2018年3月号
単発記事
産学連携を契機に博士号を取得した中小企業の社長

超精密金型や金型部品の設計・製造を手掛ける株式会社新日本テック(大阪府大阪市)。代表取締役社長の和泉康夫氏は、昨年3月、53歳で博士号を取得した。 テーマは「PCD材料の精密成形加工技術の開発と精密加工したPCD工具・金型による先進加工技術の開発に関する研究」だ。

ファスナーの製造から金型部品の製造へ

株式会社新日本テック(以下「同社」)は、衣類などで使用するスライドファスナーのメーカーとして、新日本スライド・ファスナー工業株式会社の商号で1953年に創業。ファスナー製造で培った研削加工技術をベースに、75年には金型部門を設立、商号を株式会社新日本テックと変更した。

現在は、高機能や小型化が進む電子部品や光学部品などで不可欠な超精密金型や金型部品の設計・製造を手掛け、スマートフォンやタブレット、自動車、時計などに使用されるスイッチ部品やコネクタなどの電子部品の金型が事業の中心領域である。

共同研究がきっかけで博士号を目指す

新日本テック
和泉康夫代表取締役社長

2007年に「高精度加工用大型ダイヤモンド切削工具の開発」が経済産業省戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)に採択されたことから、産学官連携に関わった。国立研究開発法人産業技術総合研究所の、単結晶ダイヤモンドを金型部品に貼り付けることで工具の耐久性向上と長寿命化を目指す研究である。

10年には、同社を含む大阪のものづくり中小企業19社の経営者らが共同出資で「株式会社大阪ケイオス」を設立。和泉社長はその代表を務め、ものづくり企業間での情報共有や活用、共同受注、共同開発なども手掛ける。

同年、天然ダイヤモンドに次ぐ硬度を持ち耐摩耗性に優れているPCD(Poly crystalline Diamond:多結晶・焼結ダイヤモンド)が産業用に使われるようになってきたことで、「長寿命・微細PCD金型部品の開発」が同じくサポイン事業に採択された。従来、コネクタなどの電子部品を製造する金型材料には超硬合金が用いられていたが、独自技術により長寿命のPCD製の金型部品を製造。このとき、同社がリーダーとなってプロジェクトを推進した。そこで熊本大学(当時)の渡邉純二客員教授、峠睦教授との縁が深まり、同大学で博士号取得を目指すきっかけとなった。

12年に、この技術をもとにした「次世代LSI用超薄型PCDダイシングブレード製造販売事業」が経済産業省近畿経済産業局の新連携事業計画に認定され、翌年には「第25回中小企業優秀新技術・新製品賞」で優秀賞を受賞。技術開発と事業化を並行して推進するなど、微細精密加工の開発にも積極的に取り組む。

また12年2月には「かす上がり防止レーザ加工」で「第4回ものづくり日本大賞」優秀賞を受賞。プレス打抜き作業で出る「抜きかす」がダイ(雌型)の中に落下せず、パンチ(雄型)に付着して浮き上がる現象「かす上がり」は金型の破損や品質不良の原因となり、プレス加工の課題であったが、ダイに独自レーザ加工を施すことで課題を軽減し、特許を取得した(図123)。

さらに、13年には天皇皇后両陛下の行幸啓(ぎょうこうけい)を賜っている。

図1 かす上がり防止レーザ加工


図2 かす上がり防止レーザ加工(拡大)


図3 かす上がり防止レーザ加工(金型ダイ)


研究成果を事業化

京都大学で精密工学を学び、学士で卒業後、大手電機メーカーを経て家業を継いだ現在まで、一貫して学んできた知識を生かして仕事をしてきた。2014年9月に、50歳で熊本大学産業創造工学専攻の“社会人ドクターコース”に入学したこともその延長線上にある。会社経営と研究活動という多忙な日々を送りながらも、15年には、「放電加工によるPCDダイシングブレードの微細・精密加工技術の開発」が国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)に採択された。シーズ技術を保有する大阪府立産業技術総合研究所(当時)の南久氏、ダイシング装置メーカーの株式会社東京精密、硬脆材料の精密加工に関する知見を持つ熊本大学との産学連携により共同研究体制を構築し、半導体分野において、SiCなどの高硬質材料をひび割れや欠損を最小限に抑えて切断する技術で特許を取得、製品化にたどり着く(写真1)。以後、受けた顕彰は数知れず、地域の元気な中小企業といわれている。

写真1 PCDダイシングブレード

A-STEPの「放電加工によるPCDダイシングブレードの微細・精密加工技術の開発」は、自身の研究活動にもなり、2年半かけて17年の3月に博士号を取得した。和泉社長は「物事に対し、専門家としての発言を求められるようになり、より一層、慎重に考えていくようになりました」と、発言責任の重さを痛感しているようだ。

同社の事業姿勢は「リクエストとニーズにお応えすること」と、和泉社長。「リクエスト」とは、高度化する品質やコスト、価格環境などの要望のことで、超精密金型の設計製作と特注金型部品加工できめ細かく対応する。また、プレス加工時の「かす上がり」トラブルの削減や樹脂成型時での「糸ひき」トラブルの削減、金型の長寿化などの「ニーズ」には、機能性金型部品で対応している。それらの特徴を堅持しながら、和泉社長は「博士として、研究成果を事業化することが目標です」と語った。

(取材・構成:本誌編集長 山口泰博)