2018年4月号
特集 - 指定難病に立ち向かう
希少・難治性疾患に関わる課題に応える大学発文科系ベンチャー 
NPO法人アスリッド

患者、医師、大学、企業、行政など、難病には多くのステークホルダーが関係しているが、そのどれにも寄らない中間機関だからこそできる客観的な活動で、大学発文科系ベンチャーのNPO法人が成果を挙げている。

アスリッドの概要

西村由希子代表理事

東京都文京区の特定非営利活動法人ASrid(アスリッド)は、設立時の2014年から16年までの2年間、大学発文科系ベンチャーで唯一のNPO法人として、東京大学のインキュベーション施設に入居。その後は大学付近に移転し、希少・難治性疾患分野の全てのステークホルダーに向けたサービスを提供している。

難病に対し、「企業」は薬を作り、「国」はその薬を認め、「患者」はその薬で病気を改善し、治したいと望む。それぞれ立場は違えど、全てのステークホルダーは同じゴールに向かい、関わり合っている。アスリッドはこれらの流れを円滑にするため、中立機関の役割を担っている。

アスリッドは、広義の研究者を生かした事業展開を行っており、

①研究活動の推進や理解、啓蒙(けいもう)と教育、難病の原因の究明、診断、治療方法の確立

②医薬品、医薬機器の開発販売促進

③患者・家族の医療、福祉、就労、教育、社会参加、情報などの諸要求の実現

④国内外関連組織間との連携


を目指し、四つの事業を運営する。

代表理事の西村由希子氏は、2003年、東京大学先端科学技術研究センター特任助手、知的財産権大部門助手をしながら、東大のマネジメント系NPOに参画し、知財(法律)と情報系に関わる活動をしていた。05年からは、このNPOの事業の柱に「希少疾患・オーファンドラッグ」が加わった。

技術移転の仕事ではサイエンス全領域を対象としていたが、希少疾患は大学ごとに切り出していては対応できないと感じたという。患者が見落とされがちだったり、福祉行政と研究開発がかみ合わなかったりと課題が多く、大学の業務が主となる研究者として担うには限界を感じた。そこで、大学、研究者、患者、企業、行政機関などとは利害関係のない中立的な立場で関係者間の溝を埋める機関が必要なのではないかと考えたのが、現在のアスリッドの事業スキームである(図1)。希少疾患における「疾患情報が少ない」「研究が少ない」「薬がない」などの「ない」や「少ない」を、「ある」に向かわせるのがコンセプトだという。

西村氏は2016年に東京大学助教を退職し、現在はアスリッド専任理事長としてさまざまなステークホルダーに耳を傾けている。

図1 アスリッドのポジション

プロジェクト

アスリッドには、どの立場にも偏らない、中間に位置するからこそできるさまざまなプロジェクトがある。

一例として、患者に研究を理解してもらい、研究における協力関係を円滑に構築することを目的として、患者協議会と協働で作成した「希少・難治性疾患関連研究協力・連携ガイドライン」がある。研究協力・連携を通じて、患者と研究者が双方の理解を深めることができる協力関係構築コンテンツだ。

また、患者とその家族との協働事例では、患者情報収集プラットフォーム「J-RARE」*1の運営がある。患者自身がサイトにアクセスし、日々の記録や情報を記載できる。患者の声を反映させながら研究を進め、新薬の開発につなげることが目的だ。また、その記録は患者自身の病態管理にも利用できる。患者会が運営事務局に所属し、研究者と意見交換を行っていることも特徴の一つだ。現状は、遠位型ミオパチー、再発性多発軟骨炎 、シルバー・ラッセル症候群、マルファン症候群、アイザックス症候群、ミトコンドリア病の7疾患のみの対応だが、今後疾患追加を実施していく。調査結果は製薬企業や大学研究機関、患者会などへ共有され、QOL(生活の質)の向上に役立てられる。

J-RAREを用いた調査研究事例の一つに、「遠位型ミオパチーの介助・介護の合理的配慮へのニーズ調査」がある。研究者と患者会が協働でリサーチ・クエスチョンを検討した上で、事前調査として研究者が患者へのインタビューを実施した。その結果を基に、第一の調査では具体的な合理的配慮に関する自由記述による質的調査、第二の調査ではニーズの重要度・充足度とQOLの関連について量的調査を実施した。なお、研究はアスリッド内に設置されている倫理審査委員会の承認を得ている。得られた結果は学術発表を実施するとともに、研究班と共有する。また、介護にあたる際のインストラクションを作成して関連事業や病院へ展開することが可能だ。

アスリッドの活動は国内のみにとどまらず、国際連携も積極的に実施している。海外患者会・研究機関との連携や、海外の学会講演や国際会議などへ参加、また国連で承認された希少疾患領域の「NGO Committee for Rare Diseases(CfRD)」*2への参画など、国際レベルでの課題解決にも取り組んでいる。

全国へ広がる難病の社会啓発活動「世界希少・難治性疾患の日」

希少・難治性疾患の病気に苦しむ人は世界中にいる。しかし、1疾患あたりの患者数が少なく、病気のメカニズムも複雑なため、多くの疾患は治療薬や診断方法の研究開発がほとんど進んでいない。

2008年にスウェーデンで開始され、毎年2月末に世界各地(17年は95カ国)で開催されるRare Disease Day (世界希少・難治性疾患の日、以下「RDD」)*3は、より良い診断や治療による希少・難治性疾患者のQOLの向上を目指すための啓蒙(けいもう)を目的にした世界最大級のイベントだ。

日本でも、その趣旨に賛同したアスリッドが中心となって日本開催事務局を設置し、RDDのグローバル事務局と提携し、10年から2月最終日にイベントを開催してきた。RDDの地域開催も支援しており、今では国内各地で開催されている(18年は39地域で公認開催、表1)。このイベントが患者と社会をつなぐ懸け橋となり、希少・難治性疾患の認知度向上のきっかけになればと、産学官さまざまな機関から協賛や寄付、後援などを得て実施している。

RDD2018(世界希少・難治性疾患の日)

ことし2月28日、「RDD2018(世界希少・難治性疾患の日)」が午前11時から10時間にわたり東京・新丸の内ビル3階のアトリウムで行われた。

患者や患者家族が書いた書籍や、「患者から見た研究者像」「研究者から見た患者像」を描いたマンガなど、誰もが分かりやすく理解できるよう展示にも知恵を絞る。また、RDDの最新情報や希少・難治性疾患領域の研究の最新情報が分かるパネルも展示。指定難病の告示番号と病名、分類を記載し、簡単に病気のことを知ることができる名刺サイズのカード「NANBYO Index」も目を引いた(写真1)。カードの裏面に印刷されたQRコードで「難病情報センター」*4のウェブページにアクセスすると、その病気のより詳細な情報を得ることができる。もちろんそのカードは誰でも持ち帰ることができる。

このほか、メインステージではさまざまなプログラムも用意され、患者本人や家族のトークセッションや、東京大学や国立研究開発法人などの研究者、厚生労働省といった行政側からの基調講演も行われた(写真2)。

写真1 指定難病330疾患のQRコードカード


写真2 ステージでのセッション


表1 RDD公認開催地域一覧(2018年3月20日現在)

公認申請書提出の上、RDD日本開催事務局より正式に公認(申請中を含む)された地域を掲載しています。

(取材・構成:本誌編集長 山口泰博)

*1
J-RARE
https://j-rare.net/

*2
NGO Committee for Rare Diseases(CfRD)
https://www.ngocommitteerarediseases.org/

*3
Rare Disease Day (世界希少・難治性疾患の日)
http://www.rarediseaseday.jp/

*4
難病情報センター
http://www.nanbyou.or.jp/