2017年5月号
特集 - 進化する情報メディア教育
AI搭載の対話型アニメーション教材「すらら」

中高校生向けの対話型アニメーション学習システムが、日本全国はもとより海外でも広がっている。それほど受ける理由は何なのか。

eラーニング教材の短所を補う「すらら」

小学1年生~高校3年生までの、英語、数学(算数)、国語の学習指導要領に準拠した学習範囲に対応する、対話型アニメーションeラーニングの学習システム「すらら」を導入する塾や学校が増えている。さらに、スリランカやインドネシアでも導入が増え、毎年1億円以上の売り上げ成長を実現している。

これまでのeラーニング教材の大半は、三つのタイプに分けられる。

一つ目の、カリスマ講師のレクチャービデオを視聴する「動画配信型」は、「理解」には優れているが「反復」がないため、やりっぱなしになりがちで実力が身に付かない傾向がある。また、一方的な説明となるため、学習者である子どもの意識が高くないと集中力が続かない。二つ目の、パソコンなどの画面上で問題集を解いていく「問題集型」は、「定着」に優れているが「理解」の部分がないため、学力の高い生徒でないと一人で学習を進めることが困難である。三つ目の、携帯用ゲーム機などを使って学習する「ゲーム型」は、楽しく学習できるが、単語など反復による暗記系が中心で、体系的な学習には不向きとされる。

「『すらら』はこうしたそれぞれの短所を補い、長所を相乗効果的に組み合せた次世代型教育システム」だと、株式会社すららネット(東京都千代田区)の代表取締役社長であり、教育再生実行会議有識者委員も務めた湯野川孝彦氏は説明する。

その特徴は、1単元が10~15分程度で、小さな階段を少しずつ上るような「スモールステップ」で構成され理解しやすく、随所で登場する先生役のキャラクターが投げ掛ける「理解度を確かめる質問」に答えながら進めていく、インタラクティブ授業だ。そのため、飽きずに適度な緊張感を持続し、楽しみながら学習を進めていくことができる。また、出題される問題の難易度を個々の理解度に応じて調整する「出題難易度コントロールシステム」で達成感と自信を深めながら学ぶことができ、「弱点自動判別システム」では、「なぜ分からない」のか、その理由を探ることができる。さらに、いつまでにどこまで学習するかといった「月1回の目標設定」や、学習でつまずいているところがないか「週1回の進捗確認」などで、生徒が継続して取り組めるよう現役塾講師がフォローしてくれる。クラウド型学習だからこそ、学習内容や正答率、設問を解く速さなども詳細に把握することができる。

B to B to Cで増え続ける導入塾

ネット環境があればどこでも学習が可能だが、メインの顧客は学習塾と主に中学校・小中一貫校で、「B to B to C*1」サービスの事業形態で全国約680の塾が「すらら」を導入している(写真1)。「すらら」導入に当たり、塾や学校は月額数万円程度の使用料を負担する。生徒にはそれぞれIDとPW(パスワード)が発行され、塾講師(先生)の指導を受けながら学習する。発行されたIDとPWは、塾内(校内)だけでなく、インターネット環境が整う各家庭のパソコンやタブレットでも利用でき、ゆっくりと予習や復習にも活用できる。家の近くに「すらら」を導入する塾や学校がなければ、利用者が月額基本料8,000円で個人利用も可能だ。使い方が分からない不安もあるが、全国の「すらら」導入塾に「すららコーチ」を委託しているので、学習方法などはそのコーチが教えてくれる。

写真1 「すらら」を導入している学校の授業(日本)

大学との共同研究

同社の産学連携のきっかけは、東日本大震災の避難所での学習支援を行うNPO法人アスイク(宮城県仙台市)と提携し、2012年に、被災地の学習支援センターへ「すらら」を提供したことに始まる。湯野川氏が、度々訪れていた被災地の仙台で東京大学の松井彰彦教授と知り合い、東京大学大学院経済学研究科助教だった萱場豊氏(現東京大学経済学研究科特任講師)とつながり、世界銀行の行動経済学者である田中知美氏と共に「すらら」を用いたビッグデータ分析研究プロジェクトを進めた。「当社の企業規模では、専任の研究開発要員の雇用は難しい。だから、外の大学や企業とのオープンイノベーションは積極的にすすめている」と湯野川氏。

そして16年に、「すらら」に人工知能(AI)を用いて生徒と対話する機能「AIサポーター」を搭載し、利用者のモチベーションへの影響を調査する共同研究を慶應義塾大学と開始した。三つのグループに分けた生徒群に対し異なる種類の対話を行い、生徒のモチベーションに与える効果について、教育経済学を専門とする慶應義塾大学中室牧子研究室と検証してきた。生徒の学習データに基づき、「AIサポーター」を「すらら」に搭載した。AIサポーターは、ICT教材では日本初の、生徒の個々の学習行動に応じて人工知能が対話を行う機能を備え、塾講師や学校の先生のフォローが行き届かなくても、生徒個人に合わせてAIが声掛けと対話を行う。また、塾講師や先生、生徒自身では気付かない生徒の学習行動を察知して適切なフィードバックを行い、生徒のモチベーションを高めようとするものだ。

AI機能は、株式会社NTTドコモが開発したチャットボッド作成・実行プラットフォーム(シナリオ対話・雑談対話システム)の「Repl-AI(レプルエーアイ)」を使用した。学習の1ユニット終了時にキャラクターが生徒に対しテキストで「声掛け」する実験を、全国150人ほどの「すらら」利用者を対象に6カ月間検証した。この研究の結果を用いて、「すらら」の人工知能を「努力を促す声掛け」を中心に変更し、17年4月から正式運用を開始、生徒の学習意欲の向上や学習習慣の定着を促す。

加速する海外展開

また、日本人向けの「すらら」を基に、海外用に作成された小学生向け算数の学習システム「Surala Ninja!」の企画・開発も行っている。スリランカでは、独立行政法人国際協力機構(JICA)の中小企業海外展開支援事業の採択を受け、貧困地域におけるeラーニングビジネスの可能性を確認し、「Surala JUKU」を事業化。「Surala Ninja!」を用いることで、教師のレベルに左右されずに効果の高い算数教育を低所得者層の子どもを中心に低価格で提供している(写真2)。

Surala Ninja! を活用するスリランカの学習塾 2015年開校から現在17校に

現地の授業の考え方は、「先生の仕事は教えること。理解するのは生徒の仕事。」というもので、教えて理解できない生徒はそのまま置いていかれ、分からない生徒はずっと分からない。「すらら」は、そのような落ちこぼれを作らない学習方法だから受けているともいえる。

また、日本の算数技能を学ぶと同時にパソコンの使い方が身に付くことや、日本流の規律や自立学習も教えることが現地の生徒や保護者から高い評価を受けている。さらに、「Surala JUKU」のファシリテーター(講師)として、教務経験のない現地の女性を積極的に採用し、訓練することで、女性の雇用機会創出にもつながっている。

「すらら」を世界に広げることで、貧しい子どもたちでも高品質な教育を安価に受けられるようにし、所得格差と教育格差の負のスパイラルを解決しようとする海外展開が加速中だ。

変わりゆく教材

日本では、少子化などで学習塾へ通う子どもが減り、「塾市場」に陰りが見える。同社の成長の陰には、「すらら」の仕組みの良さに加えて、タブレット端末などの普及でeラーニング市場が一気に広がったことや、「ブラックバイト問題」などによる家庭教師の学生アルバイト不足など、教育現場で構造変革が起きていることなども挙げられる。

このほか、静岡県浜松市の独立行政法人国立病院機構天竜病院の院内学級で「すらら」が導入されるなど、発達障害のある子どもの教育にも活用され始めている。対人不得手で、個別指導塾や集合塾でも効果が上がらなかった子どもも、自分のペースで勉強ができるため、成績が向上した例もあるという。

湯野川氏は、塾に通った経験はない。高校3年生のとき成績が落ち込んだが、たまたま巡り合った分かりやすい参考書を自学自習で最初からやり直し、盛り返したという。「優秀な教材があれば学力は向上するのです。インターネット時代のスーパー参考書、それが『すらら』です」と語った。

(取材・構成:本誌編集長 山口泰博)

*1
Business to Business to Consumerの略。