2017年6月号
研究者リレーエッセイ
データサイエンス学部設立に関わって
顔写真

竹村 彰通 Profile
(たけむら・あきみち)

滋賀大学 データサイエンス学部 教授、
データサイエンス教育研究センター長


日本初のデータサイエンス学部開設

滋賀大学では、ことし4月に日本初のデータサイエンス学部を開設した。定員は100人で、実際には110人の新入生が入学した。私は2年半ほど前からこの新学部構想に関わってきたが、昨年4月に滋賀大学専任となり、新学部の具体的な設立準備に専念してきた。

本学データサイエンス学部が構想より3年弱という短期間で実現したのは、この分野での日本の立ち遅れが、最近になって強く認識されるようになったからである。私自身の専門分野であり、またデータサイエンスの重要な要素である統計学について述べると、米国では100程度の統計学部・学科があり、さらに大学院レベルでは生物統計専攻が多く存在する。英国も50程度、韓国にも50程度、中国には300以上ある。これに対して日本には、統計学部・学科はこれまで一つもなく、本学は、統計学を体系的に学ぶ学部としても日本初である。

データサイエンスは「ビッグデータ」を対象とする新しい学問分野である。コンビニエンスストアのポイントカード、インターネットの通信販売、スマートフォンを用いたメッセージ交換などの利用により、大量かつ多様なデータがコンピューターネットワーク上に蓄積されるようになってきた。このようなビッグデータの蓄積は比較的最近のことであり、ここ10年ほどで世の中の情報インフラがすっかり変わってしまったように思われる。このビッグデータをうまく利用して、そこから価値を引き出し、新しい魅力的なサービスを生み出した企業が世界的に成功している。これらの企業はビッグデータ解析のスキルを持つデータサイエンティストを大量に採用している。最近のキーワードとなっている人工知能(AI)技術をはじめとして、ビッグデータからの価値創造のための技術開発に巨額の投資を行っており、日本との差はますます広がっている。

文理両面を併せ持つ分野

データサイエンスは新しい分野だが、その要素技術は統計学と情報学である。そして、理系的なものであるといえる。一方で、価値創造の余地の大きいデータは、比較的最近になって、直接観測できるようになった人々の購買履歴や、インターネットの閲覧履歴などの人間の行動に関するデータである。従って、データサイエンスの応用分野は主に文系的であるということだ。この意味で、データサイエンスは優れた文理融合的な分野なのだ。以下の図1は、本学データサイエンス学部の人材育成の考え方を説明する際に用いている「滋賀大モデル」と呼ぶ概念図である。これは、理系的な統計学と情報学グループの基礎の上に、データから新たな知見を得て、ビジネスや政策などの文系の領域で現場の意思決定にも生かせるような価値創造を重視している点が特徴である。「データエンジニアリング」「データアナリシス」「価値創造」の三つの要素をデータサイエンスの3要素と呼んでいる。

図1 「滋賀大モデル」の概念図

データサイエンスが求められる時代

このように、データサイエンスにおいては価値創造が教育の「出口」だが、これは通常の学問のように教室の講義の形で教えることはできない。演習によって学生自らが、データから価値創造を経験していくことが必要だ。しかも、単なる例題ではなく、企業や自治体の実際のデータを用いた演習が望ましい。

しかし、このような実践的な演習を用意することは容易ではない。企業や自治体との連携が必要となるし、企業秘密や個人情報の問題があり、企業や自治体が実際に処理している日々のデータを大学教育でそのまま用いることが困難であるからだ。しかしこのような困難にもかかわらず、実践的な演習を用意することはデータサイエンス学部の教育の目玉でもあり、私自身多くの企業や自治体、経済団体を訪問して協力を要請してきた。すでに20近く連携協定等を締結し、データサイエンスによる地方創成への貢献も期待されている。

このような協力要請の中で、データサイエンティストが社会のさまざまな分野で求められる時代になっていることも実感できた。多くの企業や自治体では、最近になってデータを取れるようになり、たまっているものの、それを分析する人材がいないという現状がある。そこでデータサイエンティストが求められている。企業や自治体との連携は、データの提供を受けるのみならず、データサイエンス学部の学生がどのような分野でデータサイエンスが求められているかを知り、将来の就職先を考えるときの参考になるなど学生の進路にも役立つ。

以上のように、データサイエンスは急激に変化する時代において求められている実践的な分野であるため、産学官連携が強く求められている分野といえる。

次回の執筆者は、和歌山大学国際観光学研究センター特任教授 山田良治氏です。