2018年2月号
特集1 - 医工連携2018
MICOTOテクノロジー×鳥取大学
新しいカタチのシミュレーター誕生

医療機器の研究開発や受託開発を手掛ける株式会社MICOTO(ミコト)テクノロジー(鳥取県米子市)は、鳥取大学と共同で人間に近い外観や内部構造のリアリティーを再現した挿管シミュレーションロボットを開発。挿管の良し悪しに「痛い」「おえっ」といった感情表現で訴える。気管挿管、内視鏡検査、喀痰(かくたん)吸引といった三つの挿管手技(しゅぎ)を1体でトレーニングできる人型ロボットに注目が集まっている。

“生命”感じるロボット「mikoto」

医療の高度化に伴い、医療従事者の手技や業務が複雑・多様化している。医療、看護、介護などの現場では、医療技術の質と安全を確保するため、シミュレーターを使ったトレーニングによる技術の習得・振り返りの必要性が増したという。

既存のマネキン型のシミュレーターとは発想を変え、人に近い感触、感覚、反応をするシミュレーターでトレーニングを重ねることで、さらなる医療技術の向上や安心安全な医療の提供が可能となったのが「mikoto」(写真1)だ。

写真1 内視鏡検査の様子

人肌の質感を再現、痛みに反応、トレーニング後の評価も

一般的に食道、胃、十二指腸といった上部消化管等の検査は、喉にスプレー状やゼリータイプの麻酔を染み込ませて口や鼻からスコープを挿入する。経験者ならご承知のように、個人差はあるものの、麻酔をしても内視鏡が喉を通過するときには痛みと咽頭反射が出る。時には挿入時の不手際で消化管内壁を傷付けたり、検査に時間がかかってしまうため、処置には確実な技術が要求される。医師の力量に左右されるのだ。

写真2 気管挿管のトレーニングをする学生

医学生や医師が訓練するための内視鏡検査訓練機器は、バーチャルシミュレーターはあるが、人に近いシミュレーターはない。mikotoは、ロボットテクノロジーを医療教育シミュレーターに実装し、これまでのシミュレーターでは再現されていなかった人間に近い外観や内部構造のリアリティーを再現、実際の患者に近い感触や反応を実感できる訓練用ロボットだ(写真2)。皮膚をシリコーンゴムで成形したことで、マネキンタイプとは異なる人肌の柔らかさを備えた(写真3)。また、気管挿管手技のさまざまなシミュレーションとして、人によって首、口の可動域も異なることから、3段階で変更可能にし、挿管が困難なパターンのトレーニングにも対応させた。そして全身麻酔状態の顎(あご)の軟らかさも再現した。

写真3 柔らかい表皮

トレーニング後は、評価モードの点数による数値化で結果を振り返り、何度も訓練できるなど、工夫を凝らした。内部構造のリアリティーは、鳥取大学の協力の下、人の鼻腔(びくう)や咽頭、口腔周辺部などの器官のCTデータを3D化し、3Dプリンターで型を造り、細部まで再現した。

mikotoはマルチタスクモデル、シングルタスクモデルの2タイプがあり、概略は次の通り。

マルチタスクモデル:気管挿管(経鼻・経口)、内視鏡検査(経鼻・経口)、喀痰(かくたん)吸引といった三つの挿管手技を1体でできるトレーニングモデル。咽頭後壁などへのセンサー付加による生体反応などが可能。トレーニング後は手技の客観的な評価が可能。

シングルタスクモデル:マルチタスクから派生した気管挿管(経鼻・経口)手技のみのトレーニングモデル。挿管が困難な人のパターンもトレーニング可能。全身麻酔状態の患者の顎の軟らかさも再現。

「テムザック技術研究所」から「MICOTOテクノロジー」へ

ミコトは、元々はサービスロボットなどの開発を手掛ける株式会社テムザック(本社:福岡県宗像市、以下「テムザック」)が母体だ。

テムザックが鳥取大学と共同研究を行ったことを機に、2014年、米子市に株式会社テムザック技術研究所を設立、そして16年2月、医療シミュレーター開発のため「とっとり発医療機器開発支援事業」の助成を受け、鳥取大学医学部附属病院との共同開発に入った。17年6月に研究開発ステージから製造・販路開拓へ新たな事業ステージとなり、社名を株式会社MICOTOテクノロジーへと変更した。新社名は、数々の神話に彩られた歴史・文化を受け継ぎ「神々のふるさと」といわれる山陰地方に由来する。

将来は全てのトレーニングを1体で

ミコトの檜山康明代表取締役社長は、「大きな病院の場合、科が違うと、別の病院かのように組織の壁を感じる時があります。しかし、鳥取大学医学部附属病院は柔軟に対応してくれました。挿管手技は麻酔科や耳鼻咽喉科、消化器内科など横断的知見が必要で、組織的に先生方が参加しなくては実現できない研究開発です。医師からの意見を取り入れ、持ち帰っては試作を繰り返し、評価をしてもらうことで、より“人”を再現することができました」と振り返る(写真4)。

写真4 咽頭部を見せながら説明する檜山康明社長

医工連携で立ちはだかるのは組織の壁だけではない。医療用語の知識がない開発側と、医療側との言葉の壁だ。檜山氏もこれが苦労した点だったという。

人によって体の構造には違いがあり、それぞれのニーズに合わせて口腔内部を変えることも可能だ。今後は胃、大腸等の各部位の検査機能を追加し、1体でさまざまな部位のトレーニングができればと、夢は広がる。

そのほか、体温や、痛みで出る涙に加え、臓器や皮膚表面の血管表現などリアルさを追究すると、芸術分野へも手を広げなくてはならない。ステークホルダーからの意見を集約し、何を取捨選択するかは、需要と開発費との兼ね合いを見極める必要がある。

2017年10月、mikotoの全国展開に向け、医療機器商社カワニシホールディングスグループの株式会社エクソーラメディカル(東京都千代田区)と総販売代理店契約を締結し、初年度の販売目標である10台は17年12月時点で超えた。「今後は新機能の追加や臓器の追加等の開発、さらに、内視鏡等の医療機器の開発過程での評価用としてmikotoを使うなど、プラットフォーム型ビジネスを展開していきたい」と、鳥取大学との連携にさらなる期待をのぞかせていた。

(取材・構成:本誌編集長 山口泰博)