2018年3月号
巻頭言
工学と産学官連携
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佐藤 順一 Profile
(さとう・じゅんいち)

公益社団法人日本工学会 会長



国の研究開発事業において、近年、産学官連携は重要なキーワードとなっています。この産学官連携の重要性を工学の立場で考えてみたいと思います。

筆者が会長を務めている日本工学会は、1879(明治12)年に東京大学工学部の前身の工部大学校の第一期卒業生が発起人となって設立された日本で最初の工学系学協会です。当時は日本工学会に全ての工学部門の関係者が集まっていました。工学の産学官連合が一つ屋根の下で運営されていたわけです。これにより、学問としての工学の発展、その成果の産業への展開、産業からの学問への課題の提供、それらを踏まえた官の政策などが行われ、日本が急速に工業化していきました。明治期および大正期の工学および産業の躍進は、学会を媒介とした産学官の連携によって成し遂げられました。

ここで科学、技術、工学の関係を考えてみましょう。「工学」は社会の課題を解決するため「科学」・「技術」を利用し、それらに創意工夫を施し、計画・設計し社会実装する行為といえます。この工学が、科学や技術を刺激し、新たな科学や技術の領域を広げ発展を促していく役割も果たします。これらの3者は、互いに影響し合い時代とともに発展していきました。従って、科学の発見や新たな技術の開発が、社会に対して工学の新しいイノベーションを生み、それを社会へ実装するとともに、また社会が、種々の問題を解決するため、工学に新たなイノベーションを要求し、それが科学・技術を発展させてきました。

産学官連携を産業の面から見てみましょう。日本の産業が持続的に発展していくためには、日本独自の科学技術イノベーションが必要です。そのためには、科学の成果を産業に取り入れられるかということが重要になります。そこで問題なのは、科学を深く理解していない技術者は、科学の成果を製品技術に有効に使うことができないことです。一方、製品技術を深く理解していない科学者は、製品開発活動に有用な成果を作り出すことができないことです。

産学官が連携する必要性は、まさにここにあります。産学官の共同作業によって、初めて産業に有用なイノベーションを起こすことができるとともに、学は新しい学問を作り出すことができるのです。しかし、この連携がかなり難しい問題です。互いに産学官の連携が必要であると思ってプロジェクトを構築しても、使用している日本語の語彙(ごい)が異なり、表面的にはともかく、本当の意思疎通が難しいのです。産も学も官も互いに分かるはずだと思っているから、余計に始末が悪いのです。産学官の連携をうまく進めていくには、この両者の言葉や文化の違いを理解し、それらをつなぐ人が必要になります。このつなぐ人を育成していかなければなりません。産学官の場である学協会活動や、産学官のプロジェクトの経験が人を育てるのです。その意味で、国のプロジェクトの構築に当たり、産学官連携が重要なキーワードなのです。