2016年12月号
単発記事
デザインパテントコンテストで知財を学ぶ
―大分県立芸術文化短期大学の挑戦―
顔写真

野田 佳邦 Profile
(のだ・よしくに)

大分県立芸術文化短期大学 情報コミュニケーション学科・講師(弁理士)


大分県立芸術文化短期大学(以下「本学」)は九州唯一の公立短期大学であり、特に芸術系と人文系の学科を備えている点が特徴的で、4学科(美術科・音楽科・国際総合学科・情報コミュニケーション学科)および2専攻科(造形専攻・音楽専攻)から構成される。教員数は約50人、学生数は約900人という比較的規模の小さな大学ではあるが、むしろ小規模であることを生かし、学科横断的な幅広い教養教育や担任制による学生支援を実現している。

大分県立芸術文化短期大学の産学官連携

本学は、各学科の特色を生かすことで地域貢献と学生教育の両方を狙った活動を実施している。例えば、学生が県内各地の小学校を訪れて子どもたちと一緒になって作品作りを体験する「地域ふれあいアート講座」(美術科)、学生と教員が県内各地の小中学校で演奏会を開き、クラシック音楽の楽しさや素晴らしさを伝える「地域巡回演奏会」(音楽科)、毎年11月に開催される大分国際車いすマラソン大会において、学生たちが通訳ボランティアを行う「大分国際車いすマラソン大会の運営ボランティア」(国際総合学科)、県内各地に出掛け、そのコミュニティーのニーズに応じた活動を行うことで、大学で学んだことを地域で生かし、活動することで学びの意義を知る「サービスラーニング」(情報コミュニケーション学科)などである。

特に、情報コミュニケーション学科のサービスラーニングは「産」「官」と協力して行う活動が多いため、いわゆる「社会貢献系産官学連携」**1に分類され、広い意味では産学官連携活動に該当する。

また、契約金額は小規模だが、美術科では教員および学生が、産業界や自治体などからデザイン開発を受託する機会がしばしばあり、大学全体で見ると、契約を伴う事業系産学官連携も年間数件から十数件の規模で実施している。学生が生み出したパッケージデザインが企業に採用され、コンビニエンスストアで販売された実績もある**2

このように、本学では学科構成の特性上、特許権よりはむしろ著作権、意匠権、受託契約などに関するマネジメントが必要とされる。しかし、総合大学のように産学官連携分野のマネジメントの専門的機構や、専任スタッフを設けることはリソースの点から困難である。

そのような事情から、これまで大学として意匠登録出願などの権利化手続きを行った実績はなく、学内で創出される知的財産(以下「知財」)の管理ポリシーも明確には規定されていない。産学官連携活動で知財が創出された場合については個々の契約において管理している。本学の現状に鑑みると、教員、事務職員、学生を含む大学全体としての知財マインドの向上が当面の課題である。

デザインパテントコンテストとは

デザインパテントコンテスト**3は、高校生、高専生、大学生の知財制度の理解向上を目的として、文部科学省、特許庁、日本弁理士会、独立行政法人工業所有権情報・研修館が開催するコンテストであり、入選した創作については意匠登録出願の支援が受けられる。2009年度から毎年開催されており、特許権を対象としたパテントコンテストと同時開催という形をとっている。

学生がコンテストに応募する場合の簡単な流れ

①映像コンテンツの視聴または意匠制度セミナーの受講により意匠制度を学ぶ
②自分で物品のデザイン(ただし、意匠法の保護対象となるもの)を創作する
③創作したデザインを応募書類に記載して応募する
④選考の結果、優れたデザインが表彰される
⑤表彰された学生のもとに弁理士が派遣され特許庁に意匠登録出願を行う

社会人となる前に実際の意匠登録出願を経験できる点、意匠登録出願に掛かる費用(出願料、弁理士費用)および意匠権を取得できた場合の登録料(2016年度コンテストでは3年分)を主催者に負担してもらえる点が大きなメリットである。

2015年度デザインパテントコンテストの取り組み

本学は芸術系・人文系から構成されるため、当コンテストと相性が良いのではないかと考え、2015年4月に着任してすぐに学内で呼び掛けを開始した。本学はこれまで当コンテストへの応募経験が無かったため、最初は他の教員および学生に対してコンテストの趣旨と概要を説明することから始めた。コンテストへの呼び掛けを行う意義として、人文系の学生には、情報リテラシー教育の一環として知財制度にも関心を持ってもらいたい、芸術系の学生には、作品を作るだけではなく生み出した作品を適切に保護および活用する意識を持ってもらいたいという狙いがあった。

呼び掛けに当たっては、コンテストの趣旨やメリットはもちろんであるが、「十分に勝負できるコンテストであること」を強調するよう心掛けた。そのためには具体的な過去の入選作品を見てもらうことが効果的である。コンテストの公式サイトに公開されている入選校、入選者名、作品名称の情報からは具体的な入選作品をイメージすることが困難であったため*1、J-PlatPat**4の意匠公報検索などを利用して調査を行い、意匠登録公報の図面を紹介するなどして、入選作品の創作レベルや作品ジャンルの多様性を把握してもらうよう努めた。その結果、6月には美術科デザイン専攻の2人の学生が応募の意思を固め、主に夏休み期間を利用して応募に向けた指導を行った(写真1)。創作や六面図の作成に関する部分は美術科の教員が担当し、知財制度の説明や応募書類作成に関する部分は私が指導するという役割分担で進めた。

写真1 応募に向けたミーティング

結果、1人の作品が入選し、学内における取り組みが評価され、本学も「文部科学省科学技術・学術政策局長賞」を受賞した(写真2)。入選学生については、意匠権取得へ向けて弁理士指導のもと意匠登録出願を行ったところであり、2016年9月現在、特許庁の審査結果待ちである。

写真2 2015年度デザインパテントコンテスト表彰式

コンテストの効果

コンテストの効果として、実社会における活躍を意識した実践的な活動ができる点がある。学生は自分の力でアイデアを出し、他者を意識してそれを文章や図面で表現する。そして、デザインを保護・活用するための知財について学び、権利化についての実務を知る。その際、他者の権利に抵触しないよう注意しなければならないという意識が芽生え、必要となる先行意匠調査の手法も学ぶ。短期大学は2年間という短い時間で社会に出るための学生を育てるところであるから、このような実践的教育を行うことのできるコンテストの存在は大変貴重である。

また、学内で知財意識の変化が見られたこともコンテストの効果である。コンテストの周知活動を通じて、ものづくりを行う多くの学生が意匠権について知るきっかけをつくることができ、さらに、実際にコンテストに応募した学生に対しては、制度内容や手続き面のより深い部分を指導することができた。入選した学生はコンテストを振り返って、今までに無いものを考えるのが難しかったこと、ものづくりを行う上でマーケティング調査だけでなく、先行意匠調査を行う視点が身に付いたことを述べている**5。コンテスト応募に向けた書類作成を通して、ユーザーニーズ志向のものづくりから一歩進み、創出するデザインの適切な保護・活用を意識したビジネス的視点が得られたことがうかがえる。すなわち、単にプロダクトアウトかマーケットインかということではなく、他者の権利を尊重するビジネスルールや自身のデザインをビジネスに結び付けるツールとしての意匠権を理解した上でものづくりを行う、そのような新しい意識が芽生えたといえる。

さらに、応募した学生だけでなく、大学としても知財マインドの向上が見られた。コンテストの周知や結果報告を行う過程で、学内に「知的財産」あるいは「意匠権」というキーワードを広めることができたため、同僚である教職員から知財に関する実務的な相談を受ける機会が増えた。また、独創的な創作品を完成させ卒業後にビジネス展開を考えている学生から、意匠権や実用新案権の相談を受けることもあった。知財を専門とする教員が学内に存在する事実が認識されただけでも大きな効果であったといえる。

デザインパテントコンテストへの初めての取り組みは、本学の新しい魅力と可能性を引き出すきっかけになったと同時に、今後本学における芸術系・人文系の産学官連携活動、特にクリエーティブな分野における活動を活性化していく上で土台となる学内の知財マインド向上に大きく役立った。

両面指導の実現と今後の展望

2015年度の取り組みを振り返ると、デザインと知財の両面指導を実現できた点が特徴的であったと感じる。例えば芸術系の大学で、デザインの教員が当コンテストの指導を行うことはあるが**6、デザインの教員と知財の教員が2人体制でそれぞれの専門領域の指導を行ってコンテストに臨むことは珍しいのではないだろうか。両面指導によって、デザインと知財という二つの専門領域の教育効果がシナジーとして期待できる。私は知財の人間なので、知財マインド普及の難しさを承知しているつもりであるが、当コンテストで知財面を指導するという形を取ることにより、結果的に学内外に知財の存在や重要性をアピールするいい機会となった。

総合大学には知財専門の教職員がいる場合があるので、コンテストの呼び掛けという形で、知財側から専門学部側に積極的にアプローチしていくことは有効な手法であると考える。デザインパテントコンテストと併せてパテントコンテストも呼び掛けの対象とすれば、学内のあらゆる分野との連携が期待できる。

デザインの権利化が実現すれば、県内の公的機関を活用してマッチングを図り、地域の産業界との連携を行うことでビジネス化を進めていく予定である。2016年度もデザインパテントコンテストの応募者を募り、夏期休暇を活用してコンテストへの応募指導を行い、学生2人が応募済みである。2015年度の反省点は、学生へコンテストの応募を呼び掛けた際に、意匠制度の内容についてはごく簡潔に紹介するにとどまったことである。応募を決めた学生にはミーティングの場で意匠制度について教えることができたが、この手法では意匠制度を学ぶことのできる学生がコンテスト応募者に限定されてしまう。そこで2016年度は、学内でコンテストの説明会を開催し、説明会に参加した学生にはコンテスト応募の意思に関わらず意匠制度を学んでもらう形式とした(写真3)。今後も過去の取り組みを振り返りながら改善していきたい。

写真3 2016年度デザインパテントコンテスト説明会

おわりに

産学官連携活動におけるデザイン分野の活躍はますます期待されている**7。実施件数は増加傾向にあるが、美術・デザイン系大学に関しては、国立・総合大学と比較して、知財管理体制の整備不足、契約交渉や学内規程に関するマネジメント不足**8が指摘されている。実務上の観点から知財に関する意識は必要不可欠であるため、大学の規模や産学官連携の実施件数に関わらず、教職員・学生を含む全学的な知財マインドの向上が急務である。しかし、課題意識はあっても解決の糸口がつかめない教育機関も少なからずある。その観点からも、デザインパテントコンテストは、教員・学生を含めた大学全体の知財マインドの底上げに貢献する可能性を秘めている。「素晴らしいデザインでコンテストに入選して意匠権を得る」という分かりやすい目標を掲げることで、学内に広く知財を意識させることが可能であり、本学のように知財そのものの認識率向上を課題とする教育機関にとって、その課題解決に有効な取り組みであると実感している。

●参考文献

**1
南了太. 人文社会科学系産官学連携の一考察. 産学連携学会第14回大会予稿集. 2016年6月. p. 104-105.

**2
大分県職員研修所. “平成23年度「地域政策スクール」研究報告書”. 公益財団法人大分県自治人材育成センター.
http://ojic.or.jp/wp-content/uploads/2010/08/bd76825dc120bf0fd120afb580ead1ad.pdf, (accessed2016-12-15).

**3
“デザインパテントコンテスト”. 独立行政法人工業所有権情報・研修館.
http://www.inpit.go.jp/jinzai/contest/design_patent/, (accessed2016-12-15).

**4
“特許・実用新案、意匠、商標の簡易検索”. J-PlatPat 特許情報プラットホーム.
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/all/top/BTmTopPage, (accessed2016-12-15).

**5
“デザインパテントコンテストの入選学生による意匠登録出願が終わりました”. 大分県立芸術文化短期大学.
http://www.oita-pjc.ac.jp/news/detail/820, (accessed2016-12-15).

**6
森下眞行. デザインパテントコンテストのデザイン教育での効果と課題. 月刊パテント. 日本弁理士会. 2013,vol. 66,no. 2,p. 55-62.

**7
“特集 デザインの力で地域活性”. 産学官連携ジャーナル2016年6月号.
https://sangakukan.jst.go.jp/journal/journal_contents/2016/06/contents/1606_contents.html. (accessed2016-12-15).

**8
平成22年度特許庁大学知財研究推進事業. 大学発デザインの産学連携及びその保護の取り組みに関する研究報告書. 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社. 2011. 213p.

*1
2016年度からは過去の入選作品リストが画像付きで公開されている。