2014年11月号
特集 - 医療機器開発 医工連携の課題
日本で唯一の大学院医工学研究科
東北大学が育てる医療機器開発の“高度人財”
顔写真

西條 芳文 Profile
(さいじょう・よしふみ)

東北大学 大学院 医工学研究科 教授



東北大学にはわが国で唯一の“医工連携”の研究科がある。設立は2008年度。革新的医療機器の開発とその国際展開が求められているなか、その人材育成が期待されている。

はじめに

革新的医療機器の開発とその国際展開は日本の命運を担う重要なテーマである。医療機器は種類が多く使用用途が多岐にわたるため、医薬品のように既に存在する化学構造等のシーズを網羅的に探索し大規模に応用展開するのではなく、臨床ニーズを的確に反映した機器を個別に開発することが求められる。しかし、現状では医療従事者のアイデアを実現した医療機器創生のためのエコシステム*1は日本においては十分に整備されていない。

医療機器の開発には ①臨床ニーズ探索 ②医療ニーズと工学シーズのマッチング(=医工マッチング) ③医療機器のプロトタイプ作製 ④前臨床試験(動物実験) ⑤臨床試験 ⑥事業化・国際展開──の一気通貫的なエコシステムが必要である。各省庁主導のプロジェクトで医工マッチングや産学官連携のチャンスが数多く提供されているにもかかわらず、このエコシステムが整備されていないため医療機器の実現まで至る例は少ない。

筆者は2008年に東北大学に日本初のそして現在でも唯一の大学院医工学研究科が設置されて以来、「医療機器学(当初は医用装置学)」の講義を担当している。開講当初は、受講者のほとんどを占める工学部卒業者に、CTやMRI等の大型医療機器や超音波診断装置、内視鏡などの工学的基盤技術から臨床的応用までの解説を中心とした講義を行っていた。しかし、2013年夏に東北大学病院長を代表として東北大学病院臨床研究推進センター(CRIETO)や医工学研究科のメンバー総勢12名が米カリフォルニア州のスタンフォード大学およびその周辺企業の医療機器開発エコシステムを視察し、講義内容を大きく見直すことにした。

本稿では、臨床ニーズを起点とした医療機器開発を目指した“高度人財”育成として、「医療機器学」の講義の現状を紹介する。

「医療機器学」の講義・実習内容

「医療機器学」は金曜日の午前中に開講しており、90分を1コマとして1日2コマの講義時間が割り当てられている。基本的に、前半90分は講義を行い、後半90分を用いてグループワークによる臨床ニーズの評価や医療機器アイデアのブレインストーミングを行っている。

(1)医療機器総論に関する講義および病院実習オリエンテーション

総論は、医療機器の定義・種類、市場規模、医薬品と医療機器の比較、医療機器のクラス分類、認証プロセス等についての座学である。病院実習のオリエンテーションは、病院における服装・態度、患者への接遇、医療従事者への対応、個人情報に関する守秘義務、主な診療科の診療内容、手術室等における清潔操作等の事項を周知するとともに、おおむね5名程度からなるグループを組織する。

(2)病院実習による臨床ニーズの探索

本プログラムにおいて最も特徴的な点が病院実習による臨床ニーズの探索である。これは、CRIETOのアカデミック・サイエンス・ユニット(ASU)および医工学研究科の臨床系教員によるクリニカルイマージョンで、各診療科における外来診療、病棟回診、検査、手術等を見学するとともに、医師の日常や研究活動などにも触れて、幅広いニーズの掘り起こしを行う。

(3)グループワークによる臨床ニーズの評価

臨床ニーズの評価の観点は、患者へのメリット、医療従事者のユーザビリティー、先進医療への貢献、グローバルな展開、マーケティングの5項目で、ニーズを数値化・定量化することで自分たちの開発する医療機器の方向性を決定する。

(4)医療機器各論、各種法規、知財および企業の現況に関する講義

個々の医療機器について解説するとともに、知的財産、レギュラトリーサイエンス等についても講義を行う。また、医療機器関連企業から複数の特別講師を招き、各企業における医療機器開発の現状、先進的技術、今後の展開、求められる人材像や企業内での研究者・開発者としてのキャリアパス等について広く聴講する機会を設けている。

(5)グループワークによる医療機器アイデアのブレインストーミング

各グループで評価した医療ニーズおよび医療機器として実現するための工学的アイデアについて徹底的に討論し、各グループが提案する医療機器を一つに絞る。教員はこの討論には参加しないが、工学シーズの適応について求めがあった場合には、2014年7月に医工学研究科に設置された医療機器創生開発センター所属の教員がアドバイスを与える。本センターは、医工学研究科を担当する電気系、機械系、マテリアル系の工学系教員や、電気通信研究所、金属材料研究所、流体科学研究所の教員から構成されており、メンバーすべてが医療機器開発に関する豊かな経験を有している。従って、工学的・理論的な指導にとどまらず、アイデアを実現するための資金獲得や連携企業とのコネクションなどの実践的なコンサルティングも受けることができる。

(6)医療機器アイデアのプレゼンテーション

医療機器のアイデアについて、学生がニーズ評価の観点、工学シーズ適応方法等を中心にプレゼンテーションを行う。このプレゼンテーションまでが「医療機器学」の講義で、出席やプレゼンテーションにより成績を決定する。写真1は2013年に学生が行った医療機器アイデアのプレゼンテーションの様子である。

写真1 2013年に「医療機器学」で学生が行った医療機器アイデアのプレゼンテーション

(7)医療機器のプロトタイプ作製と海外でのプレゼンテーション

2013年は医療機器アイデアのプレゼンテーションを基に成績評価を行った。「医療機器学」講義は、前年度までと内容が激変したにもかかわらず、学生からの評価は良好であった。

2014年には内容をさらに充実させるべく、希望者に対しては、成績評価後に医療機器のプロトタイプ作製と海外でのプレゼンテーションを行うことにしている。

プレゼンテーションを行った医療機器アイデアを実現するために必要な技術シーズ導入、機器に求められるスペック・材質等の絞り込みを行い、医療機器創生開発センターが外注も含めて対応して医療機器のプロトタイプ作製を行う。この業務は、スタンフォード大学周辺のエコシステムでは、いわゆるincubation companyが行っており、このような企業が不在である日本においては大学がその役割の一部を担う必要があると考えている。プロトタイプを提示しながらのプレゼンテーションは、学生、医学系教員や医療機器創生開発センター教員だけでなく、守秘義務を課した企業からの参加者にも公開し、学術的視点だけではなく産業的な視点からも評価を行う。優秀なものに対しては知財取得を行い、既存の共同研究契約にとどまらず、オークション形式での事業化/出資企業の募集も考慮中である。また、来春には、スタンフォード大学かオランダのエラスムスメディカルセンターにおいてプレゼンテーションを行う予定である。エラスムスメディカルセンターは、医工学研究科が部局間協定を結んでおり、数多くの企業との産学連携医療機器開発実績を有する。海外との交流は学生自身が国際性を磨くだけではなく、日本発の医療機器の国際展開モデルのトライアルでもある。

まとめ

東北大学は、16部局からなるメディカルサイエンス実用化推進委員会を組織し、医療機器開発のシステムを構築している。本稿で紹介した取り組みだけでなく、今後、〈加齢医学研究所に設置を目指している「医療機器の安全性に関する非臨床試験の実施基準」を満たした動物実験施設〉、〈既に整備されているCRIETOによる医師主導治験、企業からの治験請負〉、〈共同研究契約やオークション形式、海外でのプレゼンテーション〉などで、エコシステムを安定性の高い強力なものにしていく予定である。「ものづくりコモンズ」など国内の他のシステムと相互協力することで、日本の命運を担う革新的医療機器の開発とその国際化をさらに発展させていきたい。

*1
本来は生態系という科学用語だが、ここでは医療従事者、工学研究者・開発者、製造業・代理店・販売店が有機的に結び付き共存共栄していく仕組み。