2016年1月号
シリーズ 知的財産を活用する
第3回
中小企業との知的財産に関する契約の留意点
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石井 慎也 Profile
(いしい・しんや)

石井慎也法律事務所 弁護士



中小企業から、「大学と共同研究開発をすることになった。大学からこれについての契約書が送られてきたので見てほしい」という依頼を受けることがある。

共同研究開発によってどのような成果を得られるのか、やってみなければ分からない中で、どのような契約を締結するのかは、双方の思惑があり、難しい面がある。

前提として特許権または特許を受ける権利を共有しているとき、自らが実施する場合には他の共有者の同意は無用だが、持ち分を第三者に譲渡する場合、または第三者に実施許諾する場合には、他の共有者の同意が必要となる。

大学と中小企業の利害

大学自体は、共同研究開発の成果を用いて製品を大量生産するための施設を持ち合わせていないので、自ら実施する権利を有していても意味がないのが通常である。他方、中小企業は、多くの場合、自ら実施することが可能である。この点で、両者の間には決定的な相違がある。そのため、大学はこの不利な点を補うための条項を共同研究開発契約の中に盛り込もうとする。具体的には、大学が第三者に実施許諾をする場合には中小企業がこれに同意しなければならない旨を定めたり、中小企業が成果を実施する場合にはその売り上げの一定の割合を大学に支払うことを定めたりする。

しかし、中小企業としては、大学の意思で自社と競争関係にある他の企業が共同研究開発の成果を実施できるとすれば、死活問題となる。また、大学に一定の金額の支払いを約束することについても、その金額が当該成果による経済的利益に不釣り合いに高額であると、共同研究開発の成果を活用しにくくなってしまう。さらに、共同研究開発契約を締結する時点では、共同研究開発の成果が市場においてどの程度の優位性を発揮できるかは定かではなく、中小企業としては、大学に支払うべき金額をどの程度にしたらいいのか、その判断は難しいものとなる。しかも、大学に支払うべき金額の算定方法については、通常、中小企業が成果を利用して得られた売り上げに対する一定の割合と定めることが多い。これを粗利、営業利益などに対する一定の割合と定めると、売り上げ以外に経費の算定もしなければならず、大学に支払うべき金額の算定が煩雑になる。従って、やむを得ない面があるが、中小企業としては、共同研究開発の成果を利用した製品ないしビジネスがどの程度の経費を要するか読めないにもかかわらず、売り上げに対する一定の割合の支払いを約束させられるという、難しい判断を迫られることになる。

このように、共同研究開発の成果による利益をいかに分配するのかについては、大学と中小企業の間で最も利害が対立することになる。

もっとも、実際には、大学は中小企業に対しては強気な場合が多く、中小企業が折れざるを得ないことが少なくないと思われる。中小企業の中には、後日、成果が出た時点で、大学との話し合いによって、なにがしかの良い結論に到達できるであろうという漠然とした期待を持って契約を締結するところもあると思われるが、そのとき大学との合意に至らなければ、中小企業としては、共同研究開発の成果による利益をほとんど享受できずに終わってしまうこともありうる。そして、苦い経験をした中小企業は、次の共同研究開発には消極的になってしまうことになる。

このように中小企業が共同研究開発に消極的になってしまうことは、中小企業と大学とが、互いの知見を出し合って優れた発明などの成果を生み出す機会を喪失させることになり、極めて残念なことである。

大学と中小企業が利害問題を調整して連携するためには

大学と中小企業のこのような調整は簡単ではないが、双方が個々の事案ごとに柔軟に協議をすることで、相当程度調整を図ることができると思われる。つまり、中小企業は、共同研究開発によって課題を解決できた場合に、どのように事業を展開しようとするのかを具体的にイメージし、これを大学に示して自社が望む利益の分配方法をより積極的に提案すべきと思われる。大学も、画一的な対応しかできないような内部ルールを用いず、中小企業からの個々の提案ごとに柔軟に対応できるようにすべきである。

例えば、中小企業が幅をもって利益を予測せざるを得ない場合、つまり最善と最悪の場合の数値をもって予測する場合、その幅を何段階かに分け、段階ごとに中小企業が支払う金額の割合に変化をつけることもありうる。

大学への分配を、売り上げではなく、粗利、営業利益などを基準に算定する方法も検討されるべきである。経費の算定が煩雑となる場合に備えて、原則は売り上げに対して一定の割合を乗じた金額を中小企業が支払うものとしながら、中小企業が粗利、営業利益などが一定の金額に達していないことを証明したときは、中小企業が支払うべき金額が下がるような合意もありうる。

また、共同研究開発の過程で、中小企業が研究開発費の全部または多くの部分を負担するような事案では、その成果によって中小企業が利益を得た場合、まず研究開発費を優先的に回収できるようにするということもありうる。逆に、大学の研究開発の資金確保を優先し、大学が一定の分配を受けるまでは、利益から分配を受ける割合を高くすることもありうる。

上記のように利益の分配方法について柔軟な取り決めをしている大学と中小企業もあると思われるが、企業間と比べると、その例は少ない。

このように、大学と中小企業が共同研究開発契約を締結する際に、予想される成果による利益の分配を含めて事業の見通しを協議することは、共同研究開発テーマの経済的意義を再確認することにもつながり、テーマが研究に携わる者の学問的興味に偏ったものになっていないかを検証することにもなると思われる。

共同研究開発の契約締結の場面は、共同研究開発に水を差すものではなく、共同研究開発を有意義なものとする契機にもなりうるのである。