2018年3月号
単発記事
小型高エネルギーX線非破壊検査装置の開発

草野 譲一 Profile
(くさの・じょういち)

株式会社アキュセラ 技術開発部

開発の概要

テーブルトップサイズで可搬型の電子リニアック方式の高エネルギーX線発生装置を開発した。従来、非破壊検査が困難だった構造体、現場設備などのX線透過画像撮像、その場検査を可能とするシステムを、産学官の連携協力により実用化し、実績を挙げてきた。

開発に至る経緯

1960年代後半からの日本の高度経済成長期に合わせて建設されてきた膨大な数の産業プラントや、高速道路建設と同時に設置された橋梁(きょうりょう)が、使用寿命といわれる50年を一斉に迎えつつある。しかし、有効な点検保守などの対策を講じる手立てを見いだせていない。

確実な点検診断をスピーディーに進めるためには、外観と内部構造の劣化に非破壊検査技術を用いた診断が有効とされていたが、設備現場の大型構造体には、従来商品化されていた300kV型X線管でもその透過撮像能力には限界があり、より高エネルギーのX線装置を展開する要請が産業インフラ保守の現場、橋梁の社会インフラ点検現場からさまざまな保守設備学会などを通して寄せられていた。

これらの要請を背景に、10年ほど前から東京大学大学院工学系研究科原子力専攻(東京大学原子力研究総合センター東海分室、以下「東大原子力専攻」)において、超小型電子ライナック開発とその応用を目指す計画が始まった。そこで株式会社アキュセラ(以下「当社」)が技術的バックグラウンドを有していたため、共同研究開発テーマとして「地域新生コンソーシアム研究開発事業」に取り組み、その後、ハードウエアの製作から電子ビーム加速試験、X線発生試験へと開発の段階が進んだ。

2010年度のタイミングで、国の「地域産学官共同研究拠点整備事業」においての茨城県の課題として「エネルギー選択型高精度非破壊X線検査システム開発試験装置」の整備が求められ、国際入札手続きを経て当社が納入した。茨城県はこの装置を東大原子力専攻に設置し、高エネルギーX線を用いた非破壊検査技術の開発に取り組んできた。

写真1 化学プラントの設備状況

昭和40年代から建設された設備が外面腐食にさらされている

技術的なブレークスルー

当該装置は、9.3GHzの電磁波を超小型の加速管内に共振原理で閉じ込め、電子銃からの電子ビームを加速、直径1.2mmでタングステンターゲットに衝突させ、950keVおよび3.95MeVの強力な制動X線を発生させるものである。このX線装置は物理実験などに用いられてきた、従来の2.4GHz電磁波を用いる電子加速器と比べ、加速管の長さで3分の1、システムとしての総重量は約10分の1を達成。非常にコンパクトなテーブルトップサイズの可搬型高エネルギーX線装置である。その上、現場診断が必要とされていながら、実現が困難であった高所狭所点検プラットフォーム設置のX線を用いた、重構造設備の非破壊検査と動作診断を可能とした。

可搬型高エネルギーX線発生装置の納品時には、2011年3月の東日本大震災に見舞われたが、可搬型と小型装置の特質から損傷も少なく、納品後にはその性能を実証し始めた。このころ、震災に遭遇した東北の化学プラント設備会社から、被害を受けた化学プラント精製塔の内部構造の異常有無を調査したいとの要望があった。従来の電子ビーム加速電圧最大300kVのX線管で長時間露光を試みたが、精製塔の内部構造は撮像困難だった。そのため950keVの装置を化学プラント現場に持ち込み、国内初の屋外での950keVX線非破壊検査を実施した。

結果は震度6弱の揺れと、施設床面まで津波に洗われたという設備にもかかわらず、精製塔内部構造の健全さを、X線写真の内容で確認できた。この結果を受け、被災地の当該化学プラント精製塔が再稼働され、「産業界のコメ」であるプラスチック原料の生産と供給再開が早期に実現された。

設備現場への適用

その後、2012~14年度には、民間4社と東京大学の産官学共同体制により、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)復興促進プログラムの助成を受け、加速管本体の高性能化、産業インフラ設備診断の現場設置が容易な筐体(きょうたい)モジュール化への変更、制御方式の改良などを行った。そして現場展開が可能な装置を実用化し、化学プラントの設備診断、コンクリート橋梁の構造鉄筋診断に用いる実績を重ねた。

14年度途中からは、内閣府主宰の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」において、社会インフラ診断技術開発の国立研究開発法人土木研究所(PWRI)、東京大学のX線撮像診断システムとしてさまざまな現場橋梁の検査と、東大原子力専攻においては観察が難しいPCコンクリート梁中の構造鉄筋解析のための3次元撮像技術開発にも用いられてきた。劣化橋梁の診断技術として、目視・打音検査にて指摘された異常部位についてのX線撮像では、特にPCコンクリートのPCスリーブ内グラウト充填(じゅうてん)状況確認に威力を発揮し、本質的な構造強度の判定資料と、劣化構造部の補修方法案を検討できるようになってきた。

今後は、SIPプログラムで求められている「開発した技術の民間移転・社会実装」を目指し、装置の高性能化やX線装置操作の汎用(はんよう)化、併せて現場展開時の放射線安全管理などの改良を加え、社会インフラや産業インフラの健康診断を汎用的にできるよう努めたい。

写真2 2016年10月 (SIPプログラム)新潟県 国道18号線妙高大橋での計測

床版上部から脚部への透過画像計測

写真3 縁石を除去した車道・歩道境界面の路面上から垂直照射