2016年8月号
研究者リレーエッセイ
企業の資金を原資に実施する
「研究者主導臨床研究契約」
顔写真

中西 洋一 Profile
(なかにし・よういち)

九州大学 大学院医学研究院 臨床医学部門
内科学講座 呼吸器内科学分野 教授


わが国の基礎研究は高水準だが、臨床研究のレベルは低水準だとの批判がある。とはいえ、国やアカデミアの努力により、臨床研究の水準も順調に向上していると感じている。筆者は、がん臨床試験を推進する「認定特定非営利活動法人西日本がん研究機構(WJOG)」、橋渡し研究支援拠点や臨床研究品質確保体制整備事業等に採択された大学・病院・研究機関を会員としてアカデミアのシーズ開発を推進する「一般社団法人ARO協議会」(図1)、九州大学における臨床研究中核病院整備事業・橋渡し研究の推進母体の「九州大学ARO次世代医療センター」(図2)、臨床研究を支援推進する「一般社団法人九州臨床研究支援センター(CReS九州)」、九州を中心に肺がん臨床試験を推進するグループ「九州肺癌研究機構(LOGIK)」などの組織の代表を務める中で、臨床研究の基盤向上に関わってきた。

図1 一般社団法人ARO協議会

図2 九州大学ARO次世代医療センターの活動

ところが、臨床研究における複数の不正事件を受けて、臨床研究に対する企業からの寄付が消滅した。当然のことながら企業との連携の中で臨床研究を推進してきた組織などは活動に窮した。では、研究資金はどうするのか? 公的資金を原資に行われることが最も健全であるが、不十分であることはアカデミア側にあって開発に関わる者は、日々身に染みて実感している。そこで、臨床開発、とりわけ最適医療の開発においては、企業などからの研究費を原資として、エビデンスを構築する道が開かれるべきであると考えた。そのためには、企業とアカデミアが、寄付ではなく契約を締結した上で臨床研究を推進する必要がある。しかし、国立大学側には法律上、共同研究契約と委受託研究契約しか存在しない。そのため、研究者サイドで生じた最適医療開発のためのアイデアなどを臨床研究から明らかにし、かつ利益相反問題のマネジメント、データ信頼性の確保、データ解析や公表に関する企業からの介入の回避を進めるために、新しい研究契約の設置が、アカデミア側から望まれていた。企業側にとってもすべての臨床研究を企業側の責任で実施することは不可能であることや、研究者立案の研究においても相当な間接経費が発生することには同意しがたいとの考えがあった。

そこで、アカデミア側では、国立大学附属病院長会議、臨床研究中核病院(旧称)連絡協議会、ARO協議会、日本臨床試験学会の窓口を一本化した上で、日本製薬工業協会との協議に入り、さまざまな困難を乗り越えて、昨年末に「企業等の資金を原資として実施する臨床研究契約書(ひな型)」が完成し、アカデミア側と製薬企業間での合意に達した。かなりの大学でこのひな型をベースに契約が進み始めたようである。臨床試験法制化が間近になった今、健全な契約締結の下、活発に臨床研究が推進されることを期待する。

次回の執筆者は、国際医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科 特任教授 和田勝氏です。