2016年12月号
巻頭言
ミツバチは泣いている
顔写真

山口 喜久二 Profile
(やまぐち・きくじ)

ジャパンローヤルゼリー株式会社 取締役相談役最高顧問、JRJ蜂医科学研究所 所長、一般社団法人養蜂・薬草産業基盤復興促進協議会 理事長、農学博士 Ph.D.

養蜂は世界の至る所で盛んに行われ、ミツバチは「神の恵み」としてあがめられてきた。古代エジプトやメソポタミアなどでは、蜂蜜は既に万病治癒の高貴薬として大切に扱われていた。これまで20万種を超えるハチが発見されているが、人間によって飼育可能な種属はセイヨウミツバチとトウヨウミツバチの2種のみで、家畜産業化を可能にしたのは集蜜性の高いセイヨウミツバチである。日本ではアジア圏でいち早く、1877(明治10)年に米国から大量のミツバチを輸入し、当時の小作人農業者のための新畜産業として養蜂業の振興が進められた。日本列島は緑豊かで四季が明確、花は南から北上するため養蜂に最適な国だった。1960年代ごろまでは養蜂大国としての役割を担っていたが、たたき買いという弱者を痛めつける問屋が幅を利かせ、偽蜂蜜の氾濫が絶えない。日本の消費者は本物志向と思いきや安価な製品を求めるため、蜂蜜市場の90%以上が偽蜂蜜で占められているのが現状だ。一方、養蜂業では高齢化や、世襲が進まず、衰退の一途をたどっている。さらに追い打ちをかけたのがネオニコチノイドなる農薬の散布だ。それによって数億匹のミツバチが死に、蜂群崩壊症候群(CCD)でハチがいなくなる現象が起きた。農作物はミツバチの優れた花粉媒介によって実る。もしもミツバチが地球上からいなくなると、4年後に人類は滅亡するともいわれているのだ。

人類にとって必要不可欠なミツバチだが、日本では虫けらという言葉があるように虫を毛嫌いし、ミツバチは人間を襲う恐ろしいものと思われている。人間を襲うのは、肉食系のオオスズメバチやキイロスズメバチだ。むしろ人間はミツバチから多くの恩恵を授かっている。蜂蜜、ローヤルゼリー、花粉、蜂毒、ミツロウ、プロポリスなどだ。今の日本の現状を見れば、「ミツバチは泣いている」と思わざるを得ない。

国連の科学者組織「IPBES(アイピーベス=生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム)」の報告書によると、“ミツバチなどの生物がもたらす経済的利益は、世界全体で最大約65兆円に上る”と試算されていて、社会への貢献度は極めて高い。

今や日本の喫緊の課題は養蜂業を含む農業の再振興であり、生産から開発、販売網の構築という6次産業化が国を挙げて求められている。農業基盤を支える養蜂業の復興にはミツバチの増群、養蜂家の育成や養蜂学校の設立、高品質な蜂産品素材を生産するための養蜂技術の普及啓発が急務である。加えて、蜂産品素材は、機能性や安全性に関する科学的な裏付けが担保されなければならない。より機能性の高い蜂産品素材の国内生産は、雇用創出や地方再生の試金石としても期待される。蜜源環境は観光資源として活用でき、さらに、ミツバチの高度な社会性を実地で学ぶことができたり、有効な教育資源となるなどの波及効果も見込まれる。国内養蜂業の復興と地方創生の取り組みを加速させるには、産学官が一体となった連携が不可欠である。

筆者は、ミツバチの生育が可能となる環境づくりこそ最大の使命と考え、余生を懸けて全身全霊を傾けたいと思っている。