2016年12月号
特集 - 外国人留学生のキャリア支援
早稲田大学の外国人留学生へのキャリア支援と課題

佐々木 ひとみ Profile
(ささき・ひとみ)

早稲田大学 キャリアセンター長


日本で最も留学生の多い早稲田大学

早稲田大学(以下「本学」)の留学生数は2015年11月時点で5,084人、国籍数は105カ国に広がり**1、受入留学生数では国内大学1位となっている(表1)。2004年に開設した国際教養学部では3人に1人が外国籍学生であり、留学生はもはや特別な存在ではなく、日常の風景に溶け込んでいる。

表1 日本学生支援機構「平成27年度外国人留学生在籍状況調査結果」より「留学生受入れ数の多い大学」(2015年5月1日現在、上位15大学)


本学は創立2年後の1884年には初めての留学生を受け入れ、安保闘争が吹き荒れる1963年には米国から交換留学生を受け入れるなど、いち早く留学生に門戸を開いてきた長い歴史を持つ。彼らがやがて母国の政界や経済界、学界のリーダーとして活躍してくれたことが、現在の本学の知名度につながっている。

本学の留学生施策がさらなる進化を見せたのは、創立125周年を迎えた2007年であろう。「早稲田からWASEDAへ」というスローガンを掲げ、グローバル化を明確な大学方針に据えた。現在は、創立150周年となる2032年に向けた中長期計画「Waseda Vision150」**2を発表、受入留学生を1万人、在学生は全員海外留学経験を持つことを目指している。

また、もう一つの契機は政府の「留学生30万人計画」**3推進施策による大学支援事業「グローバル30」において、全国13大学の一つに採択されたことである。この事業を機に、すでに高い評価を得ていた国際教養学部などの英語のみで学位の取れる教育プログラムを学内に広げ、現在、政治経済学部、理工3学部、社会科学部など6学部13研究科(大学院は一部博士課程のみ)に開設されている。留学生のキャリア支援も、英語学位プログラムの入学者が増加するに伴い、従来とは日本語力や職業観などが異なる多様な留学生への対応が求められるようになってきている。

日本で就職を望む留学生

留学生数の増加に伴い、彼らの進路状況は大きく変化してきた。「留学生は卒業後、帰国を希望しているのでしょう」という質問をよく受けるが、経済産業省の調査**4では、大学卒業・修了後すぐに日本での就職を希望する学生が65%を超えている。本学の2015年度新入外国人留学生(4月、9月)の進路調査でも、55.8%の学生が卒業・修了後すぐに就職したいと回答し、そのうち日本での就職を考えている者は74.9%に上る。さらに就職先の企業の希望は、外資系企業46%、日本企業38%、出身国企業16%の順に多かった(表2)。つまり、留学生の半数以上は卒業後に日本で働くことを望んでおり、就職先は必ずしも出身国企業にこだわっていないことを示している。

表2 早稲田大学キャリアセンター「新入外国人留学生の就職に関する意識調査」


一方、企業側の留学生に対する求人件数も年々増加している。本学に対する求人のうち、「留学生」応募可としていた求人は、2010年卒対象が1,016社、全体の18.6%に対し、2016年卒対象では2,792社、全体の36.0%であった。5年間で求人件数が約2.7倍、全体求人に占める割合がほぼ2倍と急増している。求人企業の所在地も47都道府県全県に及んでおり、従業員数による規模別でも50人未満から1万人以上まであらゆる規模の企業が含まれている。この数字から、留学生の就職機会が広がってきていることがうかがえる。

では実際の就職結果はどうか。早稲田大学2015年度調査では、進学が18.2%、就職が46.4%、さらにそのうち日本で就職した者が36.0%、日本国外で就職した者が10.4%であった。2009年度と比較すると、6年間で日本で就職する者が3.7倍と飛躍的に伸びている(図1)。

図1 早稲田大学海外留学生の進路-日本での就職率の変化-

業種では、メーカー(30.0%)、情報通信(20.5%)、専門サービス(17.3%)、金融(9.5%)、商業(8.7%)が多く、本学の日本人学生と同じ傾向を示している。特に近年は外資系コンサルタントやIT企業が積極採用しており、2015年度に本学で最も留学生の採用数が多かった日本IBM株式会社では、本学出身者の採用数全体のほぼ半数(49.3%)が留学生であった。

地域別では、本学の新卒留学生の採用実績を持つ企業の所在地は東京を中心とする大都市圏に集中している。規模も1,000人以上の企業が45.0%を占めるなど、求人企業の広がりとは逆に限定的となっている。

日本就職の壁と早稲田大学の留学生キャリア支援

本学の留学生の就職状況は、数字だけ見ると一見問題が無いように見える。しかしながら、入学時に日本での就職を希望する者が6割近く存在していることを考えると、最終的に日本での就職に結び付かなかった2割の中に少なからず課題が存在しているものと思われる。

本学キャリアセンター(以下「本センター」)では、原則として日本人学生と同じサービスを提供しつつ、留学生が困難に感じやすい部分を重点的にケアしながら、多様なプログラムを展開している(表3)。その経験から、日本で働きたいと考える留学生のキャリア支援においては、「日本式の就職活動」「日本における働き方」をいかに理解できるかが重要であると感じている。

表3 早稲田大学キャリアセンターにおける留学生キャリア支援


ここでは、特に「日本企業」への就職に際して留学生が感じる「壁」を中心に、本センターとしてどのように対応しているかを紹介したい。

1. 就職活動の仕方

本学の2015年度の留学生進路調査では、卒業時に「就職活動中」「未定」と報告するものが27.0%に及ぶ。アジアも含め多くの国では、大学生の就職活動は卒業後、あるいは卒業が確定してから行われる。日本のように卒業の1年ないし1年半前から、授業も出席できないほどに就職活動に没頭することはほとんど見られない。また、学位取得を目的としている留学生にとっては、日本語のハンディキャップもある中で日々の学業や生活を優先し、同時進行で就職活動をこなす余力が無いという側面もある。そのため留学生の就職活動時期は遅れがちで、新卒一括採用の日本では機会を逸しかねない。本センターでは、留学生に対しガイダンスやセミナーを通じて、日本式就活の流れや選考方法について、知識と実践を併せて丁寧に説明するよう心掛けている。

2. 日本語能力

留学生の日本企業就職における最大の壁が、日本語能力である。企業は留学生に「ビジネス日本語」レベルを求め、日本人と遜色ないコミュニケーション力を期待する。いくら能力があっても、日本語ができないと現場が困るという理由で、留学生採用に躊躇(ちゅうちょ)する企業も少なくない。本学では、留学生に対し日本企業就職には日本語が必須であることを強調し、在学中に可能な限りレベルを上げておくことを勧めている。また、本学の日本語教育研究センターには「就職のための日本語」「職場でのコミュニケーション」などの選択科目があり、就職に役立つ実践的な日本語を学ぶ機会が多く提供されている。また日本語教育研究センターと本センターが連携して、授業の一環として授業履修者に就職活動セミナーを行うなど、日本就職を目指す留学生の日本語力向上に取り組んでいる。

3. 採用条件と人材育成方法

日本企業は、将来性を見込んで新卒学生を採用し、企業で教育・育成をするため、求人票には「学部(専門)不問」「経験不問」の文字が並ぶ。一方で多くの国では、専門性を持った即戦力として雇用されるため、新卒であっても大学で学んだ専門知識や経験が問われる。そのため留学生には、日本企業の求人がどのような能力を求めているのか、自分は応募に値するのか否かが判断しにくく、また不採用になる理由が不透明に感じやすい。

また、昇進・昇給に関する社会的通念の違いも「壁」となりやすい。多くの海外の企業では、年齢問わず能力のある者が責任ある仕事を与えられ、同時にそれに見合う報酬を得るという考え方が一般的である。そのため留学生は、早く成果を出そうと努力し、また高い評価を得たならそれなりの役割や待遇が与えられると期待しがちである。日本企業の「年齢が上だから地位が上」「周囲と合わせる」という考え方はむしろ不公平に映り、日本企業で長期間働き続けるモチベーションが見いだせなくなる留学生も少なくない。

本センターでは、日本的人事制度の背景にある「長期雇用を前提とした日本式人材育成の考え方」をしっかりと説明するように意識している。

日本企業への就職を増加させるために

現在の「留学生30万人計画」は“アジア、世界との間のヒト、モノ、カネ、情報の流れを拡大する「グローバル戦略」を展開する一環として”位置付けられ、入学から就職まで、企業・大学・関係省庁の産学官が総合的・有機的に連携して推進すべきと提言している**3。これは、日本の留学生施策が「文化戦略」から、加速化するグローバル社会における「社会経済戦略」に変化したことを示しているといえよう。

留学生数は世界における日本のプレゼンスを示すバロメーターでもある。日本社会に対する関心や期待が相対的に下がると、留学希望者も減少してしまう。逆に留学生が増えれば日本理解者が世界に広がり、日本の存在価値を伝える重要な存在となる。現在の日本社会がグローバル化のギアをさらに一段押し上げ、留学生数を増加させるために手を付けるべきこと、その一つが、高等教育機関で受け入れた留学生が日本社会で活躍できる体制の確立ではないだろうか。

しかしながら、2020年までに30万人の留学生受入計画を達成することは、決して容易ではない。2010年ごろは留学生を日本人とは別枠で積極採用しようという機運があったように思う。しかし現在は、「日本人と同じプロセス、同じ選考を行う」企業が大半になり、「留学生熱」は一気に冷めてしまったかのように見える。この状況を打ち破るには、産学官が一体となって取り組む必要がある。

大学等高等教育機関は、社会のリーダーとなる留学生・日本人双方に対し、グローバル視点と世界で協働できる力を修得させ、企業はグローバル人事施策の導入や社員教育に取り組む。官は留学や就業を促進する法制度の緩和やインフラ整備、長期的な多様性ある社会のための初中等教育制度を検討するなど、それぞれが取り組むべき課題が存在する。

●参考文献

**1
外国人学生在籍数. “統計データ”. 早稲田大学 留学センター.
https://www.waseda.jp/inst/cie/center/data#anc_4. (accessed2016-12-15).

**2
“Waseda Vision 150”. 早稲田大学.
http://www.waseda.jp/keiei/vision150/. (accessed2016-12-15).

**3
“「留学生30万人計画」骨子の策定について”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/20/07/08080109.htm. (accessed2016-12-15).

**4
新日本有限責任監査法人. 平成26年度産業経済研究委託事業(外国人留学生の就職及び定着状況に関する調査)報告書. 経済産業省, 2015. 233p.