2017年11月号
特集 - 産学連携で生産性を引き上げる
商品企画での本格的産学連携!
―日本一のシステムを目指して23年―
顔写真

神田 範明 Profile
(かんだ・のりあき)

成城大学 経済学部/経営学科 教授



商品企画で本格的産学連携?

大学における産学の連携先はほとんどが理系研究室、理系ゼミと思われがちであるが、神田研究室では23年もの間、商品企画において学生と企業人が一体となって多大な成果を挙げてきた。実施プロジェクト数だけでも100件を優に超える。

通常、文系・デザイン系の大学や学部と企業との産学連携は、企業からの依頼により、大学側が2~4カ月でアイデアまたはデザインを企業に提案して終了となる。企業人が学生とディスカッションしたり、学生を指導することはあっても、真の意味の共同作業を行ったり、あるいは学生が企業人にアドバイスすることは(特に大企業の場合)、まずない。また、テーマも(長期間かけられない、または学生では複雑なものは考えられないため)単純なものに限定される。

しかし、当研究室との産学協同研究で商品化された例を挙げると、

  小林記録紙株式会社「ポスト de シール」(情報保護シールハガキ)
  ブラザー工業株式会社 家庭用ファクス(FAX)シリーズ
  日産自動車株式会社「X-TRAIL(エクストレイル)」(SUV車)
  ホシザキ電機株式会社「VARIE(ヴァリエ)」(給茶機)
  東都生活協同組合「東都野菜たっぷりプチ肉まん」(冷凍食品)
  日本生活協同組合連合会 新「RBクリーミィファンデーション」(女性用化粧品)
  積水化学工業株式会社「ウィズハイムFⅡ」(女性向け賃貸集合住宅)

など、極めて分野が幅広く、かつ大規模で複雑な商品にも及んでいる。筆者が単独で企業を指導したヒット商品としては、

  株式会社パイロットコーポレーション「CREOROLL(クレオロール)」
  (大人向けクレヨン)
  パイオニア株式会社「MDX-707」(女性向けミニコンポーネントステレオ)
  アサヒ飲料株式会社「WONDAモーニングショット」(缶コーヒー)

などがある。

関与した商品カテゴリーは住宅、自動車、家電、建材、飲食品、雑貨、化粧品、衣料品、日用品、文具から、墓石、包装材、カタログ、パンフレット、ゲーム、ソフトウエア、各種サービスまで、非常に(あまりにも)多彩である。当然「若者向け」などという狭いカテゴリーは全く考えておらず、「調査できれば、 どんなターゲット&テーマでも挑戦する」がポリシーである。

なぜ商品企画で本格産学連携が可能か?

高度な工学技術を有する「開発優等生」の世界的大企業でも、商品の出発点である商品企画となると、意外なほどに良好なアイデアを出せずに、KKD(経験・勘・度胸)に頼って決定しているケースが多い(以前に比べ良くはなってきているが、現在でも続いている)。筆者はこの産業界の状況に着目し、

 1.ユニークな大量のアイデア・仮説を創出する方法
 2.その中から顧客ニーズを最も確実に実現する案を絞り込む方法
 3.それらから最高の売り上げを達成する具体的商品案を決定する方法

を開発・改良・集約して「P7(商品企画七つ道具)」(最新版は「Neo P7(新・商品企画七つ道具)」**1)と命名し、1994年に公表した。95年、00年、13年と著書で改良版を発表し、幾多の企業との産学協同研究で実践を積み重ねてきた。当初は「面倒」「難しい」との声もあり、年に1~2件程度であったが、最近は年に4~6件が通例となっている。1企業で2~3件実施するケースも多い。文系研究室でこの実績は、「明確かつシステマティックな方法論」の魅力によるところが大きい。その根本には経営工学、特に品質管理の思想や方法論がある。

その方法論「Neo P7(新・商品企画七つ道具)」とは何か?

図1 Neo P7(新・商品企画七つ道具)の流れ

図1の定性的手法①~④で仮説を大量に創出して絞り込み、定量的手法④~⑥で購買意欲を最も高める商品案を決定する。各手法が高質であることと全体のバランスの良さが、高い成功をもたらしてきた理由である。

 ①仮説発掘法

顧客に入り込み、ユニークな仮説を大量に創出する方法。フォト日記調査/仮説発掘アンケートの2手法からなる。前者は文字通り写真を用いた日記を顧客に作ってもらい、そこから新しい仮説の発見を導く。後者はアイデアを一般の方に楽に出してもらい、大量の仮説創出に結び付ける新しい手法である。

 ②アイデア発想法

さらに豊富なアイデアを企画者自身が創造する。「ブレーンストーミング」を不要にする、アイデア創出法三つからなる。特に「焦点発想法」は自分の好きな単語をベースに大量のアイデアを短時間に導き出す、ゲーム感覚の万能アイデア発想法である。1時間に1人30件のアイデア創出が可能となる。

 ③インタビュー調査

仮説を確認し、絞り込み、さらに改良する2手法からなる。グループインタビューは、数人の顧客に集まってもらい座談会的雰囲気の中から意見を求め、仮説を検証する。評価グリッド法は顧客に1対1でインタビューして、顧客の仮説や商品への評価の構造を探る新しい方法である。

 ④アンケート調査

大量の顧客に依頼して定量データを収集し、その統計的分析から仮説を厳密に評価し、絞り込みに役立てる市場調査の定番手法である。

 ⑤ポジショニング分析

顧客の評価データを集約した「因子」の構造をマップ化し、「理想の方向」を求め、最高の仮説案を推定するとともに、各因子の重要度まで推定できる。

 ⑥コンジョイント分析

各アイデアの重要な要素(材質、デザイン、機能、性能、価格など)を取り上げ、これらを組み合わせたパターンを顧客に評価してもらい、そのデータを解析し最適な組み合わせを求めれば、自動的に新商品の最適コンセプト(購買意向が最高値になるコンセプト)が得られる。最終段階での企画者の悩みを一掃する素晴らしい手法である。

 ⑦品質表

得られた最適商品コンセプトをスムーズに技術項目に橋渡しする方法で、著名なQFD(品質機能展開)の最初の手法に当たる。

周到・徹底的な産学協同研究のシステムとは?

 1.学生が先輩となり、企画手法を「共に」実践しながら学ぶ

企業人も神田ゼミ生と共に初歩から学ぶという姿勢があると、学生とは自然と「同士」となる。産学協同研究は主に3年生が担当するが、彼らはすでに2年生から商品企画の基礎を学んでいるので、学生の方が知識の上では先輩となり、心理的にも年齢での上下関係が逆転する。これにより互いに相手を尊重し、長続きする良いチームワークが生まれる。

 2.月1回のセミナー+月2回の学生とのディスカッションで企画を展開する

毎月2~3時間の企業本社での手法セミナー、隔週で計15~16回・各2~3時間の学生とのミーティング、これを継続的に8カ月実施する。いかに徹底的な内容か想像できると思う。表1がその大体のスケジュールである。期間を圧縮しても、(他の仕事をこなしながらでは)十分に習得することはできないので、半年間が最短限度である。ただし若干の手法を省略することはあり得る。教員はこの全てのセミナーとミーティングで指導を行う。それ以外の質問や相談もあるので非常に多忙である。

表1 神田研究室との標準的商品企画スケジュール


 3.調査会社を用いた大規模かつ徹底的な市場調査で検証する

調査会社に委託して、約1万人対象、数問規模の予備調査から真のターゲット層該当者を抽出し、400~500人のモニターに仮説案を厳密に評価してもらい、統計解析を駆使して最終企画案をまとめる。文系ではアイデアを出すのは得意であるが、通常は解析が苦手である。そのためフィーリング的な提案となり、企業側ではなかなか採用に踏み切れない。神田研究室ではアイデア発想と統計解析の両方を2年生から鍛錬し、使いやすいソフトウエアもあるので、何も困らない。

筆者が定年を迎えるため、成城大学神田研究室としての産学協同研究は2019年度で終了となるが、産業界はまだまだ十分な商品企画システムを構築できていない。商品企画における本格的な産学連携の方法論の導入を、ぜひ一考願いたい。

●参考文献

**1
神田範明.神田教授の商品企画ゼミナール-Neo P7 ヒット商品を生むシステム.日科技連出版社,2013,219p.