2015年9月号
研究者リレーエッセイ
超小型衛星「ほどよし」を通した産学連携の経験
顔写真

中須賀 真一 Profile
(なかすか・しんいち)

東京大学大学院 工学系研究科 教授



超小型衛星実用化を目指す「ほどよしプロジェクト」

2010年3月から2014年3月まで内閣府の最先端研究開発支援プログラム(FIRST)で「日本発の『ほどよし信頼性工学』を導入した超小型衛星による新しい宇宙開発・利用パラダイムの構築」というプロジェクトを進めた。近年、日本では多くの大学が独自の超小型衛星(70kg程度以下のサイズ)の開発を行い、学生の教育だけでなく、宇宙科学・地球観測などの実用的なミッションにも利用し、その数・質ともに世界の中でもトップレベルになってきた。その成果を生かし、①超小型衛星に適した信頼性の概念「ほどよし信頼性」の確立、②サイズ比で世界最先端の機器の開発と国内でのサプライチェーン*1の確立、③地上局、地上試験設備などのインフラの確立、そして、④超小型衛星の利用法と利用コミュニティの創生・発掘、を目標に掲げ、日本の8大学と中小を主とする多くの企業に支援されながら、世界一の超小型衛星大国を目指す活動を展開した。

宇宙関係の企業はすでにたくさんあり、通常の衛星(500 kg以上のサイズ)用の機器を提供しているが、従来の宇宙開発が官需主導であったために低コスト化のモチベーションがほとんど起こらず、一般に宇宙用機器は非常に高価であり、また70kg以下へのサイズの転換にも莫大(ばくだい)な開発費用が必要であることが明らかであった。そこで、本プロジェクトでは、衛星開発を、従来の超高コストの「宇宙価格」ではない低コストのまま進められる効率的サプライチェーンの構築を中小企業と連携して進めた。結果として、150社を超えるネットワークができ、70kg級までの衛星用のすべてのコンポーネントが国内で低コストで入手できるインフラが整備できた。併せて、大学が研究する超小型衛星用先進要素技術のアイデアを実用化・製品化する作業も手伝っていただいた。衛星は多くの分野の技術と人のインテグレーション(統合)であり、まさに「つながり」をいかに広げていくかが勝負であった。

産学連携の体制づくり

宇宙における熱設計・素材などを手掛ける有限会社オービタルエンジニアリング社長の山口耕司氏が中心となって「次世代宇宙システム技術研究組合」を立ち上げ、そこが中小企業との連携のノード(交点)になった。その心は、大学が直接中小企業と連携するのではなく、中小企業の論理や考え方に詳しい方が間に立って「ワンクッション」を置くことで、企業側に無理のない、スムーズな参入・連携が可能になることを狙ったものである。技術開発の現場では衛星開発者側と中小企業の技術者がダイレクトに交流し、知財や金銭面では技術研究組合が一手にマネジメントを引き受けてくれたので、大学側は研究開発に注力できた。また、山口氏は必要な技術を提供できる多くの中小企業の掘り起こしにも尽力され、結果として、先に述べた70kg衛星開発に必要な全ての技術をカバーする効果的なサプライチェーンの構築ができた。やはり「餅は餅屋」の発想が連携には重要である。

ここで重要な観点は、1)できるだけ「宇宙に染まっていない」企業が参画しやすい環境作りを行うこと、2)技術力と同時に、将来にわたって協力関係が維持できる企業の特定が必要であること、3)「宇宙が素人」の企業には宇宙で正常に動作するための設計・製造時のケアや地上試験手法を伝授する必要があること、などである。そのための方策として、a)サプライチェーン選定・運用基準書を作り、宇宙環境耐性を保証する作業を、ベンダー*2の実力に応じてベンダー側かシステム(衛星開発)側かいずれで担当するかを柔軟に変える、b)宇宙用のはんだ付けなどの特殊な作業は講習会を開いてベンダーを教育する、c)振動試験、熱真空試験などのベンダーができない、あるいは経験のない試験は、システム側で一斉に実施する期間を用意し、そこにベンダーに来てもらって一緒に実施することで教育も含めて環境保証を行う、などの工夫を行った。

一体感の醸成

多くの中小企業と研究開発の連携をして感じたことは、企業の皆さんに衛星の成功を目指して親身に協力していただいたことであった。衛星設計の初期段階からできるだけ企業に設計情報を出して機器開発の実現可能性をチェックいただき、専門家の目から見ても無理のない機器の仕様になることを確認しながら進めたことは、出戻りが少なくなっただけでなく、同じチームの一員として衛星を開発するのだという一体感の醸成に大いに役立ったと感じる。衛星を絶対成功させたいという気持ちを持っていただいたおかげで、衛星開発の最終段階での急な追加作業にも自身の人的ネットワークを使ってタスクフォースを組んで対応いただいたり、自分の担当機器だけでなく、他の分野にも仕事を超えて有益なサジェスチョンをいただいたりするなど、その効果は絶大であった。心より感謝している。契約書やインターフェース仕様書のやりとりというだけでなく、最終成果物への強い思いの共有も、特に衛星のような多くの企業が関与しなくてはいけない大プロジェクトでは重要であると痛感した。

衛星打ち上げの成功、そして未来へ

多くの企業の支援を受け、東京大学が中心になって開発した「ほどよし3号、4号(写真1)」は、2014年6月20日にロシアの宇宙基地から高度630kmの宇宙に打ち上げられた。開発していただいた機器はすべて正常に動作し、分解能6mの地球画像(写真2)獲得をはじめ、多くの成果を挙げた。ご尽力いただいた中小企業の皆さんへの恩返しとして、開発機器がこれからも売れ続けるよう、衛星プロジェクトを継続して受注ないし起こしていくことがわれわれの責務であり、それが「つながり」をさらに広げていくことになるのだと考えている。すでにベトナム衛星「MicroDragon(マイクロドラゴン)」や超小型深宇宙探査機「PROCYON(プロキオン)」をはじめ、その活動が始まっている。

写真1 ほどよし3号(左)と4号(右)

写真2 ほどよし4号で取得した6m分解能画像(千葉県周辺)

次回の執筆者は、京都工芸繊維大学 大学院工芸科学研究科 教授 吉本昌広氏です。

*1
supply chain. 原材料が生産されてから最終消費者に届くまでのプロセス。

*2
vender. 製品の納入業者や販売業者。