2016年12月号
特集 - 外国人留学生のキャリア支援
外国人博士課程留学生と企業とのマッチング
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飯田 良親 Profile
(いいだ・よしちか)

北海道大学 人材育成本部 特任教授



外国人博士課程留学生というインバウンド

独立行政法人日本学生支援機構の2015年度外国人留学生在籍状況調査によれば、2015年5月1日現在の日本国内の大学院に在籍する外国人留学生の総数は4万1396人で、これは前年比3.5%増となっている。大学院に在籍する外国人留学生は2010年以降、連続して3万9000人を超えている。日本の大学院に学ぶ留学生は、出身国における大学教員、研究者などのアカデミック・キャリアに必要な学歴獲得を目的とする人だけでなく、日本企業に就職し、自らの実力や人的ネットワークを伸ばすことを目指している人が少なからずいる。そこで、筆者が担当している北海道大学(以下「本学」)の博士後期課程、およびポスドクとして在籍している外国人留学生に対するキャリア支援の実態を基に、大学と産業界が協力してこのような人材を活用していくための施策の可能性について論じてみたい。

キャリア志向アンケート

2015年5月1日現在、本学には1,570人の留学生が在籍している。このうち大学院に在籍する留学生は1,065人で、これは全国の国立大学大学院留学生総数2万5532人の4%に相当する。国立大学全体の傾向としては、2010年以降、大学院留学生数はほぼ横ばいだが、本学は対前年比約5%の伸びを続けていて、一つの特徴になっている。さらに、大学院のうち、博士後期課程に限ると、留学生の7割が農学、理学、工学、獣医学など、いわゆる理系の研究室に所属している。

本学では2014年以降、外国人留学生(修士以上、ポスドクを含む)を対象に卒業後のキャリア志向に関するアンケートを実施し、得られたデータを基にキャリア支援プログラムの立案、改善に活用している。本年7月に実施した最新の調査では、対象母数の21%に当たる263人から有効回答を得た。

まず留学費用負担と卒業後の滞在希望先との関連性を見てみると、日本国費留学生(文部科学省の国費外国人留学生制度対象者)と自費留学生では、図1の通り、自費留学生に滞日希望の割合が高いことが分かるが、国費留学生の4割近くが卒業後も日本滞在を希望しており、日本への定着に関して何らかの支援のための施策が必要なことが伺われる。

図1 学費負担別留学生の卒業後滞在場所希望

次に、日本滞在希望者のうち、進路(進学、民間企業、研究機関、大学教員など)の希望を修士、博士、ポスドクの課程別に集計してみると、図2のようになる。

図2 修了後日本滞在を希望する留学生の課程(修士、博士、ポスドク)別進路希望


博士後期課程以上に進学すると、研究機関や大学教員、研究員といったアカデミックポストへの希望が増えるが、対象回答者の3割は民間企業への就職を希望しており、そのようなキャリアパスを可能にするための施策が求められている。さらに、アカデミックポストの獲得は日本人博士人材にとっても引き続き厳しいので、外国人博士課程留学生に対しては、民間企業の研究者というキャリアパスも選択肢に入れるよう、指導している。

外国人博士課程留学生の抱える課題

「留学生30万人計画」*1や「スーパーグローバル大学創成支援事業」*2などの後ろ盾もあり、大学の国際競争力を高め、優秀な海外の学生や研究者を受け入れやすくするために、英語で研究や指導を行う大学院が増えている。従来の外国人留学生は来日後、半年ぐらい研究生として集中的に日本語習得を行い、その後、各自の研究室で本格的な研究活動を始めるケースが多かった。ところが、最近は論文執筆や学会発表はもとより、日々の研究室での研究活動も全て英語で行うところが増え、外国人留学生にとっては得意な英語だけで研究のできる環境になっている。このようにアカデミックな活動に関しては日本語という「参入障壁」は低くなったが、卒業後に国内の民間企業や研究機関などに就職を試みる段階で、外国人留学生は日本語の厚い壁に直面することになる。例えば、科学技術振興機構(JST)が運営する研究人材のためのキャリア支援ポータルサイトの「JREC-IN Portal」では、日本語の求人公募件数が2,286件(2016年12月1日現在)であるのに対し、英語だと273件と1桁少なくなってしまう。求人公募の段階でさえ、日本語ができないことでこれだけのハンディキャップがあるが、応募、面接、採用に至るプロセスではさらに高いレベルの日本語能力*3を求められるのが現状である。

外国人博士課程留学生、特に英語だけで研究を行う外国人は、日本での雇用機会を見つける段階に限っても、少なくとも次のような課題に直面する。

①就職活動開始に最低限必要な日本語力の獲得と、研究時間との両立

②キャリアコンサルティング等のキャリア支援サービスへのアクセス

③博士人材の求人に特化し、英語でも検索可能な求人検索システムなどを通じた企業との接点獲得

実際には、このほかにも企業における博士人材活用の方法や、明文化された職務記述書の整備、個人業績評価プロセスの見える化など、外国人研究者を安定的、継続的に活用していくために特に雇用者の側で解決すべき課題は多いが、それは別の機会に譲るとして、ここでは上記3点の課題について本学における具体的施策を交えて議論してみたい。

同じ土俵に上るために

博士後期課程に学ぶ留学生にとっての最優先命題は、優れた研究成果を挙げて博士号を取得することである。このため、英語のみを使用して外国人留学生が博士号獲得を目指す研究室では、来日直後から活動時間を全て研究に充てている。従って、日本語習得を希望する留学生は、日々の研究時間を工夫し、毎日少しずつ時間をかけて自習していくことが一つの解決策となる。本学では希望する外国人留学生に対して、日本語のeラーニングを無料で提供するほか、電話を使って受験のできる、日本語会話力テストを定期的に実施し、自己研さんのできる環境を提供している。さらに、卒業間近になって日本語習得に取り組んでも、就職活動に必要な語学力の獲得が難しいため、入学直後のオリエンテーション(写真1)などの機会を活用し、早期に日本語習得の自習を始めることを勧めている。

写真1 留学生向け全学オリエンテーション(2015年10月)


次に、第二の課題であるキャリアコンサルティングについて述べる。博士人材の就活は新卒一括採用という日本特有の採用慣行に縛られず、経験者採用と同様に通年で行うことができる*4。この場合、博士人材の持つ専門性と汎用(はんよう)性が、目指す企業の中長期戦略とどのようなシナジーを生み出すかを本人がしっかり自覚し、明確に説明できることが重要になる。外国人博士留学生の場合は特に自己分析、自己探索を入念に行い、企業の成長ビジョンと本人の特性との関連性、整合性を見いだしていくような関わりが重要である。このためには欧米流のカウンセリング理論をベースに、日本市場の特性に合ったコンサルティングのできる有資格者による対応が効果的だと考えている。本学では国家資格の有資格者(キャリアコンサルタント)が英語および日本語で面談しており、昨年度は70件の個別対応を行っている。

最後に第三の課題である企業とのマッチングの仕組みについて述べてみたい。本学では二つの取り組みを試行中である。第一は外国人博士課程留学生が目的とする企業に宛てた「雇用提案書」を作成し、大学経由で相手企業のキーパーソンに提出する、という試みである。これは、海外では普通に行われている「カバーレター」と「レジュメ」を企業向けに直接送付するのと似通っているが、大学の持つ企業とのネットワークを活用することにより、成功確率が高まることが期待できる。第二は「研究室カタログ」である。外国人博士課程留学生を擁する本学研究室の研究概要と、その研究室に属する外国人博士課程留学生の出身国、年次の情報を一つの研究室につき1枚にまとめ、部局別に整理したカタログを作り、企業に配布している。博士課程留学生の研究分野は、独自性を極めるために非常に先鋭的になっていて、企業の求める研究分野とぴったり重ねるのは難しい。このため、所属研究室という大きなくくりでの研究分野紹介と出身国情報を組み合わせることで、企業側での研究人材活用のきっかけになることを期待している。

今後の展望

英語だけで研究を行う外国人博士課程留学生というインバウンドは、今後も増加することが見込まれる。従って、大学院としてはこれら留学生の卒業後のキャリア形成、すなわち出口戦略について真剣に取り組まなければならない。一方で外国人留学生、特に博士課程留学生という非常に魅力のある高度人材が、日本での就労を望んでいるという声は非常に小さい。だから、その小さな声を拾い上げ、まとめ上げていく工夫が必要だと考えている。

米国主要大学の大学院には、学部生のキャリア支援組織とは別に、PhD・ポスドクのキャリア支援を専門に行う組織がある。その専門官同士の連携組織(Graduate Career Consortium)も形成され、ベストプラクティスの研究や情報交換が行われている。今後は日本国内の各大学院で留学生向けのキャリア支援を行う専門官や担当官が相互に連携し、情報共有を図るとともに、マッチング施策についての情報をより多くの企業と共有する仕組み作りに取り組んでいきたい。

日本に留学のできる外国人、特に博士課程留学生は、出身国において大変優秀であるだけでなく、経済的にも恵まれたエリートが多い。その中で、日本での滞在、就労を希望してくれる留学生の多くは、日本が大好きである。大学院キャリア支援専門官同士の連携や企業とのマッチング・ネットワーク拡大により、日本が大好きな外国人エリートを社内に取り込み、企業の成長と個人の成功をともに達成させる、そういった実例を増やしていけると信じている。

●参考文献

1.
科学技術・学術政策研究所第1調査研究グループ.“「博士人材追跡調査」第1次報告書―2012年度博士課程修了者コホート―”.科学技術・学術政策研究所.
http://data.nistep.go.jp/dspace/handle/11035/3086,(accessed2016-12-15).

2.
独立行政法人日本学生支援機構(JASSO).“平成27年度外国人留学生在籍状況調査等について”.独立行政法人日本学生支援機構.
http://www.jasso.go.jp/about/statistics/intl_student/data2015.html,(accessed2016-12-15).

3.
株式会社DISCOキャリタスリサーチ.“「外国人留学生の採用に関する企業調査」アンケート結果<2015年11月調査>”.株式会社DISCOキャリタスリサーチ.
http://www.disc.co.jp/uploads/2015/12/2015kigyou-gaikoku-report.pdf,
(accessed2016-12-15).

4.
北海道大学総合IR室.平成27年度北海道大学ファクトブック.

5.
北海道大学人材育成本部.
http://www2.synfoster.hokudai.ac.jp/cgi-bin/index.pl?page=index&view_category_lang=1,(accessed2016-12-15).

*1
2020年を目途に30万人の留学生受け入れを目指す。

*2
徹底した国際化と大学改革により、わが国の高等教育の国際競争力を強化することを目的に、世界レベルの教育研究を行うトップ大学や、先導的試行に挑戦しわが国の大学の国際化を牽引(けんいん)する大学などを2015年度から10年間継続して支援する。北海道大学はタイプA13大学の一つ。

*3
具体的には国際交流基金と財団法人日本国際教育支援協会が主催する日本語能力試験(JLPT)のN2以上。

*4
日本経済団体連合会「新規学卒者の採用・選考に関する倫理憲章」の対象外であるため。