2017年12月号
特集 - 文理連携・組織的連携
近畿大学×UHA味覚糖
一度で終わらない文理連携のコツ

近畿大学とUHA味覚糖との文理の壁を超えた連携が止まらない。「文春砲」ならぬ近大「産連砲」のようだ。理由は、両者の柔軟な姿勢にある。自ら街頭でアンケートまでやってのけるフットワークの軽さが目を引く。自身の研究以外でもディレクターとして立ち回りのできる教員の存在は、文理の壁を超えた企画が継続する秘訣のようだ。

止まらぬ大躍進は産学連携でも

近畿大学(以下「近大」)はここ数年、総合社会学部、建築学部、グローバル人材育成企業のベルリッツ・コーポレーションとタイアップした国際学部など、次々と学部を新設し、医学から芸術まで日本有数の総合大学に成長した。さらにクロマグロの完全養殖など研究力の高さにも定評がある。また親しみやすい広報力にも舌を巻く。積極的な改革が奏功し、2017年度志願者数は14万6896人と、2位の法政大学の11万9206人を大きく引き離し、4年連続の志願者数日本一に大躍進した。65位で、国公立大ではトップの千葉大学の1万1718人と比較しても(株式会社大学通信の調査)、名実ともに人気ナンバーワンの大学となった。

併願や医学部、産業理工学部など、受験形式や学部によって検定料(受験料)が異なるものの、標準の受験料3万2000円で計算すれば、実に47億円余りの受験料を獲得できるのだから、学生人気は経営の根幹を成す。

そんな大躍進は、産学連携でも見られる。企業との連携も単発で終わることなく、次々とアイデアを出し、文理連携・組織的連携が止まらない。

時代背景を味方にし、偶然を必然に

グミなどに代表される菓子メーカーのUHA味覚糖(大阪市、以下「同社」)と近大の共同研究にはルーツがある。2013年に立ち上げたばかりで、分析力を生かして生命活動や病気の原因を解明する“病態分子解析学研究室”を主宰する多賀淳氏である(写真1)。

写真1 多賀淳(たが あつし)准教授

病態分子解析学研究室では、生体成分の分析だけでなく天然物から物質を取り出すことも行っており、当時はスッポンから取り出した純度の高いコラーゲンを、化粧品などの開発・販売を手掛ける黒門市場発ベンチャーの株式会社クロモンコスメティックに卸していた。

化粧品などに使用されるコラーゲンは、牛や豚などからの抽出が一般的だったが、牛海綿状脳症(BSE、一般的には狂牛病と言った方が分かりやすいかもしれない)が社会問題となった影響で、魚由来コラーゲンに置き換わる時期に差し掛かっていた。時を同じくして、ハラルの機運も高まりつつあり、UHA味覚糖でもビューティーケア事業への参入が検討された。これには学生数約3万4000人(2017年度/大学、大学院)、卒業生51万7000人という総合大学のメリットは大きく、社会のあちこちで活躍する近大OBたちの社会人ネットワークの存在は、大学と企業をつなぐ産学連携にも一役買ったようだ。

コラーゲンは魚の皮に多く含まれる。魚といえば、近大マグロだ。とはいえ生きているマグロから皮だけを取るわけにはいない。しかし、近大には全国でも珍しい大学直営の飲食店があった。近大が養殖した魚を提供する「近大卒の魚と紀州の恵み 近畿大学水産研究所」である。大阪店と銀座店で余ったマグロの皮を捨てていたことに目を付け、剝いだ皮をすぐに冷凍保存し、薬学部へ送ってもらった。幸いにも、コラーゲンの原料は学内からの提供を受けることができた。近大マグロのアミノ酸組成を調べると、プロリンやヒドロキシプロリンが多く、保湿性が高いことが分かった。このようなさまざまな好機にも恵まれながら時代背景を味方に付け、偶然を必然に変えて、UHA味覚糖との怒濤(どとう)の連携がスタートしていった。

怒濤の連携プロジェクト

2016年2月には、近大薬学部とUHA味覚糖との共同研究による美容シリーズ「美はお口から研究所」を立ち上げ、近大マグロ1匹(約40kg)から100gしか抽出できない希少な「フルレングスコラーゲン」を使用したリップスクラブとグミのサプリメントを限定発売した。近大薬学部、文芸学部、経営学部の研究室の教員と学生が参加した文理融合型の産学連携の幕開けだ。

それぞれの役割は、コラーゲンの抽出・分析を前出の多賀准教授、商品のパッケージデザインを文芸学部芸術学科の岡本清文教授、販売促進・プランニング、POPデザインを経営学部キャリア・マネジメント学科の松本誠一准教授が担当した。教員の下には、各学部の学生が参画し実務をこなした。同社代表取締役社長の山田泰正氏へのプレゼンテーションや、ドラッグストアのココカラファイン店舗での接客など、原料の調達から販売まで、随所で学生が絡んだ。そして16年12月にリップスクラブをリニューアル、さらに新商品のリップエッセンスを発売した(写真2)。

写真2 (左から)リップエッセンスと砂糖でできたスクラブを使用したリップスクラブ(リニューアル) ともに近大マグロから抽出したコラーゲンを使用

同12月には「ぷっちょ近大マンゴー」を発売。近大附属農場がマンゴーを提供し、関西地区にある約2,500店のコンビニエンスストア「セブンイレブン」で販売した。

ことし4月には、近大の新たな学術拠点「アカデミックシアター」内にUHA味覚糖と近大がプロデュースした産学連携ラボ「KISS LABO(キスラボ)」を開設した(写真3)。「KISS力をUPさせる夢のキャンディ開発を目指す」をコンセプトに、UHA味覚糖のお菓子を試食してリラックスしながら、思い付いた商品アイデアをホワイトボードに自由に書き込んだり、雑談できるスペースとして開放している。自由過ぎるアイデアは現実離れしたものも多かったというが、それでも720件のアイデアが集まり、次の商品を練り上げるため現実的なアイデアをピックアップし、そこで文理混成の学生チームを複数編成した。最終的に、アイデアを具体化しプレゼンで勝ち残ったチームのプランが商品化にこぎ着ける。商品企画から原材料の生成、プロモーション、販売など菓子メーカーの仕事を社員と一緒に体験できるインターンシップ的要素もあり、教員はもとより学生たちにも刺激になっている。

写真3 「甘いキッスを科学する」薬学部2年鶏内遙(かいちはるか)さんと実物の近大マグロ

「文理連携でリップスクラブとグミのサプリメント企画をスタートさせた当初、学生たちはそれぞれの学部背景から衝突し、まとめるのが大変でした」と多賀氏は振り返る。その経験から、「新しくプロジェクトを始めるたびに『初めまして』では、また同じことを繰り返してしまう。キスラボの開設でプロジェクトを進める前提に立ち、異なる学部の学生が出会うことで、進めていくうちに打ち解けている可能性が高い」。さらに「他の学部の先生方もふらっと入ってきてくれる」と、文理の壁を取り払う融合スペースにもなっていることを強調する。最初から文理融合を進める最適な場所という位置付けは、「異なる学部の学生や教員との壁を越えるためには時間がかかる」という定説を払拭(ふっしょく)しつつあるようだ。

「キスラボは1年ごとの更新ですが、学生にはこの就業体験や商品開発体験は1年で完結させ、1年ごとにほかの学生が参加できるよう、2年、3年と継続させたいと思っています。原宿で商品のキャペーンを実施したとき、道行く若者に『近大のことを知っていますか』とアンケート片手に聞いて回ったのですが、誰も知らなかったのです。それが最近は知られるようになってきました」と多賀氏はうれしそうに語った。

薬学部を中心とした一連のプロジェクトの継続には、理系思考にとらわれない柔軟な立ち回りのできる人材の存在が大きい。

(取材・構成:本誌編集長 山口泰博)