2017年7月号
特集1 - 先端素材セルロースナノファイバーの可能性
ACC法で作る竹CNFで竹林被害を防ぐ
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近藤 哲男 Profile
(こんどう・てつお)

九州大学 大学院農学研究院 教授



輸入品のタケノコが出回り、竹材の需要が減少するなどし、各地の竹林は管理されなくなっている。竹は強い繁殖力で既存の植生破壊を発生させ、人々の暮らしを困惑させる。九州は竹の一大産地が故に、竹林被害は深刻だ。その救世主となるのが、やっかいものの竹を活用したセルロースナノファイバーである。

はじめに

古来より、竹林はわが国の生活に非常に身近なものであったと同時に、竹を資源として利用し、竹細工や竹工芸といった伝統的文化を形成してきた。しかし近年では、プラスチックなどの代替資材の普及やタケノコ輸入の増加とともに、竹林を管理する後継者不足による放置竹林が増加している。かつて、タケノコを採るために、元来繁殖力が異常に強い樹種である孟宗竹(もうそうちく)が栽培されてきたが、その竹林が放置された結果無秩序に進出し、既存の植生を破壊してしまっている。それにより、アカマツやクヌギ、コナラなどかつて里山で優勢であった樹種が置換されてしまった。結果生態系の単純化が起こり、同時に孟宗竹の土壌保持力が低いため崖崩れが起きやすくなるなど、さまざまな害が相関して発生し竹害として問題視されている。解決法の一つは、未利用資源となっている竹を有効利用することである。

一方、植物由来の最先端素材として、繊維幅が100nm以下のセルロースナノファイバー(CNF)の産業利用に大きな関心と期待が寄せられている。本稿は、筆者らが提案し、中越パルプ工業株式会社(以下「中越パルプ」)と実用化に向けて推し進めてきた、水中カウンターコリジョン法(ACC法)によるセルロースナノファイバー(ACC-CNF)製造が竹パルプに有効に働くため、竹林被害の防止につながるという観点から記述する。

特にここで理解いただきたいのは、ACC法を竹林(被害)の対策として考えたものではなく、「たまたま」ACC法には竹パルプが高性能CNFを与える素材としてふさわしいものであったということである。研究開発には、そのような「たまたま」が重要になることがしばしば見受けられるので、本件はその一例としてお考えいただきたい。

竹CNF(ACC-CNF)の開発概要

CNFの比重は鋼鉄の5分の1で比強度(1-3 GPa**1)は5倍以上である。そして、-200℃から200℃まではガラスの50分の1程度の熱膨張変形しか示さない上に、比表面積が250m2/g以上を示す高性能物質なのである。ここで仮に、直径10nmのナノセルロースを直径1cmのボールペンとすると、10cm立方の木のブロックは、100km立方に相当する。つまり、1辺10cmの木ブロックからこの高性能なCNFを得ることは、関東平野からボールペン1本1本をバラで取り出すことと同じことになる。まさにこの技術は、10年間で急速に確立されてきた**2

CNFの製造法は、化学的手法、物理的手法ならびに物理化学的手法の三つに大別される**2。化学的手法の代表的なものは、磯貝明教授(東京大学大学院農学生命科学研究科生物材料科学専攻)らにより提案された、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル)触媒による酸化を、天然セルロースに適用させると、結晶性セルロースミクロフィブリル表面のみに高密度でカルボキシル基、アルデヒド基が導入されるという特異的な表面改質を前処理とするものである**3。物理的手法の代表的手法は、矢野浩之教授(京都大学生存圏研究所)らが精力的に研究を進めてきた2枚の回転するデスク間に懸濁液*1(けんだくえき)を超微細解繊する方法で、最近では京都法と称する二軸押し出し機で、一気にセルロースのナノ化から樹脂との複合化を可能とした手法に展開されている**4

図1 水のみを用いる「優しい」ナノ化、ACC法(模式図)

本稿で紹介するACC法(水中カウンター法:水中対向衝突)については、物理化学的手法の一つと筆者は考えている。まずは、以下にACC法の概略を紹介する。相対する高圧水流の衝突を利用してセルロース素材のみならず、バイオマスのナノ微細化させる手法を筆者らは提案した**567図1に示すように、ACC法では水懸濁試料を高速で対向衝突させる。このとき、水の持つ運動エネルギーが試料に伝播され、弱い分子間相互作用を優先的に開裂させる手法である。衝突圧や衝突回数を制御することにより、ファンデルワールス力や水素結合などの弱い分子間相互作用の選択的開裂または開裂の程度を制御することが可能となる。この手法をセルロースマイクロ繊維(パルプ)に適用した場合、パルプを構成するセルロースナノファイバー(CNF)間の弱い相互作用が優先的に開裂し10〜15nm(生物種により異なる)のACC-CNFが水中に分散するだけでなく、ACC法の処理条件を調節すれば、同じ生物素材からさまざまな形態のナノファイバーの創製が期待される。

図2 ACC法により得られるCNFの化学的特徴

さらに、ACC法により得られるACC-CNF表面は、他の製造法で作られたCNFに比べてより疎水性であり、結果として二面性を有する両親媒性を示す(ヤヌス・ナノフィブリル)*2**8図2に天然セルロース繊維の横断面を示す。これを見ると、セルロース分子鎖間で強く水素結合したグルカンシートが、ファンデルワールス力によって、シート間で相互作用して集積した階層構造を有することが分かる**9。ヒドロキシ基が外側を主として覆うため、強い親水性を示す。従って、セルロース繊維(パルプ)は親水性を示し、それを相似的にダウンサイズ手法で製造されたCNFは同様に親水性を示すようになる。これが、CNFが一般的に親水性を示すとされるゆえんである。一方、ACC法(図2右側)は、通常のACC噴出圧200MPaではグルカンシート中の水素結合を開裂させるエネルギーには至らず、集積シート間のファンデルワールス力のみを開裂させることができると推定される。その結果、新たにグルカンシートの疎水性部位がナノファイバー表面に露出されることになる。すなわち、ACC法は、セルロース繊維(パルプ)を相似形には微細化せず、疎水性を付与できるナノ微細化法となる。

いわば、「竹取物語」に見られるように、繊維軸にそって鉈で割断して中の宝を出すように、あるいはまんじゅうを割って疎水に相当する餡子を表に出すようなイメージを持っていただくと分かりやすいと思う。従って、木材でも可能ではあるが、竹のように割りやすい素材がACC法ナノ微細化には適した素材となるのである。その後の種々の検討の結果、より疎水性を示すものは、竹ACC-CNFやナタデココACC-CNFであることが判明した。

産学連携のきっかけから量産化開始までの経緯

筆者らは、ACC-CNFが他のCNFよりも疎水性を示し、結果として両親媒性を示す性質を持たせることができた。この特徴を生かしたCNFの実用化を中越パルプと共同で検討し、2017年6月より量産化を開始した。特に、上述のように竹パルプ由来のACC-CNFがより疎水性を示すことより、この竹バイオマスを原料として活用する、高機能両親媒性CNFの機能化による利用に積極的に取り組んでいる。

この産学連携のきっかけは7年前にさかのぼる。当時の中越パルプ開発部部長および上級技師が九州大学(以下「本学」)の筆者のオフィスを訪れ、「後発ではあるが自社でCNFに関する事業を開始したい。しかも企業と提携されていない当研究室で基礎研究が展開されているACC法による製品にしたい」ということを念頭に産学連携研究を要請された。一方、筆者は「ACC法をCNF製造のみならず、種々の生物素材ナノ微細化法として広く社会に普及したい」と考えており、両者である程度の合意はすぐにできた。さらに同部長は、「中越パルプが売り上げ規模では業界第7位(当時)であるが、その規模の会社としては、通常のお付き合い以上の研究費を払わないと大学・研究室との間に真剣な産学連携が始まらない。しかし大手の企業ほど研究費が捻出できず十分とはいえないので、研究員1人を筆者の本学研究室に常駐させることで自社のやる気を理解してほしい」と続けた。

ここで、本学に1人の研究員が派遣され、2年常駐後、筆者の要請で大学院博士課程社会人コースの院生としての常駐延長が提案された。これは院生となることで、研究室との関係がより深まり、共同研究だけにとどまらず、同氏が会社へ復帰後、社内研究員教育と研究の両面からリーダーとして活躍できるように、という考えからである。このような、教育的なシナジー効果を生む産学連携もあり得るということを例示したい。

同時に筆者は、後発販売のため「ACC-CNF」が他のCNFと異なることを示す必要性を主張した。その際、すでに本学から出願していた「ACC-CNF」が顕著に両親媒性を示すこと*2を中心に考えるべきである、との判断から、まず、中越パルプが本学から出願人譲渡を受け、その後の連携研究内容を併せて包括的な発明として追加申請を行い、新たに特許登録がなされた*2。この性質がさらに検討・発展され、現在のACC-CNFの特徴として用いられている。その後、中越パルプは量産化に伴い、ACC-CNFを「ナノフォレスト」と命名し、開発部の拡張を促進してナノフォレスト事業部を設立し、精力的に販売ならびに応用展開への探索・提携へと進んできている。

おわりに

特に竹害が激しいのは京都府、静岡県、山口県、鹿児島県、高知県、愛媛県である。また、鹿児島県、大分県、福岡県、熊本県その他の九州地方で、日本全体の竹林面積の約40%(平成24年林野庁 森林・林業統計要覧より)を占める。中越パルプのACC-CNF量産化は、竹パルプを製造している鹿児島市の薩摩川内市の工場内で新施設を立ち上げられた。まさに、竹資源の宝庫の中での産業化方向である。確かに、未利用資源となっている竹の有効利用になり、それが結果として竹林被害を防ぐことにつながってゆく。しかし、はじめにも記述したように、これは「たまたま」結果オーライだったのである。竹だけに、かぐや姫が生まれたようなものである。

最後に強調したいのは、産学連携のプラス点やシナジー効果を生み出すには、共同研究のプロセスならびに成果だけが重要なのではなく、やはりそれに携わる誠実な人間関係、すなわち吉田松陰の格言にもある「至誠にして動かざる者は、未だこれ有らざるなり」なのではないだろうか。そして、かぐや姫を月に帰さないようにしなければという気持ちでACC-CNF研究に取り組んでいる。

●参考文献

**1
Saito, T.; Kuramae, R.; Wohlert, J.; Berglund, L. A.; Isogai, A. An Ultrastorong Nanofibrillar Biomaterial : The Strength of Single Cellulose Nanofibrils Revealed via Sonication - Induced Fragmentation.Biomacromolecules. 2013,14(1),p.248-253.

**2
近藤哲男.ナノセルロースが拓く新しい世界−環境にやさしいバイオ系ナノ材料の特色と応用展開−.日刊化学.2016年,2月号,vol. 71,no. 2,p.33-38.
近藤哲男.セルロースナノファイバーテクノロジーの新展開.木材学会誌.2008年,vol. 54,no. 3,p. 107-115.

**3
Saito, T., Isogai, A.; TEMPO-Mediated Oxidation of Native Cellulose. The Effect of Oxidation Conditions on Chemical and Crystal Structures of the Water - Insoluble Fractions. Biomacromolecules. 2004, 5, p. 1983-1989.

**4
NEDO News Release http://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_100536.html

**5
Kondo, T., Morita, M., Hayakawa, K., and Onda, Y.; WET PULVERIZING OF POLYSACCHARIDES. US Patent. 2005, 7357339. 近藤哲男. Cellulose Commun. 2005, 12, p. 189-192.

**6
Kose, R., Mitani, I., Kasai, W., and Kondo, T.; Biomacromolecules, 2011, 12, p. 716-720.

**7
Kondo, T., Kose, R., Naito, H., and Kasai, W.; Carbohydr. Polym. 2014, 112, p. 284-290.

**8
Tsuboi, K., Yokota, S., Kondo, T.; Nordic Pulp & Paper Research Journal. 2014, J., 29, p. 69-76.

**9
Cousins, S. K., Brown, Jr. R. M.; Cellulose I microfibril assembly: computational molecular mechanics energy analysis favours bonding by van der Waals forces as the initial step in crystallization. Polymer. 1995, 36, p. 3885-3888.

*1
液体中に顕微鏡で見える程度の粒子が分散しているもの。

*2
近藤哲男、笠井稚子:「セルロースナノ繊維を用いる撥水性と耐油性の付与方法」 特許第5690387号, 特許第5690387号