2016年2月号
シリーズ 知的財産を活用する
第4回
大学等の知的財産を中小企業へ技術移転する際の留意点
顔写真

千葉 広喜 Profile
(ちば・ひろき)

一般社団法人 発明推進協会
知的財産研究センター
公設試知的財産アドバイザー支援チーム 主管

大学等の知的財産の技術移転

産業のグローバル化に伴い、これまで企業は生産拠点や調達品の海外シフトを積極的に進めてきたが、中国経済の減速や円安の長期化により、国内回帰の動きが強まっている。しかし、中小企業を取り巻く環境は依然厳しく、設備投資や研究開発投資への動きは鈍い**1。企業にとって、製品品質の高度化と差別化のための自前開発は重要であるが、大学等の研究成果や知的財産を積極的に活用し、独創的で競争力のある製品の開発、生産性向上**2への取り組みも同様に重要で ある。

ここでは、大学等の知的財産を企業に技術移転する際の留意点と、その後の開発支援の在り方について述べる。

研究成果の知的財産化

企業が大学等の研究成果を安心して事業に使用するには、研究成果が、①適切に特許出願され、②出願した特許が登録され、③権利が維持されている、ことが必要である。しかし特許権があるからといって万全というわけではない。

事業化に必要な核となる技術が審査の過程で抜け落ちたり減縮されたりして、必要な時に権利行使できないことがある。権利者も発明者もそのことに気付かず、後に問題が表面化することが多い。大学等の特許を技術移転する場合、コーディネーターは事前に特許の権利範囲や研究成果と特許との関連性を調査し、ライセンス条件や知的財産戦略を検討しておくことが重要である(図1)。

図1 大学等の知的財産を技術移転するためのカンどころ

知的財産のふるい分け

大学は先進的な高度技術のほか、企業が事業化する上で使いやすい有益な特許やノウハウを多数保有していることが多い。企業が知的財産を活用して技術導入する際の特許のスクリーニングについて、以下の観点での検討を推奨する。

●事業への適合性

・企業の技術的な課題を解決できる技術であること(適合性)

・技術移転が可能なレベルまで完成している技術であること(完成度)

●製品への再現性

・研究成果が繰り返し製品上に再現できること(再現性)

・生産物(製品)が同一品質・機能を維持できること(均質性)

●社会実装性

・コスト、品質、採算性の面で従来技術に対する優位性があること(経済性)

・競争的資金の獲得や投資ファンドの呼び込みに有効な技術であること(投資性)

●技術の革新性

・国内・海外の競争相手の技術レベルを越えていること(革新性)

・将来の新技術・新製品に発展する可能性を秘めた技術であること(発展性)

企業の技術課題解決ニーズの把握

大学等の知的財産を技術移転する際には、企業の技術課題をいかに的確に捉えるかが重要である。そのためには、コーディネーターの人的ネットワークを活用して企業の事業ニーズを収集することや、企業経営者との面談を通じた課題の把握が有効である(図2)。また、企業は地域資源を活用した新商品のアイデアや、地域産業振興につながる独創的な技術を大学等に期待している(図3)。コーディネーターや研究者は企業や現場に足を運び、技術課題は何か、大学に何を期待しているか、いつまでに何をすべきかなど、直接生の声を聞き、情報を共有することが重要である。

図2 企業の事業ニーズ収集や地域振興のための出前相談の例

図3 地域課題解決のための研究会の例

大学等のシーズ情報の紹介

各大学より膨大な研究成果情報が毎年紹介されているが、技術移転につなげるための情報として検討すべきことは、①研究成果が企業の事業戦略に沿っているか、②研究がどこまで進展しているか、③技術移転後どこまで企業の研究開発への協力が可能か、④知的財産の権利範囲がどうなっているか、⑤どのような条件での技術移転を希望しているか、などである。特に、④、⑤に関し、第三者との共有関係にある知的財産を技術移転する際は、権利の取り扱いや契約条件等に関する綿密な検討が必要である。

また長期間にわたって事業化を研究者と共同で進める関係上、開発のきっかけや苦労した点、熱意や将来展望、企業への期待度や市場動向等周辺情報もシーズ情報に盛り込んでおくことが望ましい。

コーディネーターの役割の重要性

企業にとって自社事業の高度化や差別化製品の開発には大学等の知の活用が欠かせないため、大学のシーズ集や新技術説明会、産学マッチングイベントなどによる技術情報の収集や研究者の探索を頻繁に行っているが**3、それだけでは的確なシーズや最適な研究パートナーに出会う確率は低い。

大学やTLO(技術移転機関)、自治体や市区町村、民間などでは、地域内にある企業の活性化や産業振興を図るため、産学連携コーディネーターを配置して技術移転活動を行っている。コーディネーター同士の仲介による技術移転では、所属する機関の立ち位置や目的を異にしているため、支援内容の行き違いやミスマッチを生じないよう緊密な情報交換が必要である(図4)。

図4 コーディネーターの役割と課題

大学の研究者による継続的支援

企業の自助努力だけで事業が成り立つ時代は去り、企業はオープンイノベーションの下で、国内・海外の競合企業を相手に技術開発にしのぎを削っている。新製品の開発には、大学等の特許やノウハウを積極的に投入することが早道であるが、先進技術のほとんどはノウハウや技術データとして研究者の頭の中や研究室に蓄積され、一部が特許や論文として公表されているにすぎない。

技術移転による製品開発を成功させるには大学の研究者が保有するノウハウや技能、技術データなどによる継続的なサポートが必要であり、技術移転後も大学には開発製品の試作・改良・検証・実用の各段階における助言や相談などの協力姿勢が求められる。

技術移転による中小企業の活性化と国際競争力向上

企業が新商品開発を成功に導くには、研究開発への経営資源(人・物・金・情報)の積極的な投入が必要であるが、地域中小企業や震災被災地の企業のほとんどは研究開発のための情報不足や資金不足に陥っているのが実状である。産学連携コーディネーターには、企業における研究開発やイノベーションを加速するため、大学の新しい有用な技術情報の提供や競争的資金の獲得支援が求められている。大学と企業との橋渡しだけにとどまらず、企業の新製品開発から事業化まで継続的に支援していくことが重要である。

大学等の知的財産を技術移転することで、企業は製品競争力の向上と開発人材の育成、そして自前の研究開発力を向上させることで自立化に向けたスパイラルアップができる。知的財産の技術移転が中小企業における研究開発の活性化を促して国際競争力を向上させ、日本再興のきっかけとなることを期待する。

●参考文献

**1
中小企業庁編.2015年度版中小企業白書〜地域発、中小企業イノベーション宣言!〜.2015,p. 8.

**2
中小企業庁編.2015年度版中小企業白書〜地域発、中小企業イノベーション宣言!〜.2015,p. 65.

**3
三菱化学テクノリサーチ編.関東経済産業局委託事業「平成25年度中小企業における8大学等知的財産活用促進事業報告書」.2014, p. 8.