2017年4月号
シリーズ 十人十歴
—So many men, So many careers—
株式会社ALE代表取締役 岡島礼奈
流れ星を操る

流れ星を人工的に作り出す、壮大な計画を進める小さな企業がある。従業員10人ほどの株式会社ALE(エール)で、率いるのは代表取締役社長の岡島礼奈氏だ(写真1)。

写真1 株式会社ALE代表取締役 岡島礼奈氏

人工流れ星の仕組みはこうだ。流れ星の「素(もと)」となるビー玉ほどの小さな玉(写真2)を放出装置(写真3)にセットし、超小型衛星に積み込む。その衛星を打ち上げ、地上からおよそ100km上空の軌道に乗せる。衛星の周回などを計算し、放出可能な日時と見ることのできる場所の範囲候補を弾き出す。人工流れ星を見たい客は、見たい日時と場所の候補を「人工流れ星ダイヤ(運行表)」から選択する。人工流れ星は、選択した場所を中心に半径100kmの範囲で見ることができる。もちろん日本だけでなく、世界中どこでも見る場所を指定できる。

 

写真2 流れ星のもととなる金属

写真3 人工衛星に搭載する、放出装置のプロトタイプ

国立天文台によれば、「流れ星とは、宇宙空間にある直径1mmから数cm程度のチリの粒が、地球の大気に飛び込んできて、大気と激しく衝突し高温になってチリが気化し、チリの成分が光を放つ現象」と説明している。つまり、天然の流れ星はゴマ粒ほどの小さな粒で、地上からかなりの高さから高速で大気圏に突入するわけだが、この人工流れ星は、人工衛星の軌道上から放出するため、短い時間で燃え尽きてしまわないよう、天然の流れ星より大きめのビー玉サイズになっているというわけだ。当日の天候に左右されるが、炎色反応を利用し光に色を着けることもできる。

流れ星のもととなるこの玉は、特殊なものではなく誰もが知る金属のようだが、その発見は意外な偶然からだったという。

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、小惑星探査機「はやぶさ」のカプセルを燃やすために作った「アーク加熱風洞」という実験器具がある。大学などが共同研究で使用することができ、学生が近くにあった不要な金属を燃やしてみようとアーク加熱風洞に入れると、流れ星のように燃えたという。

学生時代に起業2回、就職1年

岡島氏は、鳥取県立鳥取西高等学校を卒業後、1年浪人して東京大学理学部天文学科に入学。同大学院理学系研究科天文学専攻修士課程に進み、2008年同博士課程を修了し、理学博士(天文学)を取得した。

大学生になって家庭教師のアルバイトをしたが、自分で教えるよりも家庭教師を派遣する方が稼げると、友人らで家庭教師の派遣ビジネスを起こした。しかし、その事業は軌道には乗らず失敗した。次は大学院在学中に、プログラマーを集めてゲームやアプリ開発、コンテンツ制作などを請け負う会社を設立した。自身はプログラミングができないため、仕事を回す仕組み作りとディレクション業務を中心に行った。学業の傍らにもかかわらず、売り上げが1億円規模に成長した。しかし、事業と学業は両立できないもので、仕事が忙しく成績は良くなかった。

大学院修了後、基礎科学分野に資金を流したいという思いから、資金の流通を学ぶため、2008年に天文学とは無関係のゴールドマン・サックス証券株式会社に入社し、証券戦略投資部で債券投資事業やPE業務などに携わった。

天文学研究において結果を出すには早くても5~10年かかるが、ビジネスでは数カ月で結果を出さなくてはならない。「会社に所属して仕事をすることに向いていないことを再認識した。とにかくルーティンが苦手。細かいことが駄目。きっちりと決められたことが苦手だった」と振り返る。そんなとき、リーマンショックが直撃。特に金融市場は冷え込んでいき、入社1年で退職した。

転職活動では相手にされず、さらに起業2回

それから転職活動をするも、1年という職歴では書類審査さえ通過せず、1億円売り上げた大学院時代の起業経験も学生のサークル活動のような認識しか持たれず、博士号を取ったことさえ後悔した。

そんな時、友人の誘いで日本企業の振興国進出を支援するコンサルタント会社のエルエス・パートナーズ株式会社に参加し、岡島氏は、会社の仕組みづくりを中心に副社長として腕を振るった。2009年30歳の時だ。その間、結婚し子どもを授かったが、インドなど新興国とは時差が大きくコミュニケーションが困難で、子どもを育てる環境ではなくなっていた。

その後、自分の好きなことをしようと2011年に現在のALEを設立し、32歳で独立。2015、16年と計7億円の資金を調達した。驚くことに、その資金の全てが「誰もやったことのない夢に賭けてみよう」という個人援助の投資だ。今は、資本金を食いつぶしている状態だが、ほかの収益源を確保しながらの併行事業は考えていないという。

自分で立ち上げた会社では、働き方は以前より自由になり、息子を保育園に迎えに行くため、午後6時半ごろには会社を出る。仕事と育児を両立させながらの生活だが、「スイングバイ」*1と同じように、同氏の魅力と人工流れ星の引力に、多くのメンバーが引き寄せられ、自主的に仕事を進めてくれている。

基礎科学に夢を

「通常、基礎研究は公的資金や、海外なら寄付金で進められています。人工流れ星は、宇宙エンターテイメント事業として収益を得ながら、基礎科学の発展に寄与したいと起業しました。現在もそれが経営ビジョンです」。ALEを立ち上げてからぶれることなく進んできた。

首都大学東京教授・佐原宏典氏、帝京大学講師(取材当時。現神奈川工科大学准教授)・渡部武夫氏、日本大学准教授・阿部新助氏、さらには昨年、東北大学大学院准教授・桒原(くわはら)聡文氏なども加わり、東北大学には同社の分室として部屋を借りている。彼らは基礎科学の分野が発展するのではないかと期待し、サポートしてくれているそうだ。

また、このプロジェクトには協力企業が複数社おり、ミッション部という装置周りや流れ星のもとを正確に放出する装置の開発や、テストなどを手伝ってくれるパートナーシップを形成している。噂を聞き付けた企業の中には、手弁当で協力してくれるところもある。「当社は産学連携やオープンイノベーションがすごくうまく回っている会社だと思います。とても良いパートナーシップを構築しているんじゃないでしょうか」と岡島氏。「小さな成功はいらない」という大胆な発想をするエンジェル投資家の期待を背負い、流れ星を載せた人工衛星は、2018年後半の打ち上げを予定しており、翌年初頭のサービス開始を目指している。2020年東京オリンピック・パラリンピックのオープニングには、この流れ星が花を添えるかもしれない。

これからの時代、キャリアは直線じゃない

フェイスブックCOO(最高執行責任者)のシェリル・サンドバーグ氏の言葉に、「キャリアは梯子(はしご)ではなく、ジャングルジムのようなものです」とあるが、岡島氏はそれを体感しているという。

別のキャリアや軸でダウンしたり横にずれたりする。これからは、誰もがそういう経験が必要だと感じるそうだ。起業やゴールドマンへの入社など、30代で相当の紆余(うよ)曲折を経験してきた同氏だが、「今の事業には、経験がすべて生かされている。履歴書にはすらっと書けますが、実際はジャングルジムのよう。一直線に行ける人は少ないのではないでしょうか」。若い研究者や起業家にエールを送った。

(取材・構成:本誌編集長 山口泰博)

*1
惑星の重力を利用して探査機などの軌道が変わること。