2017年11月号
単発記事
地域の食品産業を支える
土佐フードビジネスクリエーター人材創出事業
顔写真

受田 浩之 Profile
(うけだ・ひろゆき)

高知大学副学長・地域連携推進センター長



地域資源の第1次産業を基盤に、食品産業を重点的連携テーマとしてきた人材育成事業が大きな成果を出している。当初国の補助金からスタートしたこの事業も、今では自立運営を達成し年々拡大してきた。来年は11年目を迎えステージⅢへとさらに進化を遂げる勢いだ。

はじめに

2008年度に高知県は、県政浮揚のトータルプランとして「高知県産業振興計画」を策定した。本計画は「農業」「林業」「水産業」「商工業」「観光」と「連携テーマ」から成る「産業成長戦略」と、県内を7ブロックに分けて各エリアで推進していく「地域アクションプラン」から構成される。翌09年度から現在に至るまで、県を挙げて、5W1Hを明確にし、PDCAサイクルを回してきた。フォローアップを綿密かつ不断に継続することで、本計画を力強く推進している。

上記の産業成長戦略の「連携テーマ」に、本計画の重点領域として「食品産業」の振興が当初から盛り込まれた。1次産業を基盤産業とする高知県において、その付加価値を高め、「地産外商」によって域外から外貨を稼ぐには、食品産業の伸びしろが大いに期待できると考えたからである。一方で、大学の立場から地域の産業振興を考えていたわれわれは、食品産業の振興を目指すためには、その産業を支える中核の担い手が明らかに不足していると感じていた。そこで地域の高等教育機関として、本産業を成長に導く中核人材を育成するプログラムを企画・実施し、担い手不足の解消を目指すことにした。本プログラムが17年度で10年目を迎えた「高知大学土佐フードビジネスクリエーター(土佐FBC)人材創出事業」である。

土佐FBCとは

現在の土佐FBC養成プログラムを図1に示す。Aコースは食品企業の経営者、Bコースは工場や商品開発の責任者、そしてCコースは経営者感覚を身に付けた1次産業従事者を養成することを目標に掲げた。座学は食品製造・加工、マネジメントなど160時間、演習は成分分析などの実験技術40時間、微生物管理などの現場実践学40時間、そして各企業から持ち込んだ課題を土佐FBC専任教員がマンツーマン指導する課題研究をプログラムの柱とする。Aコースは2年をかけて全てを受講する。Bコースは座学とどちらかの演習、そしてCコースは座学のみを受講する1年コースである。16年度から、食の6次産業化プロデューサーの資格取得も可能となった(レベル1と2)。

図1 土佐FBCⅡとして実施してきた履修プログラムの概略

講師は本学の農林海洋科学部、医学部、地域協働学部の教員に加えて、高知県立大学や高知県工業技術センターの教員、研究員をはじめ国内各地から各分野の第一線の講師をそろえている。そうそうたる講師陣が講座のクオリティーを支える最も重要なポイントである。

受講生は県内の食品産業事業者、農業生産者、農業協同組合(JA)、流通、自治体職員など多彩である。毎年30人以上を受け入れているが、30分程度の面談で本人のやる気と、所属している企業・団体の理解と支援があることを確認して、受講の可否を決定している。本学の学生も全体の1割以下の比率で受け入れている。原則として、高知県内への就職を希望している者を対象としている。

土佐FBCの成果

2008~12年度までの5年間は、文部科学省科学技術振興調整費の補助事業として推進した。この最初の5年で186人の修了生を育成することができた。目標を大幅に上回る成果を挙げたとして、文科省からは最高の「S」ランク評価を、また学内に設置した外部評価委員会からは「高知県産業振興計画の推進に大いに貢献している」と高く評価していただいた。そこで6年目からは、高知県の寄附講座として土佐FBCをリニューアルし(土佐FBCⅡ)、大学の予算に加えて、高知県、市町村振興協会、全国農業協同組合中央会(JA全中)、地域の銀行と、受講料(Aコース5万円、Bコース4万円、Cコース3万円)を併せて、年間予算3,500万円規模で自立運営している。13年度からは上記コースに加えて部分受講が可能な選択受講コースと企業研修コースを新たに設け、それらの修了生も含めて16年度までに合計425人のFBCを地域に輩出した。

この間、大学としては意欲に満ちた修了生をできる限り多く養成することに全力を注いでいたが、一方で修了生はこのまま卒業してネットワークが途絶えてしまうのはもったいないという思いを次第に募らせていた。修了生の提案によって同窓会組織「土佐FBC倶楽部」が設立されたのは、その強い思いを受けた結果である。本倶楽部で定期的(現在は年間4回)に在校生も含めた関係者が集い、試作品の評価や講演会による最新情報の収集と共有、さらには参加者の課題解決に対する個別相談などを行っている。この集まりで業種を超えた協働が生まれ、さらにFBC教員との間で活発な産学連携が展開されて、さまざまな商品開発に結び付いている。現在までに土佐FBCの受講生が関わった商品の売り上げは合計で10億円を超え、今後も高知県食品産業の振興に顕著な貢献をしていくことが期待されている。

これまでの取り組みは、イノベーションネットアワード2014文部科学大臣賞、15年度産学連携学会業績賞などの受賞につながっている。受賞理由として「本取り組みが他の地域にも波及するモデルである」と評価していただいたことは、本事業の立ち上げ時に掲げていた目標であったことから、事業継続の大いなる励みになった。また最近では、受講を通じて修了生がビジネスを拡大し、新たな雇用を創出するとともに、そこに土佐FBCを受講した本学の学生を採用するケースも見られるようになってきた。「ひと」を育み「しごと」を生み出すプラットフォームとして、成果が見え始めてきたと考える。

土佐FBCのこれから

2017年度に土佐FBCⅡが終了する。当初掲げていたこの5年間のミッションステートメントは、ほぼ順調に達成できる見通しである。この成果を地域に評価していただいた上で、現在、18年度以降の第3ステージ、すなわち「土佐FBCⅢ」のプログラムと運営について議論し、準備を進めている。プログラムの設計に当たっては、土佐FBC講師と、地元高知の企業、自治体、そして修了生とが、忌憚(きたん)のない意見を出し合うラウンドテーブルを東京と高知で開催した。その結果、これまでの土佐FBCが実施した、食品科学とマネジメントなどの基礎知識の講座を継承すること、さらに研究開発人材の育成を担う、現在の「課題研究」を深化させた「アドバンストコース」を設置することが決まった(図2)。そして、高知県内の食品産業における研究開発人材の養成目標をミッションステートメントに盛り込み、運営予算的にも、Ⅱよりも大きなスケールでⅢを進めていく方向で、現在、最終の準備を進めている。期待に沿える成果を出せるよう、地域の産学官がより一層連携し、汗をかいていきたいと考えている。

図2 2018年度以降の土佐FBCⅢとして計画されている履修プログラム(案)の概略