2018年2月号
特集2 - 「くさい」は機械なら許せる?
大阪工業大学×コニカミノルタ
自分のニオイ数値を知っていますか?

人の3大体臭とされる臭いを数値に置き換え、スマホで表示させる「Kunkun body(クンクンボディ)」が話題だ。開発したのは、大阪工業大学の大松繁教授らのチームとコニカミノルタ株式会社。スメルハラスメントに関心が集まる昨今、臭いに敏感な世相を反映し大きな反響を呼んでいる。

自分の臭いへの自覚が希薄に

人の3大体臭は、「汗臭(脇汗)」、「ミドル脂臭」、「加齢臭」とされる。「汗臭(脇汗)」は、常在細菌が皮脂と汗を代謝し分解することで酸っぱい臭いを発生させるのが特徴で、10~30代半ばくらいから出てくる。また「ミドル脂臭」は、汗の中の乳酸が常在菌で代謝し分解(ジアセチル+中鎖脂肪酸)することで後頭部から首筋にかけて使い古した油のような臭いを発し、30~50代半ばに多いという。「加齢臭」は、中高年になると増加してくる皮脂中のパルミトレイン酸が酸化分解されて2-ノネナールが生成することで、脂臭くて枯草のような臭いを発する。50代くらいから多くなり、男性だけでなく女性も注意が必要である。2001年、資生堂リサーチセンターが高齢者の体臭の原因の一つ「2-ノネナール」を論文として発表したことで、加齢臭の主成分として一般化した。

人は同じ臭いを嗅ぎ続けているとその臭いを感じにくくなる。臭いのマスキング現象だ。自分の臭いへの自覚が難しくなる原因はここにある。

ニューラルネットワーク技術で臭いを識別

大阪工業大学 大松繁教授

大松氏は、世の中のさまざまな現象を数式に置き換えてモデル化し制御する制御工学が専門だった。自動車の動きを数理モデルで表し制御する研究だ。そこからAI研究にも広がった。そんな大松氏が、なぜ臭いの研究にかじを切ったのか。

今から16年前、タイ人の留学生から「タイ(バンコク)は悪臭がひどい。臭気を識別・測定できる機械を作れないだろうか」という相談を受けた。1995~2005年の間、米国電気電子学会でニューラルネットワーク部門誌の副編集長をしていた大松氏は、人の脳神経回路を模したニューラルネットワーク(神経回路網)の時流を把握していたという。それを用いて画像や音、臭いを数値化する研究へかじを切ると同時に留学生の指導をした。

ちょうどその頃、米国の研究者のRichard Axel(リチャード・アクセル)氏とLinda B. Buck(リンダ・バック)氏が「嗅覚受容体および嗅覚系組織の発見」で2004年のノーベル生理学賞と医学賞を受賞したことは大いに刺激になったという。

口臭をテーマにした理由は、奥さんからの口臭の指摘と、「内臓でも悪いんじゃない?」という一言だった。口臭に含まれる特有の生体ガスを計測できれば、病気の早期発見につながるかもしれないと考えた。例えば糖尿病ではアセトン、高脂血症は一酸化炭素、肝硬変ではアンモニアやエタノールなどが口臭として出る。奥さんの一言がなければ口臭測定とはならなかったかもしれない。口臭識別の原理を解明し、ハードウエアの小型化を目指したが、最初の試作機はかなり大掛かりになったという。

その後、さらに試行錯誤を重ね小型化を実現したのが写真1左である。この試作機は東京ビッグサイトで開催された「イノベーション・ジャパン2015」に、「ニューラルネットワークを用いた高精度な小型匂い識別器」として出展し、大松氏自身が会場でデモンストレーションをした。来場者が呼気を吹き込み、その臭いが数値となってモニターに表示されるとブース前は人だかりに。そこに居合わせたコニカミノルタの担当者と名刺を交換したことがきっかけで両者の共同開発が始まり、2年ほどかけて完成したのが「Kunkun body」である。

写真1 製品化のきっかけとなった試作機(左)

AI搭載の調香師ロボットも?

「Kunkun body」は、3大体臭を世界で初めて数値化、自分の臭いを視覚的に把握できる。その基となる原理を開発したのが大松氏で、コニカミノルタはその原理を応用し製品化した。内部の四つの半導体センサーが、ニューラルネットワークと、人の体臭データを収集し学習させたAI(人口知能)を駆使して三つの体臭をキャッチする(図1)。

図1 Kunkun body のLVQ構造

使い方は簡単で、スマートフォンに専用アプリを事前にインストールし、「Kunkun body」本体を測定したい場所(頭、耳の後ろ、脇、足の4カ所)から1㎝ほど離してかざしボタンを20秒長押しすると、Bluetooth(ブルートゥース)で接続されたスマホに100を最大として臭い数値が表示される(写真2)。本体に直接数値を表示させない理由は、ユーザーへより分かりやすい表現で結果を見せるためと、スマホを使うことで、測定場所、時間、天気など、ほかのさまざまなデータとの連携を可能にするためである。

写真2  大松教授に促され恐る恐る耳の後ろを測定すると、19という数値が。

正式販売はこれからだが、プレス発表後の反響は大きく、テレビや新聞などのメディアに加え海外からの問い合わせも殺到し、「THE WALL STREET JOURNAL」にも掲載された。臭い対策で頭を悩ます業界からの問い合わせも多く、ホテルなど宿泊施設内のたばこの臭いの統一化基準を策定すれば、嫌煙家へのアピールにもなるだろう。

同大学は、コーヒーやワインなどの香り計測と識別や、香り電子調香師の構築、呼気の識別と小型ハードウエアの開発なども進めている。さまざまな臭いや香りが標準化できれば、AI搭載の調香師ロボットが出現する日も近いかもしれない。

(取材・構成:本誌編集長 山口泰博)