2016年8月号
単発記事
富山県氷見市 
ハトムギで6次産業化へのストーリー


ハトムギの製品化から8年、人口が減り続ける小さな港町は、大ヒットした「氷見はとむぎ茶」で新産業創出を達成した。次はハトムギエキスを6次産業へと進展させ、さらには雇用創出と人口流出の歯止めに期待がかかる。

漁業と女性の感性、そしてハトムギで地域活性化

石川県能登半島の付け根に位置する富山県氷見市は、ピーク時には7万人以上だった人口が、2015年には約4万7000人にまで減少し、その影響で消える市町村に数えられている。氷見市の松田江の長浜から、隣接する高岡市の雨晴海岸までは、「白砂青松百選」や「日本の渚100選」にも選定され、富山湾越しに見る3,000m級の立山連峰の雄大な眺めには多くの写真愛好家が集まる。海の町という立地ゆえに、古くからの主な産業は漁業で、ブリ(ひみ寒ブリ)やイワシ(氷見鰯)などが有名だ。

統廃合で廃校となった県立有磯高校をリノベーションしたばかりの新市庁舎は、全国から見学者が訪れ、氷見市出身の漫画家藤子不二雄Ⓐ氏の「忍者ハットリくん」「怪物くん」「プロゴルファー猿」「笑ゥせぇるすまん」などのキャラクターがあちこちで出迎えてくれる。

「地方創生の産業の中では、やはり1次産業です。『魚食文化をリードするまち・氷見』がコンセプトです」と、プロのファシリテーターの経歴を持ち、市政運営においても先鋭的な挑戦を続ける本川祐治郎氷見市長は語る。「氷見市といえば、やはり魚かと思われるが」と前置きする本川市長の言葉の意味を説明すると、「漁業×女性の感性」であるという。「例えば、漁協だけで売ろうとすれば、ブリやイワシ、サバなど海産物単品になるが、ぶり大根なら、ブリもダイコンもしょうゆも売ることができる。既存の漁業からさらに複数の利益を生む魚食文化の普及を、女性の地域おこし協力隊を中心に推進したい」と本川市長は語る。1人の雇用で複数の雇用が生まれる足固めとして、ハトムギビジネスのような突き抜けたチャレンジで人口減少に歯止めをかけ、活力を生み出したい構えだ。

大きな産業が無かった氷見市で、「氷見はとむぎ茶」(写真1、2)はペットボトルで年間200万本を売り上げ、さらにハトムギによる6次産業化へと舵を切り、新たな雇用を生み出すべく次のステージへ進もうとしている。

   

写真1 氷見はとむぎ茶ペットボトル

写真2 焙煎氷見はとむぎ茶

なぜハトムギなのか

氷見市のハトムギストーリーは、大きく分けると1985~2005年10月までの1期、2005年11月~07年までの2期、2008~11年の3期、そして2012年から現在に至る4期である。

1期では、米の生産を抑制するための減反政策で、米の転作作物と推奨されたのが麦や大豆だが、氷見市は十二町地区に代表されるように「1日雨が降ると3日は田んぼには入れない」といわれるほど粘質の湿地で、水に弱い麦や大豆はほとんど収穫できない。そこで当時、JA氷見市組合長だった川上修氏(現・株式会社JAアグリひみ会長)が水に強いハトムギに注目し、1985年ごろから山間部の限界集落「細越(ほそごえ)地区」で作付けが始まった(写真3、4)。

写真3 細越地区で栽培されるハトムギ

写真4 ハトムギの収穫

2期では、雑草管理が難しいなど、思うように栽培が広がらないハトムギを最重点作物に指定した。ハトムギの利用方法はあまり知られていない。お茶なら誰でも分かりやすく、販売しやすいと、ペットボトルの「氷見はとむぎ茶」を開発、金沢大学医薬保健学総合研究科の鈴木信孝特任教授や太田富久特任教授らの金沢大学ハトムギ研究会と出会った。ハトムギの一般的な市場価格は1kg当たり300円程度。JA氷見市は生産農家から1kg700円で買い上げている。農家が栄えれば田舎は栄えて、JAにもメリットがあるという考え方からだ。

「農家には設備負担させない」と、農業機械や過熱水蒸気焙煎機や乾燥調整ラインなどを農業生産法人JAアグリひみが技術協力し、栽培指導を本格化した結果、年間200万本、収穫量89トンまでになった。

100%氷見産のハトムギと、立山山麓(黒部市)の伏流水を使用する「氷見はとむぎ茶」は、1本売れるごとに氷見市に対しJA氷見市が5円を寄付した。ハンドボールの聖地を目指す氷見市では、毎年3月に開催される「全国中学生ハンドボール選手権大会」の運営などに使われたことが、市民の共感を呼び、販売協力の申し出や口コミで一気に販売が伸びた。

表1 氷見市のハトムギビジネスでの主な産学官金連携(2016年7月現在)


3期に入ると、市への寄付が1,000万円となり、スポーツ振興や福祉事業に役立てるなど、「氷見はとむぎ茶」は快進撃を続ける大ヒットとなった。

より付加価値の高い高機能の製品開発を模索する中で、ハトムギ研究を手掛け、ハトムギエキスを抽出する特許を持つ金沢大学発ベンチャーの株式会社CRD(石川県金沢市)との共同研究開発で、地元製薬メーカーの株式会社広貫堂やサンスター株式会社などとの連携で高機能食品を発売し、農林水産省農商工連携事業認定となった。

4期では、JA氷見市などが呼び掛け、研究者や生産者団体などが連携する「全国ハトムギ生産技術協議会」のまとめ役になる一方で、国産ハトムギの生産では2012年度の生産量が約441トンと、富山県は日本一のハトムギ産地となった。

写真5 左から、株式会社アグリリンクテクノロジー取締役総合企画部長田上政輝氏、本川祐治郎氷見市長、同社シニアプランナー矢方憲三氏

ミスターハトムギの挑戦

一連のハトムギ事業をけん引し、リードしてきたのが「ミスターハトムギ」こと株式会社アグリリンクテクノロジー取締役総合企画部長の田上政輝氏である。北陸銀行の県外営業支店を転戦してきた経歴を持つ田上氏の挑戦は休むことなく続く。ハトムギCRDエキスは、飲料、化粧品、サプリメント、入浴剤、せっけん、ペット用品などへの応用が想定される素材で、大手企業との高機能ハトムギ商品の開発や、氷見産コシヒカリを使った「ハトムギ入りご飯」など新商品を次々と市場に投入し、矢継ぎ早に世に送り出した。ハトムギの6次産業化をもくろみ、さらなる業容拡大が期待される。「お茶は競合商品が多く、大手飲料メーカーにはかなわない。せいぜい氷見市内と富山県内でしか売れない。販売網を持たないこともあり、売り上げは限界ですから、“明らか食品”を作っていかなくてはならない」と田上氏は言う。

大きな産業のない町で、新事業のお茶だけで2億円の売り上げは決して小さくはないが、第5期となる次のステージではさらなる新事業を計画中だ。広辞苑にも載り、一般名称化するほどおいしいといわれる氷見鰯にハトムギを加えた空揚げなど、ハトムギと地元食材のコラボ事業の計画や、氷見産の魚に付加価値を付けての販売などを行う株式会社イエローテイルを立ち上げた。「しかけとして、若者に支持されなければ雇用にはつながらない。攻めるブランドが勝ち続けるには、攻め続けなければならない。アグリリンクテクノロジーの姿勢も同じで、きっとホームランが打てる。最先端に挑み続け、突き抜けたことをする田上さんに若い人たちも続いてほしい」と本川市長は期待をのぞかせる。

今後は、うどんや菓子など地元の食品業者との連携を強化し、ハトムギと地元食材を使った加工食品の開発を予定している。「氷見はとむぎ」ブランドの確立と、観光客増で地域の発展につなげていく。

(取材・構成:本誌編集長 山口泰博)