2018年4月号
特集 - 指定難病に立ち向かう
既存薬と異なるアプローチで潰瘍性大腸炎とクローン病の新薬を 
宮崎大学×ひむかAMファーマ

25年前、宮崎医科大学(現宮崎大学)で発見された生理活性ペプチドの一種のアドレノメデュリンが、難病治療に役立ちそうだ。長い研究の過程で潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患の症状改善への期待が現実化してきた。宮崎大学発ベンチャーのひむかAMファーマ株式会社は、新薬を待ち望む患者に早く届けるため、奔走している。

ひむかAMファーマの挑戦

新城裕司代表取締役

アドレノメデュリン(アミノ酸化合物:adrenomedullin、以下「AM」)の臨床研究・開発が進みつつある宮崎大学から、潰瘍性大腸炎やクローン病で起こる症状改善のため新薬開発を目指す大学発ベンチャーのひむかAMファーマ(宮崎県宮崎市)が2017年2月に立ち上がった。

数年後の創薬に向け、代表取締役社長の新城裕司氏は猫の手も借りたいほどの多忙を極める。新城氏は京都大学大学院を修了後の2000年にJR九州へ就職、05年の福岡市勤務時に九州大学ビジネススクールに通い技術経営(MOT)や産学連携を学んだ。08年に生まれ故郷の宮崎に戻ることを機にJRを退社。宮崎大学産学・地域連携センターで産学連携従事者に転身した。そこでの業務で扱う知的財産の知識が必要だと分かると、通信教育で弁理士資格を取得。持ち前の向学心と行動力で、宮崎大学の研究支援や産学連携などをサポートしてきた。

13年に、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の研究成果展開事業大学発新産業創出プログラム(START)の採択を受けるべく業務を進めていたとき、「このAMは、将来性が高い」と感じたそうだ。その後、STARTの採択課題では順調に結果が出て、「この先どうするか」という議論が白熱した。そこで、宮崎大学を退職し、同社専任で事業を動かしていきたいと起業した。

大学の専任教員の仕事を蹴ってまで起業の道を選んだのはなぜなのか。新城氏は「宮崎大学ではベンチャーでの起業も少ないのです。この研究を事業としていけると感じたのはもちろんですが、自分が率先して起業すれば、『宮崎でもできる』と感じてくれる学生もいるのではないかと思ったのです」と起業マインドを説く。

アドレノメデュリンの作用と既存薬

AMは、1993年に宮崎大学医学部教授の北村和雄氏、国立研究開発法人国立循環器病研究センター研究所長の寒川賢治氏らが、ヒト褐色細胞腫組織から発見した。長年の研究から、心血管保護作用や血管新生作用、抗炎症作用などの多彩な生理作用があることが分かっている。宮崎大学でも、炎症性腸疾患にAM療法が有用であることを確認した。09年には難治性潰瘍性大腸炎の臨床研究を実施し、臨床効果の確認に至っている。

既存薬は、抗炎症薬5-アミノサリチル酸(メサラジンなど)、免疫抑制剤アザチオプリン(イムランなど)、副腎皮質ステロイド、皮下注射インフリキシマブ(レミケード)、点滴注入アダリムマブ(ヒュミラ)など、遺伝子組み換えによって作られた抗ヒト型TNF-α阻害薬などを症状に合わせて服用し寛解に導く方法を取っている。そして腸管を刺激しないよう、低脂肪・低残渣(ざんさ)・低刺激の食事摂取を心掛けるという点で共通している。根治しない対処療法が一般的だが、十分な薬効が発揮されない例もしばしばあり、時に副作用も報告されるなど、一時無効、二次無効が顕在化していたという。また感染症や悪性リンパ腫、腸がん、大腸がんなど、発がんリスクも報告されている。ステロイド使用患者では、特発性大腿骨頭壊死症といった指定難病になる患者も見受けられ、難病治療で難病を増やしてしまう結果も大きな課題として残っている。

AM、次世代型AMのペプチド創薬シーズの研究や難治性腸疾患新薬開発を目指す宮崎大学とひむかAMファーマだが、AMは難治性腸疾患の新規治療薬としての優位性が認められる一方で、内在性ペプチドであるため投与後の血中半減期が短いなど薬物動態に課題があるのも事実だ。そこでこの課題を解決するため、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「創薬支援推進事業―希少疾病用医薬品指定前実用化支援事業―」を活用し、その成果を導き出そうとしている。

希少疾病用医薬品は、厚生労働大臣による指定後でもさまざまな支援制度がある。その一方で、製剤開発や非臨床試験から早期治験に至るまでの開発が求められているにもかかわらず、指定前では医薬品開発を推進する仕組みがなく、製薬企業などでは研究開発が進みにくい。そのため、希少疾病用医薬品の製造販売承認取得を目指す研究開発型企業が開発を促進するための一定の開発費用を補助する制度は、ベンチャー企業や患者にとってもありがたい制度で、3年以内の前臨床完了を目指し開発中だ。

AMの利点

・内在性ペプチドなので抗原性がなく安全性が高い

・強力な血管新生作用、粘膜修復作用がある(治療目標の粘膜治癒を達成し、現在の治療より寛解状態が長く保てる)

・低濃度投与のため、循環動態に問題が起こりにくい

AMの抗炎症作用

・炎症性サイトカインの抑制

・抗菌効果

・全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome:SIRS)での臓器保護作用

・胃腸炎改善


60代女性の潰瘍性腸炎患者では、ステロイド強力静注療法と白血球除去療法で加療しても寛解にならなかったが、AMの持続静脈投与(1.5pmol/kg/分、8時間/日、12日間)を行うと、粘膜再生が顕著に現れ、潰瘍が治癒し寛解へと導入できた(図1)。

図1 難治性潰瘍性大腸炎患者を対象としたAMの臨床研究

AMは人の体内にある生理活性物質で抗原性がないので、長期服用の薬として安全に使用できる可能性を秘めている。免疫抑制薬は感染症、ステロイド剤は骨粗しょう症などのリスクもあるが、既存薬と異なるアプローチで治療の可能性を見いだせそうなAMは現在潰瘍性大腸炎において医師主導治験が行われており、今年からはクローン病を対象とした医師主導治験も予定している。

「新薬を作るには患者の協力が必要不可欠です。治験者が早く集まればそれだけ研究・開発も早く進みます。宮崎大学以外でも、専門医のいる各地の大学病院や一般病院で実施しています」と新城氏。AM本来の薬効を保持し安定性の改善を実現できれば、製薬企業との提携による創薬開発も近い。

治験協力病院は表1のとおり。

表1 治験実施協力機関一覧


難治性腸疾患とは

難治性腸疾患とは炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease: IBD)とも呼ばれ、主に消化管に炎症を起こす慢性疾患の総称をいう。具体的な病名は、潰瘍性大腸炎(Ulcerative colitis:UC)、クローン病(Crohn's disease:CD)の2疾患からなり、ともに原因不明の難病で現在の医療では根治が難しい。厚生労働省指定の「指定難病」である。この2疾患は症状や治療方法が似ており、共通する症状は下痢、嘔吐(おうと)、腹痛を伴い、時に高熱が出る。そして体重減少(特にクローン病)などだ。

感染性腸炎とは違い、この2疾患は主に自己免疫的な機序によると考えられている慢性疾患で、その特徴は大腸や小腸などの消化管で、腸管が狭くなり食べたものが詰まる狭窄(きょうさく)や裂傷、腸管と皮膚などに孔(あな)が開きつながる瘻孔(ろうこう)や腸管に穴が開くなどする。その場合は手術を繰り返し、患部となる腸管を切除していく。

このように症状と治療方法が似ている両疾患だが、決定的に異なる点は、潰瘍性大腸炎は大腸にしか発症しないので、大腸全摘出で一応は完治となる。

クローン病は、口から肛門までのすべての消化管が対象で、好発部位は小腸と大腸だ。特に小腸は食べた物の栄養を吸収する部位なので、失えば死につながる。小腸の摘出によって残存小腸が短くなっていけば、短腸障害を起こし栄養が吸収できなくなる。残存小腸が2mを切れば、鎖骨下などの静脈に注射針を挿入し、高カロリー輸液による点滴(中心静脈栄養療法)が食事の代用となる。ただこの療法は、血管から直接栄養を送り込む“食事”であり、延命措置でしかないため、必ずカーテーテル感染(感染症)や敗血症、肝機能障害によって死に至る。ともに、日常的な下痢を伴い、その先は人口肛門装着による身体障害者の認定、さらにクローン病に限っては、短腸障害でも同様に申請すれば手帳取得となる(図2)。

標準的な治療は、初期状態から腸管を休ませておくことで症状を悪化させない。ではどうすればいいのか。それは食べないことだ。だがそれでは生きていけない。そのための食事が、脂肪や繊維質、刺激の強いものを控える「低脂肪・低残渣(ざんさ)・低刺激」で、調理も「煮る・蒸す・焼く」を基本とする。厳しい食事制限により栄養を取れないクローン病患者が痩せていくのはこのためだ。

図2 潰瘍性大腸炎とクローン病 標準的な対症療法と経過

正確な患者数が発表できる理由

両疾患の発症時の年齢は10~20代が最も多く、男女の区別はなく日本を含め欧米などの先進国諸国、とりわけ北欧に多い。わが国の場合、2016年度の「特定疾患医療受給者証」所持者数の統計を見ると、潰瘍性大腸炎が167,872人、クローン病は42,789人だ。それぞれが毎年1万人前後、2,000~3,000人前後増えていることから、18年度の最新患者数は、潰瘍性大腸炎はおよそ19万人、クローン病が5万人ほどと推測される。指定難病の患者数のトップをいくのは潰瘍性大腸炎だということが分かるだろう。

「特定疾患医療受給者証」は、指定医療機関の調査票や住民票、納税証明など手続きに必要な書類をそろえて、8月ごろに保健所に提出する。都道府県で認定されれば受給者票が発行され、所得に応じて医療費の公的負担が得られる。指定難病患者の証しといえる証書だ。患者数は、全国の受給者証取得者を集計し、その結果として公表される。従って指定難病の患者数は、正確な集計結果といえる。だが軽快と中等症の一部の患者は認定されないので患者数には算入されていない。

すでにポピュラーな病気になりつつある潰瘍性大腸炎を公表している著名人も多く、安倍晋三首相をはじめ、スポーツ界ではオリックス・バファローズの安達了一選手(プロ野球)、プロゴルファーの重永亜斗夢選手などだ。またタレントの若槻千夏さんやモデルで女優の高橋メアリージュンさんなど、病気を抱えながらの各分野での活躍ぶりは患者の励みにもなっている。しかし難病法の規定による総人口を優に超えている潰瘍性大腸炎は、早晩指定難病から除外されることになるだろう。

(取材・構成:本誌編集長 山口泰博)