2018年2月号
単発記事
国産小麦で食料自給率を上げる敷島製パンの突破力

国産小麦「ゆめちから」を活用したパンづくりで存在感を示す敷島製パン。その本気度は、地元生産者を動かし、小麦を主要取扱品目とする他社をも動かす。10年にも及ぶ取り組みが今なお続く理由には、食料自給率の向上によって社会に貢献するという高みの目標がある。

「ゆめちから」とは

国産小麦の「ゆめちから」は、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構北海道農業研究センター(当時は独立行政法人、以下「農研機構」)が開発し、2009年に品種登録された小麦だ。二十数年前までは国産小麦といえば90%以上が中力粉であった。この中力粉を活用し、新しい品種の小麦をつくろうと考えたのが当時農研機構にいた山内宏昭氏(現帯広畜産大学教授)で、「国産パン用超強力小麦ゆめちから」研究の第一人者である。

小麦粉はタンパク質の含有量と質によって薄力粉、中力粉、強力粉に分類され、その用途も異なる。タンパク質の少ない薄力粉はケーキやクッキーなどに、中力粉はうどんやお好み焼きなどに、タンパク質の多い強力粉はパンや中華麺などに適する。

「ゆめちから」は、小麦粉100g当たり約14gのタンパク質を含み、一般の強力粉よりさらに多いため、「超強力小麦」と呼ばれる。その特性は、小麦粉に水を加えてこねるとタンパク質からパンづくりに重要なグルテンが生地の中でつくられ、さらによくこねることで弾力の強い生地となる。「もっちり、むっちり」といった食感が得られ、ベーグルなどに適するという。また吸水量が多い性質を利用すればしっとりとした生地ができ、バウムクーヘンやスフレといった焼き菓子にも適応する。

世界的食糧危機で国産小麦に活路

「Pasco(パスコ)」ブランドを展開する製パン大手の敷島製パン株式会社(以下「同社」)は、長年にわたり国産小麦をけん引してきた。2017年11月現在、山型食パン「超熟 国産小麦」を中心とした31の国産小麦商品ラインアップがその証しだろう(写真1)。

写真1 国産小麦商品ラインアップの一部

さかのぼること14年、事の始まりは農研機構などが主催する新たな食のブランドを発掘するためのプロジェクト「食のブランド・ニッポン2003」だ。この時、同社と山内氏は運命的出会いを果たした。「国産小麦の道」への歩みの始まりである。

07年から08年にかけて、穀物生産国での干ばつや原油価格の上昇などで食糧価格が高騰し、国際的危機に陥った。日本では小麦粉のほとんどを輸入に依存しており、同社代表取締役社長の盛田淳夫氏は、世界的な食糧不安の中、小麦粉が今後も調達できるのか不安を抱いたという。同社によると、うどん用小麦の自給率はおよそ60~70%で、パン用はおよそ3%だという。それはリテールベーカリー*1では確保できても、大手が大量生産用に確保できるレベルではない。当時、国内の小麦はほとんどがうどん用で、パンに適したタンパク質の多い小麦は少なく、ただ「北海261号」という系統番号で試験栽培中の品種のみであった。そこでその品種を調べると、タンパク質が多く含まれ、質も良く、パンに適することが分かった。ブレンド次第で各種のパンにも対応できる。これが、国産小麦を活用する姿がおぼろげに見えてきたきっかけとなった。そこで同社は、パン事業で社会貢献していくことを宣言し、国産小麦「北海261号」を使ったパンづくりの研究を決断した。パン事業による社会貢献は同社の創業の理念にもうたわれている。しかし、国内での小麦生産の60%以上を占めていた北海道であっても、うどん用小麦がほとんどで、パン用はない。しかも小麦は縞萎縮病に弱く、その発生地帯では収穫量や品質の低下がしばしば問題となっていた。「北海261号」はこの病に強く、徐々にではあるが農家の収益に貢献していくことになった。

広がる「ゆめちから」ブランド

2010年、同社は農林水産省の「画期的な北海道産超強力小麦のブレンド粉等を用いた自給率向上のための高品質国産小麦食品の開発」プロジェクトに参加。食パン製造時の「ゆめちから」と「きたほなみ(中力粉)」の最適な配合比率6:4を突き止めた。

12年に山内氏が農研機構から帯広畜産大学に着任し、それを機に包括連携協定を締結。同大学との正式連携がスタートする。そして、一部の農家が栽培する「ゆめちから」を買い取り、「ゆめちから入り食パン」を、同社営業エリアの東京、関西、名古屋を中心に大手スーパーに1カ月限定で販売した。価格は300円と既存食パンのおよそ2倍だった。売り場を担当するスーパーのマネジャーからは、価格が高い上に、1カ月限定という条件付き販売が敬遠されるなど苦労もしたが、日の丸を意識し、どこからみても目立つようにとパッケージにも工夫を凝らした。またニーズ調査のため、キャンペーン用のPOPにはQRコードをプリントし、顧客の声を拾う仕掛けも展開した。すると「国産」に対する安心志向から、国産小麦へのニーズは非常に高いことが分かったという。

この実績を携えて、北海道の農家や自治体などの関係先を回り「ゆめちからをぜひ作ってください」と談判しに行った。この時、安定的に生産でき、安定した需要のあったうどん用小麦「きたほなみ」を作る農家が多く、栽培を引き受けてくれる業者は少なかったという。その後も生産者、製粉メーカー、行政等の関係機関と連携を深めた結果、同社の努力で「ゆめちから」の作付面積は徐々に増えていった(図1)。

図1 北海道における「ゆめちから」の作付面積

13年には、価格を220円に値下げし、「ゆめちから入り食パン」を通年販売として商品化。また社内外で「ゆめちから」キャンペーンを展開し、ベーグル、ブランロールと、次々と新商品も投入し商品ラインアップを増やしていった。

14年になると、さらに品質を改良する商品のリニューアルを敢行、統一のブランドマークを制作し、「ゆめちから」を使用した全商品にデザインした(図2)。このマークは、同社へ申請すれば、国産小麦ゆめちからを使う商品に無償で開放、これにサンドイッチチェーンのSUBWAY(サブウェイ)などが賛同し、使用した。このころから国や学術関連団体などからも注目を浴び、各種受賞を果たす。

図2 無償で使用可能のブランドマーク

15年には、国産小麦100%の食パン「超熟 国産小麦」を発売。同社は国産小麦の使用比率10%超えを果たした。さらに「ゆめちから入り塩バターパン」の大ヒットで、第2次塩パンブームを呼び起こした。商品が売れれば売り場は維持、売れなければ撤去される小売業界において、「ゆめちから」は、売り場をきっかけとして大きく認知されることとなった。餃子の王将を運営する株式会社王将フードサービスも、店舗で提供する皿うどん以外の麺類に使う小麦粉を「ゆめちから」に切り替えている。

日本の食料自給率向上を目指して

通常、大量生産のパン工場では、サイロに小麦を貯蔵し、工場までトラックで輸送する。しかし2014年当初、同社の年間の小麦調達量に対する国産小麦の比率は1.9%と少量で、既存の施設や輸送手段を使用できず、数十kgずつ袋に小分けして輸送せざるを得なかったという。そのため、サイロや工場の一部を改修し専用ラインを構築するなど、想定外の苦労を強いられた。

17年は産地の天候不順が原因で生産量が落ち、調達量も10%ほどに落とさざるを得なかったが、現在は15%まで回復した。物理的制約があるのも事実だが、それでも20年には20%を目標に掲げている(図3)。

図3 Pasco国産小麦使用比率の推移

小麦生産には、まだまだ課題があるという。また、国産小麦を同社が独占するわけにもいかない。国産小麦の使用を促進し、生産量を向上させて食料自給率を高めるのが目的であり、同社の国産小麦の商品だけを売るのが目的ではないからだ。そのため、自社分の調達量は20%が限界ではないかと複雑な胸中をのぞかせる。矛盾を抱えながらも、国産小麦で日本全体の食料自給率向上を目指す、その推進役の取り組みは今なお続く。

(取材・構成:本誌編集長 山口泰博)

*1
店舗内にパンを作るための厨房を持ち、製造・販売をしているパン製造小売店