2018年5月号
巻頭言
真のオープンイノベーションを目指して
顔写真

細井 裕司 Profile
(ほそい・ひろし)

公立大学法人奈良県立医科大学 理事長・学長


超高齢化への対応と新産業の創生、それによる地域の活性化がわが国において喫緊の課題であることは言うまでもない。奈良県立医科大学は、医学を基礎とするまちづくり、MBT(Medicine-based Town)構想の取り組みを通じて、これに貢献しようとしている。従来の医工連携が工学的知見を医学で活用するものが大半であったのに対し、MBTは医学的知見を工学やまちづくりに活用するものである。医師が有する膨大な知識を、患者さんの治療だけではなく、企業の技術者らに供与することで、医学的に正しい新ビジネスを起こすことを狙いとしている。

MBTの取り組みに対しては、国の地域活性化モデルケースに選定されるとともに、県、市、大学の間で包括協定が取り交わされており、体制は整っている。これを産業界に広げるため、一般社団法人MBTコンソーシアムを設立し、現在100弱の企業や団体が参加している。国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発)にも「空き家活用によるまちなか医療の展開とまちなみ景観の保全」のテーマで採択され、MBTの共同研究者である早稲田大学の後藤春彦教授を研究代表者として、まちづくりの側面を中心に研究が進められている。

また、私はJSTのリサーチコンプレックス推進プログラムにおいて、『i-Brain×ICT「超快適」スマート社会の創出 グローバルリサーチコンプレックス』のテーマで、けいはんなリサーチコンプレックスのオーガナイザーを拝命している。MBTとリサーチコンプレックスは複合型イノベーション推進基盤を成長、発展させ、地方創生にも資することを狙いとし、オープンイノベーションの推進を基本理念としていることで共通している。

米国などに比べてわが国はオープンイノベーションの環境が未成熟であるといわれているが、その要因の一つが参加者の信頼関係が弱いことではないかと考えている。米国などでは、日常的な交流の場で突っ込んだ意見交換が行われていると聞く。わが国では少し突っ込んだ話をしようとすると「NDAを結んでから」ということになり、下手をすると数カ月時間を要する。人のアイデアを盗んではいけないことは人間として当然のことであり、そこを信頼できない者にはMBTやけいはんなリサーチコンプレックスに参加してほしくない。

このため、MBTコンソーシアムでは定款で「人間として、お互いに信頼できる人や企業・団体等が結集し」とうたい、けいはんなリサーチコンプレックスでは全参画機関で「けいはんなの誓い」を結び、『法を論ずる前に「人間として正しい」ことを共通の行動規範とする』とともに、けいはんなリサーチコンプレックスの自治体制での情報保護を図っている。

「産学官連携」が連携したことだけで満足していては意味がなく、成果が製品などの形で社会に実装されることが重要である。MBT、けいはんなリサーチコンプレックスともに、この意味での「成果」を出せると確信しており、引き続きご協力をお願いしたい。