2014年11月号
特集 - 医療機器開発 医工連携の課題
医療機器開発における出口戦略の課題
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谷下 一夫 Profile
(たにした・かずお)

早稲田大学 ナノ理工学研究機構 研究院 教授



医工連携による医療機器開発への関心が高まっている。多くのものづくり企業は“医療ニーズを教えてくれれば、わが社の技術ですぐ製品化する”という。この「医療ニーズの受注」という考え方はうまくいくのか。

医工連携バブル到来?

最近の医療現場に溢れている最先端の医療機器により、大きく切開しないで患者さんの負担が軽い低侵襲手術が実現している。2014年10月2日から4日まで岩手県盛岡市において「日本内視鏡外科学会総会」が開催されたが、内視鏡を中心とする低侵襲治療に関する新しい方法が次から次へと考案されて、臨床の医師の熱気に溢れていた。

このような低侵襲治療を可能にしたのは、言うまでもなく医工連携による医療機器開発である。最近は、医工連携による医療機器開発促進に大型予算が計上されていることもあり、優れたものづくりの技術シーズを持つ多くの企業が医療分野への参画を要望され、日本全国で医工連携に関するセミナーやシンポジウムが開催されている。いわば「医工連携バブル」のような状況になっている。筆者も企業の方々との交流会でいろいろな要望を伺う事が多いのだが、医工連携による開発に対して誤解されている方が多い事に気が付いた。すなわち、医師のニーズを教えてくれれば、わが社の技術ですぐ製品化するという「医療ニーズの受注」という感覚を持っておられる方が多いのである。

「医療ニーズの受注」の最大のリスクは、出口戦略が伴っていないという点である。出口戦略を伴わない医療ニーズに対してプロトタイプを製作しても、そのデバイスを提案した医師しか購入しなかったとなると、企業は医療分野への参画が失敗したと判断し、医工連携に対する関心がなくなる。その結果、優れた技術シーズの医療分野への流入が停止し「医工連携バブルがはじける」ことになりかねない。筆者は、このような状況を何とか回避したいと願っている。そこで本稿では出口戦略を伴う医工連携の在り方を考えてみたい。

医療ニーズ立脚型の開発モデル

医療機器開発に関して、世界をリードしている国は米国である。米国における開発の仕組みの原点は、シリコンバレーに見られる。シリコンバレーで注目すべき点は、臨床医であるトーマス・フォガティ先生が開設した医療機器研究所(Forgarty Institute for Innovator)と、スタンフォード大学のバイオデザインによる医療機器開発の専門家を育成する人材育成プログラム(Biodesign Innovation Fellowship)である。両者とも、医療ニーズ立脚型の開発モデルを実践している。医療ニーズ立脚型の開発が、米国における医療産業の成功の基本になっている。ところが、異分野融合が苦手なわが国では、医療ニーズ立脚型の開発が円滑に実行されていない。医療ニーズに立脚した開発チームを助成する経済産業省による課題解決型のプロジェクトなどが実践されているが、一部の開発チームに限定されており、日本全体に波及している訳ではない。このため、日本における医工連携開発には、医療ニーズに立脚した出口戦略の仕組みをどのように構築するかが課題である。

医師との対話ドリブン開発モデル

医療ニーズに立脚するとは何を意味するのであろうか。重要なのは、医療ニーズとして表現された「特定の事柄」ではなく、医師が必要と感じた医療ニーズの背景が何かという事である。医療ニーズの背景として、医学としての病態生理学的価値、臨床分野の判断基準、疾病の数、患者の分布、医療現場の状況などが考えられるが、医療ニーズの背景を理解するためには、医師との対話または討論が必須となる。医師との対話と討論を可能にするためには、技術シーズ側の医療に対する理解力も必要となる。

このような対話が成立すると単一のニーズで終始する事はあり得なくて、さまざまなニーズのアイデアが捻出されてくる。ここで、出口戦略の観点から、開発着手の価値のある医療ニーズに絞り込める事になる。出口戦略を全うさせるためには、技術シーズがどのように適合してくるのかが重要となる。

「医療ニーズに立脚」というと、技術シーズの重要性が低いような印象を受けるかもしれないが、決してそういう事ではない。図1の開発モデルを参照されたい。開発の開始段階では、医療ニーズのアイデア捻出が最も重要で、そのウエートが大きい。しかし、その後、出口戦略を考えながら、開発内容を具体化していくことになるが、その過程では、次第に技術シーズのウエートが高まり、開発の後半の段階では、技術シーズのウエートの方が大きくなる。

図1 医療ニーズのアイデア捻出と技術シーズとの適合プロセス

このような医療ニーズと技術シーズの重みの遷移は、ある意味では当然で、医療ニーズを具現化させるための技術シーズをどのように統合(インテグレーション)していくかが極めて重要な課題となる。この開発の流れの中で実行される、医療ニーズと技術シーズとの融合に、医師との対話ドリブンモデルが必須であり、さらに製販ドリブン開発モデルが有効である。製販ドリブン開発モデルは、発案者の柏野聡彦氏による稿を参照されたい。

展望

日本の医療のレベルはまさに世界一であり、日本のものづくり技術のレベルも世界に誇る内容である。この点から考えると、日本は優れた医療機器を創出する優れた環境が整っている。是非とも意義のある医工連携を実現させて、優れた医療機器を創出する産業が展開する事が望まれる。