2018年4月号
単発記事
北海道職業能力開発大学校
エコ・モビリティで地域活性化を
顔写真

荒磯 恒久 Profile
(あらいそ・つねひさ)

北海道職業能力開発大学校 校長



はじめに

自転車タクシーは環境に優しい乗り物として、近年、再び注目されている。札幌にある特定非営利活動法人エコ・モビリティ サッポロでは、外国製の電動アシスト・自転車タクシー(以下「エコ・モビリティ」)を稼働させ、CO2排出ゼロなど環境を守り、高齢者にも優しい移動手段の構築を模索していた。「ものづくり」の手段を持たなかったNPO代表の栗田敬子(くりたけいこ)氏(写真1)は、北海道職業能力開発大学校(以下「北海道能開大」)*1の学生や先生と出会ったことから、住民のニーズが「もの」として形作られることを実感し、新たな夢の実現に踏み出そうとしている。これは「産学連携」よりも「民学連携」と呼ぶのがふさわしい。

写真1 特定非営利活動法人エコ・モビリティ サッポロの栗田敬子代表。背景はエコ・モビリティの運転部側の外観。

エコ・モビリティ ネットワークができるまで

写真2 株式会社Will-E
根本英希社長

外国製のエコ・モビリティは、三輪車タイプの電動アシスト型自転車に卵型の覆いを付け、人を乗せる車両である(写真1の背景に運転部が写っている)。エコ・モビリティは外国製しかなく、栗田氏は修理や部品の調達に日ごろから不便を感じていた。高価なバッテリーも1年ごとに交換が必要であり、国産のエコ・モビリティが生まれることを望んでいた。このような悩みを周囲に相談していく中、札幌市で設計や新たな機器の開発を手掛けている企業、株式会社Will-E(ウイルイー、北海道札幌市)の根本英希(ねもとひでき)社長(写真2)と出会った。根本氏は北海道中小企業家同友会産学官連携研究会(HoPE:Hokkaido Platform Entrance)*2の会員であり、近年は「北海道発寒冷地EV研究開発・利活用研究会(Team NEVS:チームネブス)プロジェクト」のメンバーとして、寒冷地電気自動車製作を目指しているエンジニアである。同時に北海道能開大の客員教授として学生のものづくりの指導も行っていた。栗田氏の要望に応え、根本氏は、北海道能開大に北海道発のエコ・モビリティ試作を学生の教育訓練の一環に加えてもらえないか打診した。

写真3 北海道能開大
江守真職業能力開発教授

この申し出に、北海道能開大で学生が取り組むべき新たな課題を見いだそうとしていた機械系の江守真(えもりまこと)職業能力開発教授(写真3)が着目した。後にも述べるように、北海道能開大では社会ニーズを取り入れた課題研究が教科となっていたのである。ここで、「NPOエコ・モビリティ サッポロ」、「Will-E」、「北海道能開大」というネットワークの基本フレームが形成されたのである。

北海道能開大の教育訓練の特徴

北海道能開大は、厚生労働省が所轄する独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構*3に属する省庁大学校である。文部科学省が所轄する大学とは異なる体系にあり、その目的は社会で即戦力として活躍する高度専門技術者を養成することにある。機械、電気、電子情報、建築の4系があり、4年修了時には卒業研究に当たる「開発課題」に全ての学生が取り組む。この課題は各系が独立して行うのではなく、必要に応じて4系が協力して行う。研究チームは、複数の系の学生からなる混成チームとなるのである。開発課題には社会のニーズを取り入れることが推奨されていて、「教材費」の範囲内で実質的な研究費が大学校から支給される仕組みになっている。これは見方を変えると、極めて自然な産学連携の形態であるといえよう。このようなシステムの下に、共同研究とは異なる教育の中での「民学連携」が北海道能開大で形成されたのである。

学生による試作

機械系には機械工作や溶接の機器が全てそろっているため、学生はエコ・モビリティのフレームを自由自在に形作ることができる。電動アシストは電気系の得意とするところであり、各種制御系は電子情報がこれまでの学習の成果を発揮する。機械系3人、電気系2人、電子情報系3人からなる8人の学生がチームを作り、指導に当たる教員も機械・電気・電子情報の3系からチームを形成した。

開発課題は原則として1年で完成させるものであるが、実際は先輩から後輩に引き継がれて完成に近づくケースも多い。現段階でのエコ・モビリティ試作機を写真4に示す。学生はこの開発課題を通して次のように感想を語っている。

「このプロジェクトに参加して、地域のいろいろな方と意見を交換し、そのニーズに応える難しさはありましたが、有意義な時間を過ごせました。学んだことを生かして考えることができるこのような機会が与えられたことに感謝しています。このプロジェクトを通して、地域の方々の意見が貴重であり、また意見が聞ける場があることが重要だと感じました」。

写真4 能開大型エコ・モビリティ2017年度試作機のフレーム部。電動アシスト機は後部座席の床下に収納予定。

今後の展開

このプロジェクトは、「民学連携」の特徴を発揮して同一課題を複数の機関が独立して行い競い合うという、独自の広がりを持っている。北海道能開大の他に、Will-Eが一般財団法人さっぽろ産業振興財団の「平成29年度小規模企業向け製品開発・販路拡大支援事業」に採択され独自開発を行い、さらに根本氏の紹介で苫小牧工業高等専門学校が自前で研究課題として開発に取り組んでいる。2018年3月に3機関が合評会を行い、「良いとこ取り」して完成度を上げようというものである。「産学連携」では、たとえコンソーシアムを組んでも各機関は役割分担を決め一つの目標に向かうのが通例である。それに比べ、本プロジェクトの方法は広く生活者のニーズを取り入れる仕組みとなっている。

ユーザー代表として、栗田氏は「使う立場からの意見がすぐに実体になって反映されることには驚いた」と手応えを語り、根本氏は産側として「学生は既存の自動車の概念を破る発想を持つことができる」とエールを送る。商品化にはさまざまな法規制をクリアする必要もあり、生産する上では知的財産の問題も生じる。根本氏は、個人の意見であると断った上で「生まれた技術はオープンにして地域に役立てたい」と語る。

商品化に向けて北海道中小企業家同友会HoPEメンバーのものづくり系の会社が協力を約束するなど、エコ・モビリティを核として地域を活性化しようとする新たなネットワークの形成が進んでいる。「民学連携」が地域活性化の核となることができるか、今後の発展に注目していきたい。

*1
北海道職業能力開発大学校
http://www3.jeed.or.jp/hokkaido/college/

*2
北海道中小企業家同友会産学官連携研究会(HoPE)
http://hope.hokkaido.doyu.jp/

*3
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
http://www.jeed.or.jp/