2017年10月号
研究者リレーエッセイ
7年間の研究生活で得た楽しみと学び
顔写真

石原島 由依 Profile
(いしはらじま・ゆい)

宇都宮大学大学院 農学研究科 修士課程1年



研究と共に過ごした高校と大学生活

母校である栃木県立宇都宮女子高等学校は2008年にスーパーサイエンスハイスクール(SSH)*1の指定を受け、2年生進学時の文理選択の際にSSクラスが新設された。筆者は文理選択に当たり、好きな研究テーマを選んで大学に行き、実験を進めていく様子に魅力を感じてSSクラスを選んだ。

染色と植物に興味があったため、研究テーマとして「邪魔な雑草」の代名詞であるクズの葉緑素を用いて布を染色する「緑染め」に宇都宮大学(以下「本学」)教育学部で取り組んだ。

高校卒業後、本学の農学部に新設された応用生命化学科に一期生として進学した。2年生から始まる学生実験や研究活動に憧れを感じていた1年生の7月、現在の所属研究室の指導教員から「研究室に来て実験してみないか」と誘いがあり、研究室を訪問し、「アユ」についての研究テーマを選び研究を始めた。最も印象に残っていることは、1年生の夏休みに、今まで解明されていなかったアユの遺伝子のcDNAの塩基配列を自分の手で解読したことである。さらに、高校の頃には得られなかった新発見の喜びを初めて味わうことにより、研究をさらに楽しいと感じるようになった。

現在の研究室生活

所属研究室はサイエンスコミュニケーション活動に力を入れており、学部4年生の夏にはアユをテーマとしたサイエンスカフェ*2に、筆者はゲストスピーカーとして出演した。地域の方々にもアユに親しみを持ってもらうと同時に研究内容も分かっていただけたらと考え、アユの生態に関するクイズや、後述する「トランスポーター」という分子の機能を説明するためのレクリエーションゲームを企画した。宇都宮市内の生き物調査で、環境教育活動の一環として地域の子供たちに自分の研究を紹介したこともある。そして、新しい視点からの意見をいただき新鮮な気持ちになりつつも、想定外の質問に答えられない自分にがくぜんとした。そこで科学者としての立場や責任について考えるようになり、自分の研究を正しく発信するためには、多くの背景知識を持つことや、研究目的を十分に理解することが重要であることを学んだ。

ここで少し自分が行っている研究について紹介したい。アユの「性格関連遺伝子」の候補としてトランスポーター遺伝子群を選び、cDNA塩基配列を網羅的に同定する研究を進めている。栃木県で生まれ育った筆者は、研究を通して県に貢献したいと考えていた。そして県の重要な観光資源という理由からアユに着目した。県を流れる那珂川は日本一のアユ漁獲量を誇る美しい川である。アユの縄張り行動と攻撃行動の習性を利用した友釣りが盛んで、多くの愛釣家が訪れる。しかし近年、友釣りでアユが釣れにくくなったといわれている。そこで、攻撃性の高い個体を選抜育種し、より「釣れやすい」アユを放流することが可能となれば、友釣りを通してさらなる地域活性化が見込めると考えた。現在、アユの新規分子育種技術を開発することを最終目標として研究を進めている(図1)。

図1 アユの性格関連遺伝子に関する研究の概要

アユの性格関連遺伝子の候補として、ヒトでは攻撃性との関連が知られているトランスポーターという分子群が有力であると考えた。トランスポーターは水溶性の化学物質の細胞内への取り込みに関与している膜タンパク質であり、その中のsolute carrier family(SLCファミリー)は全52ファミリーで形成されている。有名なSLCファミリーのメンバーとして、抗うつ病薬のターゲットとなっているドーパミントランスポーター(SLC6A3)やセロトニントランスポーター(SLC6A4)が知られている。

研究の仮説として、攻撃的なアユと穏やかなアユのトランスポーター遺伝子の塩基配列に違い(遺伝子多型)があるのではないかと考えている。しかし、アユのトランスポーター遺伝子群はまだ解読されていないため、はじめにcDNA塩基配列の決定に着手した。卒業研究では次世代シーケンサーを活用した研究を進め、SLC6ファミリーの解析を終えた。修士課程の現在は、SLC1~7ファミリーの解析を進めている。今後は、得られた遺伝子のcDNA塩基配列を基に遺伝子の多型解析を行い、攻撃性の個体差との関連を調べていきたい。

これからの進路ついて

今後の進路は、就職か博士課程への進学か悩んでいる。女性の博士号取得者のキャリアがあまり知られていないこと、研究職の倍率が高いこと、ポスドクの就職問題に不安を感じているためである。

現在、研究活動の傍ら栃木県の公務員試験を受験しており、農業試験場での勤務を第一志望と考えて採用試験に取り組んでいる。その一方で、せっかく高校から続けてきて、楽しみを見いだし始めた研究活動を生涯続けたいという気持ちも心の奥底に存在しているため、葛藤の日々を送っている。

*1
文部科学省よりSSHの指定を受けた学校では、科学技術系人材の育成のため、各学校で作成した計画に基づき、独自のカリキュラムによる授業や、大学・研究機関などとの連携、地域の特色を生かした課題研究などさまざまな取り組みを積極的に行っている。

*2
「とちぎサイエンスらいおん」と所属研究室の「ゆうゆうサイエンスカフェ」が共催