアームがそのチップを読み取る機能と、Google Glassのようなデバイスで人間の行動(目線)と作業手順を学習する機能を具現している。

it’s OWL 研究拠点で展示されているデモ機

同プログラムの助成期間終了後(2016年)は、欧州技術機構(European Institute of Technology)資金の活用を計画している。2018年スタート予定のKICs (Knowledge and Innovation Communities) Added-value Manufacturingへの応募を検討中で、引き続き製造業におけるイノベーション創出に取り組み、ドイツそしてヨーロッパを代表する拠点となる目標を持っている。