2015年6月号
海外トレンド
テキサス州オースティン
―全米で最も注目を集めるハイテク都市―
顔写真

松田 一敬 Profile
(まつだ・いっけい)

合同会社SARR 代表執行社員



米国テキサス州にあるオースティンは全米第2位のハイテク都市である。なぜ、この都市ではこのようにハイテク産業が活発化したのか、そしていま、どんな活動が行われているのか。最新事情をレポートする。

SXSWiに参戦!

図1 SXSWiパンフレット

2015年3月13日から17日まで米国テキサス州オースティンで開催されたSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)に、日本の科学技術をベースにしたスタートアップ*110チームが参加した。SXSWは1987年にテキサス大学オースティン校の学生が始めた音楽祭であったが、その後、映画祭とインタラクティブ部門(SXSWi、図1)が加わり、今では約20万人近い参加者が訪れる米国最大級のビジネスイベントとなっている。インタラクティブ部門は今やスタートアップの登竜門となっていて、Twitterや決済アプリのスクエア(Square)など、世界的に有名なサービスの多くがSXSWiでお披露目をしていることでも知られる。

今回は国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)科学技術商業化プログラムの一環として、日本のテクノロジー・スタートアップの海外での存在感を高めるために参加した*2図2)。われわれが参加したセッションは現地のアクセラレーター*3 Tech Ranchが主催した。イスラエル、韓国、オランダ、ドイツ、米国などからスタートアップが参加して、分野別にテーマを絞ってパネルディスカッションを行った。筆者もヘルスケア部門のパネリストとして参加した。

図2 SXSWi Japanのウェブページ

今回は、並行して開催されたトレードショーに日本のものづくり系スタートアップや音楽関連企業が参加したので、総勢で70人程度となり、日本の存在をそれなりに印象付けることができた。それでもまだまだシンガポール、韓国、イギリス、ドイツなどから比べれば存在感で見劣りがした。

日本の脅威から生まれた全米第2位のハイテク産業都市

音楽祭からSXSWが始まったことからも分かるように、コンテンツ*4分野でオースティンは有名である。オースティンでは、ゲーム、フィルム、音楽が大きなビジネスになっているが、忘れてはならないのが半導体、コンピューターなどのハイテク産業である。

オースティンの歴史は日本抜きでは語れない。「ジャパン・アズNo.1」が話題になったころ、米国は日本を脅威と感じ、戦略的に半導体分野で日本に負けるわけにはいかないと日本に倣って戦略的組織SEMATECH(Semiconductor Manufacturing Technology)を設立した。さらに研究コンソーシアムとして1983年にMCC(Microelectronics and Computer Technology Corporation)を設立した。参加企業はDEC、モトローラ、NCR、AMD、ナショナルセミコンダクターなどであった。これ以前は米国の半導体・コンピューター産業はシリコンバレーに集中していたが、米国のコンピューター産業の英知が集まったことから、IBMなどの大企業もオースティンに進出、それ以降、モトローラ、東芝、アップルなど多くの国内外の情報技術(IT)企業が進出した(図3)。サムソンの韓国外最大の工場があるのもオースティンである。現在、半導体・コンピューター関連では生産量全米第2位の都市である。

図3 オースティンに進出しているハイテク企業群

産学連携と起業活動が活発なオースティン

産学連携と起業環境も充実している。1977年にテキサス大学のジョージ・コズメツキー氏がICスクエア*5を設立、上述のMCC誘致にも貢献した。ICスクエアのコンセプトは「科学技術イノベーションが地域経済を活性化する、またそのためには大学、政府、民間による活発な、具体的な協働が必要である」というものである。ICスクエアは理念実現のため、大学などの研究シーズの事業化インキュベーターであるATI(Austin Technology Incubator)を設立した。ATIは現在でも活発な活動を続けており、設立以来250社を輩出し、卒業企業の調達総額は1千億円を上回る。また大学の研究成果の商業化も活発であり、年間収入は20億円超と世界のトップクラスとなっている(図4)。

図4 テキサス大学オースティン校の科学技術の商業化

一方、DellやIBMからのスピンアウト企業であるTivoli Systemsにより創業者や関係者が潤った。Dellの成長によって、デリオネアと呼ばれる億万長者*6が生まれ、彼らにより資金や起業家が循環するようになった。Tivoli Systemsについても同様である。この層が次の起業家群をサポートするというエコシステムが出来上がった。コズメツキーはDellのメンター(指導者)であり、単なる大学の研究者ではなく、オースティンの将来像を描き、実践して成果を挙げた。彼なしでは今のオースティンは語れないと言ってもいい。

以前は商工会議所、州や市などの自治体、ならびにICスクエア、ATIといった産学官の機関が起業をサポートしていたが、現在ではこれらに加え、民間ベンチャーキャピタル、Capital Factory、Tech Ranchといった民間アクセラレーターが活発な活動を行っている(図5)。Capital FactoryはGoogleと連携するとともに、シリコンバレーやボストンとの接点を強化している。Tech Ranchは日本やイスラエルなどのコア技術を持つ企業との連携を強化している。

図5 オースティンのベンチャーキャピタル、アクセラレーター

全米で最も住みたいと思う街、イノベーションの街

商工会議所によればオースティンは人口190万人で、全米で最も住みやすい街である。またスタートアップにとって、最も起業しやすくイノベーションが起きやすい街である。イノベーションこそ成功の鍵とうたっている。テキサス大学は5万人の学生を抱え、オースティン近郊の大学全体で40万人の大学生がいることも強みである。シリコンバレーの競争的な雰囲気に比べ、のんびりしている。

テキサス州は地方税がゼロである。最近のシリコンバレーにおける物価高騰と競争激化を受けて、西海岸からオースティンへの移住者が急増していることもあり、人口は増加している。これまでのコンピューター産業、ゲームやエンターテイメント産業に加え、新たにテキサス大学医学部がオースティンに設立されることからヘルスケア分野での発展が期待されている。創薬、医療機器にとどまらず、もともとSXSWiでインタラクティブ部門が強いことから、ヘルスケア情報技術(IT)、ウエアラブル機器などの成長も期待されている。

図6 オースティンは州税ゼロ、生活コストも安い!

今や全米で最も注目を集める都市であるが、オースティンにおける日本の存在感は東京エレクトロン株式会社と株式会社リクルートホールディングスが買収したIndeedなど、限られている。産学連携やクラスターのモデル、今後のビジネス上の提携先、そして今や新しいビジネスの情報発信基地であるSXSW等々、日本はもっとオースティンとの関係を強化していく必要がある。

来年3月SXSWiに日本チームの引率者としてまた参加する予定であるが、ぜひ、皆さんにもオースティンに来てもらいたいと思う。

*1
創業間もない企業や始めたばかりの事業のこと。

*2
SXSWi Japan
http://www.noip-tcp-event.com/

*3
スタートアップの成長を促進させる組織。

*4
映像、音楽、漫画、文章、テレビゲームなどの総称。

*5
IC2 Institute
http://ic2.utexas.edu/about/

*6
Dellが大きく成長したことによって、もうけた人々。