2016年2月号
研究者リレーエッセイ
日本発・世界初の再生医療の創出を目指す拠点
顔写真

岡野 光夫 Profile
(おかの・てるお)

東京女子医科大学
先端生命医科学研究所 名誉教授/
ユタ大学 Adjunct Professor

医工連携・産学連携の重要性

私の恩師、櫻井靖久先生(心臓外科医)が東京大学から東京女子医科大学に教授として移籍し、ハイテクをタイムリーに医学に持ち込んで、多くの患者を効率よく低コストで診断・治療する先端医療を目指す医工連携プロジェクトを展開した。

1970年代、私は櫻井先生のバイオマテリアル研究に強い興味を持ち、赤池敏宏氏(前東京工業大学教授)、 片岡一則氏(東京大学教授)らと共にこのプロジェクトに参加し、東京女子医科大学で研究教育を行う機会を得た。そこでは医療現場の中でテクノロジーをどのように利用するかを考え続ける必要があり、医工連携・産学連携を体験しながら先端医療の研究開発を行ってきた。

東京女子医科大学医用工学研究施設は1969年に創設され、医学部卒業生以外の医薬・医療産業に従事する研究者・エンジニアに、医学の系統的な教育を行う目的でバイオメディカルカリキュラム(BMC)を開始した。半世紀に及ぶその活動により、日本の医療産業のリーダーが輩出され、その修了生は2,000人近くとなった。また、修了生は内視鏡、ヘリカルCT、患者ロボットなど、多くのユニークな革新的商品を生み出し、医療産業に大きな貢献を果たしている。

米国での医工連携開発の体験

東京女子医科大学でバイオマテリアル研究を数年間行った後、米国のユタ大学薬学部に留学する機会を得た。ここでも人工材料表面と、生体あるいはタンパク質や細胞などの生体要素との相互作用を追究することとなった。ドラッグデリバリーシステム(DDS)研究の初期に、新しいバイオマテリアルを利用した製剤開発に挑戦した。温度や電気で構造変化するハイドロゲルを利用したインテリジェントDDSを提案し、その具体例を示すことができた。これは、熱があるときにだけ解熱剤が放出されて、熱が下がると放出が停止したり、がん部位のみを局所加温すると抗がん剤を放出するといった、新しいDDS研究を目指したものである。

ユタ大学薬学部での医学部、バイオエンジニアリング部との共同研究を通して、従来の縦型の枠組みを超えた横断型・統合型の研究アプローチを体験することにより、医工連携の真の在り方を学ぶこととなった。医学者と工学者が真に連携し、新しい創造をするためには、研究者が医学と工学の両方の知識と技術を持つ必要性を痛感した。医工連携ではなく、医工融合の研究施設、研究体制こそが21世紀医療に極めて大切であるとの考え方が強く固まる時期となった。

日本発・世界初の細胞シート再生医療の創出

低分子医薬の時代は、遺伝子工学の発展により実現するバイオ医薬の時代を経て、細胞・組織による再生医療時代に突入することに早くから着目した。米国から帰国後、1990年に温度応答性表面を用いて、培養して作った細胞シートを、酵素を用いずに温度変化のみで剥離・回収することに成功した。温度を37℃ から20℃に低下させるだけで、構造と機能を損なうことなく、培養皿から細胞シートを剥離・回収・移植する技術を創出し、その重要性を世界に提案した。この技術を細胞シート工学と呼び、今日、基礎研究、動物実験、前臨床研究を同時並行的に推進させ、ヒトでの世界初の再生医療を、角膜、心筋、食道、歯周、軟骨、中耳で成功させるまでになった。どのプロジェクトもバイオマテリアル研究者として生物学者や臨床家と根気強く基礎研究・臨床研究を行い、研究を開始して10年以上の苦難の年月を費やした成果である。

2006年から文部科学省 先端融合領域イノベーション創出拠点形成プログラムという10年プロジェクトの支援が得られたのは、若い時からバイオマテリアルの研究を、医工融合を実践する医学部の中で行ってきたことによると考えている。特に、国内・国外の枠を超えた臨床家との創造的な共同研究の実行がヒト臨床、治験の実現につながった。日本の医療産業の新しい在り方を若い時から考え続け、産業界との共同研究の機会を得て良き産業界のパートナーと出会え、それを共に発展させることができた。日本の製薬産業が再生医療にその発展の初期から興味を示さなかったこともあって、2001年には大学発ベンチャーの株式会社セルシードを立ち上げて、大学発のシーズを大量の患者を治す産業化に結実させる挑戦も行った。

世界拠点の整備:先端医療・再生医療を推進するTWIns

先端医療研究、再生医療研究の具体的な概念を作って研究を推進しつつ、医工融合研究拠点の在り方を走りながら作り上げてきた。2000年には東京女子医科大学大学院医学研究科の中に先端生命医科学系専攻を立ち上げた。2008年には早稲田大学と東京女子医科大学の多くの方々からの支援により、医工融合を掲げる東京女子医科大学・早稲田大学連携先端生命医科学研究教育施設(TWIns*1)を開設した。目の前の患者をしっかり治療する病院の後ろで、今は治すことのできない難病や障害の患者を治療するためのテクノロジー結集型の医工融合体制を目指すユニークな研究所である。小動物実験だけに終わることなく、臨床研究・治験を目指して多くの患者を治すための医工融合・産学連携の開始である。

このような拠点により、国内・国外の大学や病院との共同研究が着実に進んでいる。同時に、スウェーデンのカロリンスカ大学病院との共同臨床研究の成功など、従来、日本ではできなかった先端医療のグローバル化に貢献できる研究教育活動も行ってきている。欧州、米国、中国、韓国などの大学や病院との共同研究開発が今後大きく進行していくよう精進したいと考えている。

次回の執筆者は、広島大学長 越智光夫氏です。

*1
Tokyo Women’s Medical University - Waseda University Joint Institution for Advanced Biomedical Sciencesの略。