2014年11月号
特集 - 医療機器開発 医工連携の課題
製販ドリブンモデル
無理なく円滑な医工連携のかたち
顔写真

柏野 聡彦 Profile
(かしの・としひこ)

一般社団法人 日本医工ものづくりコモンズ
理事


ものづくり企業が、新しい分野である医療機器に参入しようとする場合、課題は市場の動向を見据えて戦略を練ることや、開発・製造・販売に関するさまざまな法規制への対応である。そこで注目したのがそれらのノウハウを持つ「製販企業」との連携だ。

全国各地で医工連携が活性化している。医工連携の成功率を高める方法の一つは、医療機器の市場と法規制に関する知識とノウハウを有する製販企業(いわゆる医療機器メーカー)とものづくり企業とが開発初期から連携する仕組みをつくることである。

医工連携における製販企業の重要性

これまでの医工連携では「医・工・連携」という言葉どおりに、「医」の臨床現場と「工」のものづくり企業とが直接つながる体制によって研究開発が進められることが少なくなかった(図1左)。この場合、臨床現場がものづくり企業に対して「臨床」に関しても「医療機器」に関しても圧倒的に知識を持つが故に、ものづくり企業はほぼ臨床現場の言うとおりに開発を進め、その結果として医療機器の市場の検討や法規制への対応が不十分となり、事業化が難航することも少なくなかった。

医療機器の市場と法規制を踏まえた事業化を実現する方法の一つは、医療機器の開発初期段階から製販企業と連携することである(図1右)。開発初期段階とは「何を開発するか」を決める段階、すなわち「製品デザイン」を決める段階である。製品デザインとは、いわば「研究開発のゴール」であり、平たくいえば「製販企業が『これだったらつくりたい、売りたい、法規制を通せる』と思うもの」のことである。

図1 これまでの医工連携、これからの医工連携

製品デザインが決まり、次に、ものづくり企業が参画する。ものづくり企業は自社技術を熟知しているので「製品デザイン」によって全体像が示され、どの部分に自社技術が使われるのかが分かれば、自社技術の良さを最大限に引き出せる仕様を製販企業と共につくることができる。仕様が完成すれば、仕様に従って高精度に研究開発、製造、納品を行うことができる。まさに、ものづくり企業が持つ世界に誇るものづくりの技で関わることができる。一方で、ものづくり企業が苦手とする医療機器の市場や法規制については製販企業により分担される。

さらには、構築された「製品デザイン」が製販企業にとって「これならつくりたい、売りたい、法規制を通せる」と思うようなものであったとすれば、事業化に向けた強いインセンティブが製販企業側に発生する。あとは主に資金面での条件が整えば、自律的かつ自然な流れで事業化が進む。

製販ドリブンモデル

医工連携の成功率を高める方法の一つは、このように医療機器の市場と法規制に関する知識やノウハウを有する製販企業を開発初期段階から参画させ、自律的に研究開発・事業化が進む体制を構築することである。

このような医工連携モデルは、製販企業が強力なドライビングフォース(駆動力・推進力)となって医療機器の研究開発・事業化を進める姿から「製販企業ドリブン型・医工連携モデル(製販ドリブンモデル)」と呼ばれている。

製販ドリブンモデルの基本構造は、図2のとおりである。

図2 製販企業ドリブン型・医工連携モデルの全体像

まず「①臨床現場」が医工連携の起点となり、「②製販企業」に対して臨床ニーズが提供される。「②製販企業」が臨床ニーズに基づき「製品デザイン」を構築し、研究開発・事業化のドライビングフォース(駆動力・推進力)になりながら「法規制」を通して事業化していく。ここに、「③ものづくり企業や大学・研究機関」が参画し、製品デザインの実現に要するソリューション技術を提供する。

研究開発の実施に当たっては、医療機器の事業化リスク等を鑑みて、「④国や自治体による公的支援策」を積極的かつ適切に活用する。

そして、医療機器産業を地元経済につなげることを目指し、「⑤地域行政・産業支援機関」が全体のコーディネート役、仕掛け役になる。製販ドリブンモデルの実践においては地域行政・産業支援機関の役割が極めて重要である。

地域行政・産業支援機関においては、最新の医工連携ノウハウを効率的に導入するために、日本医工ものづくりコモンズや民間のコンサルティング会社と連携するといった工夫も加えられる。

製販ドリブンモデルの実践

製販ドリブンモデルはすでに幾つかの地域で実践されている。青森県、東京都大田区、三重県、宮崎県をはじめとする地域で熱心に取り組まれてきた。最も早く実践したのは青森県である。

製販ドリブンモデルの実践における最初の課題は「どのように製販企業の参画を得るか」である。上で紹介した地域では製販企業の国内最大の集積地である本郷エリア(東京都文京区本郷・湯島周辺地域)に注目し、本郷エリアの製販企業と地元ものづくり企業との連携が推進されている。

本郷エリアの製販企業群の最も重要な特徴は、売上規模10~20億円の中小規模が多いことである。医療機器のもつ「多品種・少量」という特徴を反映して、特定の診療科や領域に特化し、存在感ある多数の中小企業が立地しているのである。本郷エリアの製販企業は中小企業ではあるが、医療機器の市場と法規制に関する知識やノウハウを確かに持っている。そして中小企業だからこそ、全国のものづくり企業にとって非常に組みやすい相手になっている。このポイントがうまく作用して本郷エリアと全国各地との円滑な連携が実現されている。

後で紹介する本郷展示会をはじめ、本郷エリアと全国各地との連携イベントの実施に当たっては医療機器関連の業界団体との連携が重要である。全国の医工連携活動に対して積極的に協力している業界団体として、商工組合日本医療機器協会がある(図3)。日本医療機器協会は1911年(明治44年)に設立された日本で最も歴史ある医療機器の業界団体である。会員企業は330社に上り、そのうち約130社が本郷エリアに立地している。日本医療機器協会の今村清理事長により「メディカルヒルズ本郷」が提唱され、全国の医工連携活動に積極的に協力する方針が打ち出されている。こうした業界団体と連携することで、効果的かつ効率的に本郷エリアとの連携を推進することが可能である。

図3 商工組合日本医療機器協会(全国の医工連携活動に積極的に協力)

本郷展示会

本郷エリアと全国各地の連携を代表する取り組みとして「本郷展示会」がある。本郷展示会は全国各地のものづくり企業が出展する展示会を本郷エリアの会場(主に医科器械会館が使われる)で開催し、そこに本郷エリアの製販企業を招き、マッチングするイベントである。

やや古い情報ではあるが、2013年度に開催された青森県による本郷展示会の様子を図4に示す。2013年8月29日~30日の2日間開催され、本郷エリアの製販企業等から延べ75人が来場し、38件の開発テーマが青森県に提供された。ここで提供された開発テーマをきっかけに、製販企業と青森県内ものづくり企業とのマッチングが進められた。

図4 本郷展示会(青森県の例:2013年度)

この展示会では、青森県のある企業が販路拡大を希望する自社開発の医療機器を出展したところ、本郷エリアの製販企業とすぐにマッチングし、国内および海外の販路拡大につながった事例が印象に残っている。本郷エリアの製販企業と地域のものづくり企業との連携において、「製販企業」と「ものづくり企業」という役割分担での連携のみならず、本郷エリアの製販企業が「販路」として連携することも重要な連携のかたちであることを強く認識させられた。

最近の本郷展示会は、展示会そのものの開催日を1日に限定してコンパクトな開催とする一方で、展示会に併設する「商談会」や展示会後に開催する「交流会」の充実が図られるなど、スキームの改良が重ねられている。本郷展示会を主催する地域行政機関の創意工夫によって、マッチングの可能性は一年前に比べて画期的に高められている。

本郷エリアと地域との接点としての本郷展示会に対する理解も少しずつ浸透し、図5に示すように、本郷展示会を開催する地域が少しずつ増えている。

図5 本郷展示会の開催実績およびスケジュール

本郷商談会/関東経済産業局「医療機器・ものづくり商談会」

2014年3月、関東経済産業局の「平成25年度 医療機器・ものづくり商談会」が開催された。製販企業11社から収集された24件の医療機器開発ニーズに対して、ソリューション技術を有するものづくり企業が“全国から”募集され、71社から応募があり、計115件の商談が行われた。この商談会は、2013年度に引き続き、2014年度にも規模を拡大して開催される。

この商談会によって製販ドリブンモデルとしては初の「全国レベルのシステム」が提示された。これまでは、青森県、東京都大田区、三重県、宮崎県等の地域による「地域レベルのシステム」が先行してきた。ここに全国レベルのシステムが提示されたという点において、関東経済産業局による商談会は極めて画期的かつ重要である。

今後の製販ドリブンモデルにおいては、地域レベルのシステムと全国レベルのシステムの機能分担が追求されるとともに、地域レベルのシステムと全国レベルのシステムとの相互補完型の医工連携システムの実現に向けた取り組みが重要である(図6)。

図6 地域システムと全国システムの機能分担と相互補完

参考として、全国レベルのシステムの一例を紹介したい。2015年4月22日~24日に開催されるMEDTECにおいて「MEDTECマッチングシステム」が企画されている(図7)。MEDTECには約3万5千人の来場が見込まれている。製販企業とものづくり企業とのマッチングをよりいっそう効率的に行えるよう「MEDTECマッチングシステム」が企画された。

図7 MEDTECマッチングシステムの概要

まさに「本郷展示会の全国版」というイメージである。MEDTECマッチングシステムは日本医工ものづくりコモンズが共催し、企画協力している(詳細はMEDTEC事務局にお問い合わせいただきたい)。

製販ドリブンモデルのこれから

製販ドリブンモデルの実践が重ねられる中でこれからの取り組みの方向性も明らかになってきた。本稿の最後に、直近の課題として五つ挙げておきたい。

第一に、先ほども強調したが、地域レベルのシステムと全国レベルのシステムとの相互補完型の医工連携システムを実現することである。

第二に、ものづくり企業側から製販企業への提案スキームを確立することである。

第三に、地域の臨床現場と製販企業との直接対話・ディスカッションによって地域発の医療機器を創出するスキームを確立することである。

第四に、本郷エリアの製販企業各社における研究開発マネジメントの高度化を支援するスキームを確立し、全国のものづくり企業との連携キャパシティー(受け皿)を拡大させることである。

第五に、国内外の大手製販企業との連携モデルにより大手企業ならではの経営リソースを活用するスキームを確立することである。

こうした方向性の一つ一つが実現されることによって、全国の医工連携活動はよりいっそう活性化し、成果が拡大していくものと期待される。