2018年3月号
単発記事
産学官連携組織「あいぼう会」が目指す地域防災
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正木 和明 Profile
(まさき・かずあき)

愛知工業大学 地域防災研究センター 客員教授/企業防災ネットワーク「地震に強いものづくり地域の会」(あいぼう会)顧問

あいぼう会設立の経緯

2004年度文部科学省産学連携研究推進事業補助金により愛知工業大学地域防災研究センターが設立され、気象庁が試験配信を開始した気象庁緊急地震速報を東海地域の製造業を中心とした企業30社に2次配信し、その活用に関する研究が開始された。

気象庁からは、2次配信に当たり配信先の企業に対し、緊急地震速報の技術的限界など詳細な説明を行うことが要請された。説明会を重ねる過程において、緊急地震速報の活用にとどまらず、企業防災力の向上に関する一般的な課題に対し意見交換を行える場を担当者レベルで設けるべきとの意見が出され、「地震に強いものづくり地域の会」が設立された。

会の略称は、愛知工業大学地域防災研究センター、愛知県の防災、相棒などの意味を込めて「あいぼう会」(以下「本会」)と命名された。

活動目標

東海地域は自動車産業を中心とする日本有数の産業集中地域である一方、東南海地震、三河地震など、過去有数の地震災害に襲われた地域でもある。最も重要な産業が最もリスクの高い地域に集中しているといえる。このような極めて危険な状況を打破するためには、この地域の地場産業の防災力を向上させることが必要である。本会は、会員の主体的な活動および会員相互の切磋琢磨(せっさたくま)により、この喫緊の課題を解決することを活動目標と位置付けた。

企業の被災は、企業自体の問題にとどまらない。社員だけでなく家族の安全も確保されなければならない。社員は家に帰れば地域住民であり、地域防災の担い手でもある。企業の被災は地域経済へも波及する。このような観点から、本会は単に企業防災だけでなく、地域の防災力向上にも取り組むこととした。

産学官連携の組織

本会組織を図1に示す。愛知工業大学地域防災研究センタースタッフが事務局を担当している。会員は地域防災研究センターが配信する緊急地震速報を導入している企業・団体などの特別会員と、導入していないものの地震対策に興味を持つ企業・団体などの一般会員からなる。会員は企業として登録され、直接防災を担当する実務者が会社業務として毎月の活動に出席している。さらに、産学官連携の立場から、指定公共機関や経済団体は専門委員として、地方公共団体はアドバイザーとして毎回出席いただき、活動への助言や外部評価をお願いしている。

図1 あいぼう会組織図

活動内容

本会は、自社において直接防災対策を担う実務担当者の集まりであり、参加者全員が主体的に会の運営と活動に参加することが義務となっている点が特徴である。本会は月に1回開催され、会員は会社の業務の一環として参加していることから、得られた成果を自社に持ち帰り、防災対策に活用してもらうことにしている。

企業が防災対策を効果的に実施するためには、自社のみならず地域との連携が必要不可欠である。このような観点から、本会には地方公共団体、経済団体、指定公共機関にも参加いただいていることはすでに述べたとおりである。産学官連携が本会の特徴であり、この特徴を生かして次のような具体的な活動を展開している。

 1.分科会・ワークショップ

本会会員は自らが主体となって活動し、互いに切磋琢磨しながら防災に関する知識の向上を図ることが求められており、その活動の一環としての分科会(現在はワークショップに変更)には、会員全員が参加することが義務付けられている。分科会では複数のテーマを取り上げ、年間を通して開催し、年度末には成果をまとめ、会員相互で共有を図っている(表1)。

表1 分科会/ワークショップのタイトル一覧


 2.見学会

先進的に防災対策を推進している現場や施設を訪問し、担当者の説明、見学、意見交換を行う見学会を年に2回実施している。会員単独では見学が難しいが、産学官連携組織である本会の特徴を生かして見学が可能になった場合が多い(表2)。

表2 見学先一覧


 3.セミナー・勉強会・講習会

会員の防災知識の向上を図るために、月1回、大学の先生、公的機関や企業の専門職の方を講師として迎え、セミナーおよび勉強会を開催している。セミナー終了後は講師を囲んだ意見交換会を持ち、単なる講演会ではなく、必ず得られた成果を自社に持ち帰ってもらうことにしている。また、防災に関する体験、訓練、防災製品展示などを目的とした講習会も年に1回程度開催している(表3)。

表3 セミナー講師とタイトル一覧(最近2年間)


東北地域との連携

会員の中には東北地方に自社事業所・サプライチェーンを持つ企業も多く、東北地方太平洋沖地震における企業の被災実態、復旧対策に大きな関心が寄せられた。本会では地震後2回にわたり、石巻市役所、女川町役場を訪問し、市長、町長、災害対策・復興事業担当者との意見交換を行う一方、被災企業7社へのヒアリングを行った(写真1)。本会勉強会に、宮城県企業立地担当者を講師に招き、震災後の企業の復旧・復興に関して講演いただくなど、東北の企業・自治体との連携を図った。

写真1 石巻市長訪問

課題と展望

本会が設立されて10年目に当たる2016年3月に消防庁主催の「第20回防災まちづくり大賞消防庁長官賞」を受賞、さらに同年9月に内閣府の「平成28年度防災功労者内閣総理大臣表彰」を頂くことができたのは、本会の活動が地域防災力の向上に大きく貢献してきたことを評価されたものである。

一方で課題も多い。会員企業にとっては南海トラフ巨大地震への対策が喫緊の課題であるが、設立当初と比較して会員数は増加したものの、担当者の配置替えや企業事情により担当者の毎月の活動への参加が伸び悩んでいる。企業の被災は、単に企業のみならず、住民の、ひいては東海地域の今後の生活や経済に影響を及ぼす。

「あいぼう会」が今後に果たす役割は大きい。