2018年4月号
単発記事
熊本地震の廃棄バスタブのリサイクルへ挑戦
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池永 和敏 Profile
(いけなが・かずとし)

崇城大学 工学部 ナノサイエンス学科 准教授



はじめに

近年、高硬度で軽量なガラス繊維強化プラスチック(GFRP)は、バスタブやヘルメットなどの身近な材料から、船舶や新幹線の車体などに多用されてきたプラスチック複合材料である。しかし、その高硬度の性質のため、ほとんどが埋め立て処理であり、GFRP産業界や廃棄物業界では完全リサイクルの技術が渇望されていた*1。2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震では、津波で打ち上げられた数多くの船舶が長期間放置されていたことは記憶に新しい。筆者の研究グループでは、16年3月末には一般社団法人日本海事検定協会の調査研究の一部の成果として、加圧マイクロ波条件の、無触媒アルコール加溶媒反応を用いたGFRPの完全分解技術を確立していた(MD法)。さらに株式会社堀甲製作所(熊本県上天草市)との共同研究において、エチレングリコールモノアリルエーテル(EGME)を用いた樹脂分解物には不飽和結合が導入されていることや、その樹脂分解物が不飽和ポリエステル樹脂(UP)の架橋剤として利用可能であることを明らかにした*2。その矢先の同年4月に熊本地震が起こり、筆者の研究室も甚大な被害を受けた。棚や機器が倒壊した研究室の中で、唯一難を逃れたマイクロ波装置(Initiator+8、バイオタージ・ジャパン製)を見て、「われわれの技術を用いて、地震で発生した廃棄バスタブのリサイクルを実施したい。被災した地元の自治体(益城町役場、西原村役場)、企業(株式会社掘甲製作所)、大学(崇城大学)から災害復興を目指したい」と考えた(図1)。この小文は、それらの活動のダイジェストである。

図1 廃棄バスタブの分解リサイクルの概念ルート

熊本地震で発生したGFRP製の廃バスタブの調査とサンプリング

地震が発生した約2カ月後の6月3 日から、ほぼ1カ月に1回のペースで益城町と西原村の震災がれき置き場の調査と廃棄バスタブのサンプリングを行った。ほぼ全ての廃棄バスタブは樹脂量が少ないフィラー(炭酸カルシウム)を含む硬質のGFRPで作られていたので、切断にはグラインダーが必要であった(図2)。

図2 益城町の震災がれき置き場の廃棄バスタブ

廃棄バスタブの分解反応*3

筆者らの開発したMD法を用いた廃棄バスタブの分解反応について、検討を開始した。専用耐圧10mL試験管に撹拌子(かくはんし)、廃棄バスタブ片およびベンジルアルコール(BnOH)を入れて、マイクロ波照射(温度300℃、圧力3.0 MPa、3時間、出力300 W)して目的樹脂分解を得た。使用した廃棄バスタブ片と反応残渣(ざんさ)の重量から、分解率が16.4%であることが分かった。これまでの分解率は100%であったことから、廃棄バスタブのGFRPは極めて強固な材質であることが予想された。そこで、3時間の反応を2回連続で行うことで、最終的に合計37.0%の分解率が得られた。この結果は、フィラーが充填(じゅうてん)された廃棄バスタブは極めて強固であり、従来の条件より2倍以上の時間と労力がかかることを意味している(図3)。フィラーの炭酸カルシウムを除去するために、10%塩酸水溶液で洗浄して、さらにMD法を行ったところ、フィラーの減少による隙間ができたため、分解率が10%程度向上したが、回収したガラス繊維の表面をSEM観察すると、塩酸による収縮劣化による竹の節のようなひび割れが生じていることが分かった*4。ガラス繊維にダメージを与えない回収方法としては、MD法を1回終了した時点で、フィラーを遠心分離しながら丁寧に除去する必要があった。

図3 MD法を用いた廃棄バスタブの分解反応と処理手順

樹脂分解物へ反応性の付与

IR分析とNMR分析の結果、BnOHを用いた樹脂分解物には、フタル酸系ベンジルエステルの構造が存在することが確認できたことから、MD法はよく知られたアルコール化合物による、エステル交換型の反応であることが予想された。次に、EGMEを用いて樹脂分解物にEGMEの構造由来のアリル基を導入する検討を行ったところ、BnOHの場合と同様に、2回連続での反応によって、分解率は満足できる値まで達した。また、樹脂分解物のNMR分析により、その構造には、反応性を持つアリル基の存在が確認された*5。なお、2017年度末までには、EGMEによる反応から得られた樹脂分解物を利用して、再生GFRPの製造を試みる予定である(図4)。

図4 架橋反応性を持つ樹脂分解物の不飽和ポリエステルとの予想反応機構

結び

バスタブは、主にGFRPとフィラーで強化された複合材料であり、経年変化によってさらに強度が増しているので、分解法としては、当該MD法(連続2回:合計6時間)が最適であり、今回の知見を基に、ガラス繊維にダメージが残らないさらなる簡便分解法を開発したい。また、このMD法は、廃棄バスタブの分解リサイクルの技術にとどまらず、廃棄された船舶、新幹線ならびにCFRP製の自動車や航空機への応用が期待される(図5)。

この研究は、益城町役場ならびに、西原村役場から実験用廃棄バスタブの提供、株式会社掘甲製作所からのGFRPに関連する技術的サポートの提供さらには、2016 年度日本海事検定協会の調査研究ならびに、岩谷科学技術研究助成の援助を受けて遂行された。 18 年3 月末には、熊本地震(225人:地震後の関連死者175 人を含む)で発生したがれきの処理や倒壊した家屋の解体作業などが一応終了する。しかし、住居や元々のコミュニティーの復旧の完了はまだまだ先である。 熊本県民の1人として、被害に遭われた全ての方々の早期復旧を切望するとともに、復興中の熊本におけるリサイクル研究の取り組みが、今後の災害復興技術の発展に少しでも貢献できることを祈念する。

図5 MD法が開く複合材料の近未来リサイクル

*1

1)Sugeta, T.; Nagaoka, S.; Otake, K.; Sako, T. Decomposition of fiber reinforced plastics using fluid at high temperatureand pressure. Kobunshi ronbunshu. 2001, vol. 58, p. 557-563.

2)Nakagawa, T.; Itoh, T.; Hidaka, M.; Urabe, T.; Yoshimura, T. Enhanced and Horizontal Recycling Technology of FRP Using Sub-Critical Water. Journal of Network Polymer,Japan, 2008, vol. 29, issue 3, p. 158-165.

3)Kamimura, A.; Akinari, Y.; Watanabe, T.; Yamada, K.; Tomonaga, F. Efficient chemical recycling of waste fiber-reinforced plastics:use of reduced amounts of dimethylaminopyridine and activated charcoal for the purification of recoverd monomer. Journal of Material Cycles and Waste Management. 2010, vol. 12, issue 2, p. 93-97.

4)福沢寿代、柴田勝司、伊澤弘行. リサイクルを目的とした不飽和ポリエステル(UP)を主成分とする複合材料の溶解性. 廃棄物学会第13回研究発表会講演論文集. 2002, vol. 1, p. 428(京都).

5)池永和敏. ガラス繊維強化プラスチックの加圧マイクロ波分解.自動車技術. 2015, vol. 69, no 4, p. 57-62.

*2

1)池永和敏、菊川智則、永光浩樹.エチレングリコールモノアリルエーテルを用いるGFRP の加溶媒分解と樹脂分解物の硬化試験. 第 64 回高分子討論会 . 2015, 2Y-10.(仙台)

2)池永和敏、堀江正二郎、二子石修 . ガラス繊維強化プラスチックのマイクロ波分解と樹脂分解物を用いた硬化物の作製 . プラスチックス . 2015, no.11. p. 15-18.

3)平成 27 年度調査研究報告書 . 一般社団法人日本海事検定協会 .
https://www.nkkk.or.jp/pdf/public_business_report_4-13-27.pdf

4)特願2015- 247597号 不飽和ポリエステル樹脂の解重合方法、その解重合方法を用いた不飽和ポリエステル樹脂の架橋用原料の回収方法、その架橋用原料を用いて架橋された不飽和ポリエステル樹脂の製造方法、および架橋された不飽和ポリエステル樹脂

*3

1)池永和敏. 永光浩樹 . 森平嵐 .「熊本大地震で発生した廃棄 GFRP のマイクロ波加圧分解とリサイクル」.第 65 回高分子討論会 .2016,3S-04(横浜)

2)熊本日日新聞(2017.3.16)
http://www.sojo-u.ac.jp/news/media/170317_007835.html

3)読売新聞(2017.5.28)
http://www.sojo-u.ac.jp/news/media/170529_007979.html

4)当該内容が平成29年10月14日にTBS「EarthLab」で紹介された。現在もアーカイブから視聴可能である。
http://www.tbs.co.jp/EARTHLab/archive/20171014.html.

5)河邊侑誠 . 池永和敏 . 加圧マイクロ波照射を用いる震災廃棄バスタブの分解反応.廃棄物資源循環学会.2017,B1-3(横浜)

6)池永和敏 . 森平嵐 . 河邊侑誠 . 熊本地震で発生したガラス繊維強化プラスチック製の廃バスタブのリサイクル . 環境浄化技術 .2017, 16, p.79-84.

7)池永和敏. 河邊侑誠. 震災で発生したGFRP 製の廃棄バスタブの加圧マイクロ波分解 . 高分子学会ポリマー材料フォーラム.2017,1PA-36(大阪)

*4
酸環境の影響
http://ms-laboratory.jp/fatigue/acid_1/acid_1.htm

*5
河邊侑誠 .平成29年度崇城大学工学部ナノサイエンス学科卒業論文.