2018年2月号
特集1 - 医工連携2018
形状記憶合金だからできた「腰サポーター」
顔写真

安田 寛治 Profile
(やすだ・かんじ)

株式会社吉見製作所 管理主任



「夢の腰サポーター」概要

一定の力で変形し、かつ戻るという「超弾性特性」の特徴を持つ形状記憶合金(以下「SMA」)を活用し、全く新しい腰サポーターを開発した。腰サポーターの左右縦ポケット部に挿入された直線記憶のSMA線材が体の前屈に合わせて曲げられたときに超弾性特性のばね力で直線に戻る力を利用し、姿勢を保持しつつ上体を引き起こす力をサポートする。また、直立姿勢そのものを補助することにより、長時間の立姿勢、ひいては座位姿勢で腰を保護する効果も併せ持っている(特許、意匠取得済)。なお、本製品は医療機器ではない*1

写真1 両腰縦部にSMA支柱を挿入(1~3本)

写真2 使用例

開発の経緯

以前からSMAの超弾性力を活用した作業負担軽減用品の開発は行っていたが、2014年6月に、当社の呼び掛けで改めて腰に特化した製品開発を再スタートさせた。新たな開発メンバーも加わり、おおむね毎月1回の会議を重ね、実用化の目途も立ち、16年の夏に上市に至った。開発メンバーとそれぞれの主な役割は以下のとおり。

 開発メンバーとそれぞれの主な役割

①株式会社吉見製作所(開発提案、推進取りまとめコア活動、SMA線材供給、製品販売元)

②株式会社松本義肢製作所(縫製部担当)

③日精電機株式会社(線材加工担当)

④星城大学リハビリテーション学部 太田進准教授(人体への影響、効果助言)

⑤愛知教育大学教育学部技術教育講座 北村一浩教授(SMA物性、耐久性助言)

⑥大府市役所ウェルネスバレー推進課、商工労政課、大府商工会議所(補助金援助、企業紹介など)


なお、本製品は大府市推進によるウェルネスバレーブランド商品の第一号認定製品である。

 苦心した点と解決法

苦心した点:SMA線材の太さと長さ、本数の選定、束ね方、サポーターへの挿入法、線材破断の場合の自身保護法、効果の確認のためのデータ収集と分析、体形に応じたベストフィッティング形状デザインなど。
解決法:理論だけでなく、公私、介護施設などいろいろな方の意見を聞きながら実証を重ね、現状の仕様にたどり着いた。

特長と利用場面

直線に記憶させたSMA線材を大きく曲げると、他の金属にはない一定の力で復元する超弾性力が働く。他の金属で容易に塑性変形する領域まで曲げても、この超弾性特性は直線に戻る性質(曲げ癖が付かない)がある。他の金属線材を曲げるときは、曲がりの大きさに比例して、曲げるために必要とする力が増加するが、SMA線材は曲がりの大小を問わずほぼ一定の力で変形、復元が可能である。つまり、前屈時に両腰部に挿入されているSMA支柱が一定の力で弓状に曲がり、超弾性ばね力で上体を支え、さらに腰を引き起こすときの負担軽減に役立つ。

図1 一般ばねとSMA超弾性特性の比較

引用:「形状記憶合金を使用した医療福祉機器の開発」(「金属」 VOL.85(2015)、No.12 別冊)

このように、他の金属にはない特性を生かし、腰に優しく従来にない機能を持つサポーターの開発に成功した。サポーターには直径1.5mm(長さ200、250、300㎜の3種)のSMA線材同長品を6本ひねり束ねた物(支柱)を左右それぞれ1本から3本まで任意数を装着する仕様で、好みのばね強度を選択することが可能である。

利用場面は、腰痛を引き起こす要因となる姿勢をとる作業、もしくは生活一般に対応している。具体的には介護、農業、漁業、物流、重量物取扱業務一般、立ち仕事、座位仕事などである。

本製品はシンプルなフレーム構造であり、上下ベルトと後ろベルトの3点支持で腰をガードし、特に後ろベルトが腰を後ろから支える感覚を与え、安定感を得られるもととなっている。また体への密着部分が少なく、装着時の蒸れ、かゆみ、あせもの発生も抑える。特に夏場では顕著な差が生じる。また、腰の絞め過ぎは柔軟な体の動きを妨げるが、本製品は穏やかな装着で足りるため、体のひねり動作など、活動しやすい特性を備えている。

仕様、材料などが全く同じではないので同じ基準では比較できないが、類似品それぞれの長短を当社独自の見解として以下に述べる。

 ロボットスーツ

重量物対処に効果があると思われるが、高額、脱着容易性、使用時間、装着重量感、可動域、作動意思の追随性等に難あり。

 腹巻タイプのサポーター(主にドラッグストアにて取り扱い)

廉価で腰に安定感を与え脱着も容易であるが、蒸れ、かゆみ発生、重量物対処、柔軟な体勢確保などに難あり。

 樹脂、ゴム利用の上下一体型タイプの補助具

重量物対処に一定の効果があると思われるが、高額、脱着容易性、蒸れなどに難あり。

今後の展望

現在の販売品はそれなりに完成度が高い物ができたと考えているが、試着した方々からいろいろな感想を頂き、特に重量物をより軽く感じることのできる物の需要が想像以上に多く、それに対応するタイプの開発も始めている。その他、大腿(だいたい)部カフとの連結、生地色のバリエーション化などのテーマがあり、一つずつ検証を重ね、使用する方に十分納得して少しでも喜んでいただける製品作りを目指していきたい。