2018年2月号
視点

余裕を失う「元気な企業家」

各地の企業を30年歩いてきて、最近は変調を感じる。「元気な企業家」の層が薄くなりつつあるということだ。元気な企業家というのは漠然とした表現かもしれない。もう少し具体的に言うなら、新しい事業や技術に挑戦することを楽しそうに語る企業家だ。こうした企業家群は産学連携の基盤となる。

現在も元気な企業家に出会うことは多いし、大学発ベンチャーは政府の政策支援の成果もあって増えてきた。しかし、大学発ベンチャーの決算書を拝見すると、営業損失を補助金収入で軽減しているような、納税で国家に貢献するに至っていない事例が多い。

筆者が15年前ぐらいから交流しているベンチャー企業群が、ようやくIPO申請できるフェーズに到達している。この頃に創業した企業家達は、いまだに現役の方も多い。一方、筆者が問題と感じているのは、25年前ぐらいに初めて訪問した企業群である。その当時と企業家が世代交代している事例が多い。

「元気な企業家」の後継者たちが、グローバル経済の奔流の中で、将来について明るく語る余裕を失っているような気がする。M&Aなどの手段で、昔より数が少ない「元気な企業家群」に事業を集約するフェーズが来ているのではないだろうか。

(野長瀬裕二 摂南大学 経済学部 教授)

初心忘るべからず-古い自己を裁ち切り新しいものに挑戦しよう

650年前、能を大成した観阿弥世阿弥が残した有名な言葉に「初心忘るべからず」がある。

能楽師の安田登氏によれば、「初」という字は「衣」と「刀」からできていて、元の意味はまっさらな生地(衣)に初めてはさみ(刀)を入れることだそうだ。つまり「初心忘るべからず」とは、「折あるごとに古い自己を裁ち切り、新たな自己として生まれ変わることを忘れるな」ということ。自分が持っていることを裁ち切り、常に新しいことに挑戦する勇気が必要と説く。

人間も年を取ると「もう年だから」とか「今までこうだったから」と現状維持を選択してしまう。そんな甘えを戒めている。この姿勢こそ、今、大学や産学連携に最も求められているものだろう。

人も大学も、存在する限り変化なくして生き残れないし、大学は進化する必要があるが、国立大学を中心に旧態依然の仕組みや慣習が跋扈(ばっこ)し、時代の流れから取り残され、海外との差は開くばかり。

今ある旧弊を捨て、目指すべき大学はどういうものか、真正面から挑戦する勇気を持って前に進んでいこう。

(松田一敬 合同会社SARR 業務執行役員)

編集後記

超分子化学では、日本とオランダがリードの一角に位置している。昨年末、オランダのアイントホーフェン工科大学のバード・マイヤー(Bert Meijer)教授が来日し、産学官の視点から、超分子システムの現状と展望および両国の連携について、オランダ大使館で関係者と議論した。同席された東京大学の相田卓司教授が最近発表した「割れてもくっつくガラスの開発」も超分子化学の成果の一面を持つという。2016年ノーベル化学賞を受賞した「分子マシンの設計と合成」も同様だ。まだ新分野のため定義が曖昧といわれるものの、何やらすごい技術が生まれそうな予兆のような気がした。

(本誌編集長 山口 泰博)