2016年12月号
単発記事
食の臨床試験システム「江別モデル」―食と健康のイノベーション―
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西平 順 Profile
(にしひら・じゅん)

北海道情報大学 医療情報学部 教授



健康情報科学研究センターの概要

北海道情報大学(以下「本学」)では、2009年に文部科学省の知的クラスター創成事業*1「さっぽろバイオクラスター“Bio-S”」で立ち上げた食の臨床試験システム「江別モデル」を実施・推進するため、健康情報科学研究センターを設立した**1

2013年には、本学の附置機関として承認され、「食と健康と情報」を教育・研究テーマとした学術の幅広い活動拠点となった。食の臨床試験に加えて、グローバル人材教育プログラム「グローバルヘルスリテラシーコース」を2014年から開講し、地域のみならず国外でも健康情報の発信ができる人材育成に取り組んでいる(図1)。また、北海道、江別市、公益財団法人北海道科学技術総合振興センター(ノーステック財団)などとも連携し、地域力(ソーシャルキャピタル)を生かした健康増進、医療費抑制や、健康・情報産業の発展にも取り組んでいる。

図1 北海道情報大学健康情報科学研究センター概略

江別モデルの概要

「江別モデル」は、食の臨床試験システムとしてスタートしたが、現在では地域住民の疾病の予防や、健康増進を推進する情報通信技術(ICT)システムを導入している。道内、道外の食の機能性素材について、科学的エビデンスを取得するため、住民ボランティアを対象にした食の臨床試験を実施し、食の機能性と健康に関するデータを集積し、データベース化、論文化を実現してきた(図2)。食生活の改善を中心にした、総務省の地域健康情報ネットワーク「戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)」とも連結し、ボランティアの健康管理、医療機関との情報共有に取り組む。最近、市内に設置された健康チェックステーションとの機能連携も進め、地域の健康増進の活動にも力を入れている(健康カード事業)。将来、このモデルを国内のみならず、国外との連携にも活用できるよう計画中である。

図2 江別モデルの概略

構築(開発)のきっかけと経緯

北海道には、疾病予防や健康維持、運動効果の向上に良いとされる豊富な天然資源があり、またバイオ産業も急成長している。しかし、素材出荷型で付加価値が低いことから、高付加価値の食品素材や商品の開発が求められていた。そのため、食品の高付加価値化による、北海道の食関連産業の振興を目的とした取り組みが必要だった。同時に、保健機能の表示を求める消費者ニーズに対応した適切な情報提供も必要だった。

産学官連携で江別市に立ち上げた「江別モデル」は、低コストかつ高品質で、機能性食品の科学的エビデンスを蓄積し、健康の維持・増進に有用な機能性食品の開発、および健康増進と予防医療を統合したヘルスケアシステムのモデルづくりとして位置付けられている。現在、北海道独自の食品機能性表示制度“ヘルシーDo”を推進し、グローバルフードバレーの構築による地域創生を目指している**2

事業開始から現在までの成果

2016年9月現在、登録ボランティアは約6,500人に達し、55件以上のヒト臨床試験を実施している。また、「江別モデル」は、2012年度に指定された北海道フード・コンプレックス国際戦略総合特区(札幌市江別地区)でも、食の機能性評価機関として活用され、北海道の食科学および食品産業を推進する地域基盤として成長した。最近では、北海道にとどまらず、食機能の評価システムとして全国的にも知られ、国内の多くの機能性素材の臨床試験を実施している。

このように「江別モデル」は、食素材の探索、細胞や動物を用いた機能性評価、安全性評価など、一連の試験を終了した食品を対象に評価する「食のバリューチェーン」の中でも重要な役割を担い、地域イノベーション戦略における食機能の認証評価として、地域食産業の振興に大きく貢献している。機能性素材の探索、機能性予測スクリーニング、機能性確認、安全試験、ヒト試験「江別モデル」が実施され、北海道食品機能性表示制度として高付加価値の製品(ヘルシーDo)として認定される流れになっている(図3)。

図3 地域イノベーション戦略と江別モデル

一方、疾病予防や健康増進については、江別市内11カ所に整備した健康チェックステーション(血圧、体重、活動量などを測定)の機能と連動させ、統合された臨床データ(eヘルスポートフォリオ)を活用することで、住民の健康意識(ヘルスリテラシー)の向上に取り組んでいる(図4)。このように「江別モデル」は、食の臨床試験に加えて、住民の健康意識の向上を促し、食による健康増進を推進する先進的な取り組みとして、全国から注目されている。

図4 健康情報ネットワーク

今後の展望

2015年度の国の新たな食品機能性表示制度の導入に伴い、研究機関や企業は、これまで以上に機能性食品の研究開発に取り組んでおり、「江別モデル」にも関心が高まっている。2009年から「江別モデル」を運用して多くの食の臨床試験を実施してきたが、これまで積み重ねた経験と実績を基礎に、より質の高い科学的エビデンスに基づいた臨床試験を実施していきたい。

「江別モデル」を運営する健康情報科学研究センターは、マスタープランナーとして食品開発や健康情報のニーズ(食品サービス、健康づくりサービス、コミュニティサービス、介護予防サービス)に継続的に応えるため、「江別モデル」を社会基盤として定着させる計画である**3

今後、産学官の強い連携により、安定的に地域に貢献できる食の評価機関および地域の健康増進システムとして発展させていきたい。

●参考文献

**1
西平順.食材の臨床試験とその拠点作り.マテリアルインテグレーション.株式会社ティー・アイ・シー.2011,vol. 24,no. 07,p. 36-38.

**2
西平順.北海道における独自の食品機能性表示制度とヒト介入試験.食品加工技術:日本食品機械研究会誌.2014,vol. 34,no. 2,p. 72-78.

**3
西平順.ヒト介入試験“江別モデル”の活動とグローバルトータルヘルスサービスへの展開.グリーンテクノ情報.2016,vol. 11,no. 4,p. 19-24.

*1
現イノベーションシステム整備事業。2010年度より、知的クラスター創成事業、都市エリア産学官連携促進事業、産学官連携戦略展開事業が「イノベーションシステム整備事業」へ一本化された。