2018年5月号
特集 - 起業を支援する
高知大学「起業部」~kochi startups club~
顔写真

吉用 武史 Profile
(よしもち・たけし)

高知大学 地域連携推進センター 准教授



起業部の概要

「起業部」は2017年3月に設置、高知大学教員が中心となって運営している。その目的は、学生のイノベーティブマインドと社会人基礎力の向上を企図した教育プログラムである。起業部と名乗っているが、在籍中の起業を必ずしも重要視しておらず、アントレプレナーシップおよびイントレプレナーシップの醸成に重きを置き、学生の「自分の中でやってみたい何かがあること」や「社会に対して変えてみたい何かがあること」を条件に入部を認め、それをプロジェクトとして実現するためのサポートの場として位置付けている。大学の正課ではないため体系的なカリキュラムは構築しておらず、学生個人個人の希望に沿ったサポートを心掛けている。ただし、学生が考える「何か」は漠然としており、また、本当に心から願う自分事なのか、といった点も不確かな場合が多い。これらを明確にするため、プロジェクト立案においてはマイプロジェクト**1を土台としている。また、ゼミなどへの分属前の1、2年を主な対象学年とした。

起業部の立ち上げにおける企画と立ち上げ後の運営において、高知大学地域協働学部の須藤順講師と共に進め、同時に学生のメンターも担っていただいている。メンターはほかに県内外の起業家や企業経営者などに依頼し、学生のプロジェクト内容や活動に対するさまざまな助言が得られる体制となっている。学生とメンターとのやり取りでは、定期ミーティング(写真1)における対面形式やWEB会議システム、Facebookの専用グループを利用しており、また、夏には四万十川中流域の山間への合宿も実施した(写真2)。立ち上げから約1年が経過したことから、1年間の歩みと課題などについて述べる。

写真1 起業部月例ミーティング


写真2 合宿風景

立ち上げの経緯と必要性

2015年度、高知大学は高知県立大学や高知工科大学、高知工業高等専門学校、高知学園短期大学、県内産業団体、高知県庁と共に文部科学省「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+事業)」に申請、採択を受けた。COC+事業では、学生の県内就職率の向上とともに、県内における雇用の創出が求められている。雇用創出のために、大学が保有する資源を生かしたプログラム構築が求められる中、高知大学地域協働学部で社会起業論を教え、自らも起業や企業経営の経験を有する須藤講師に協力を依頼した。須藤講師の助言により、秋田県が主催する「おこめつ部」*1や、崇城大学による起業家育成プログラム*2などを参考にしながら、高知大学「起業部」の骨子を考案した。学生の起業意識は本学としてほとんど把握していなかったため、起業部に対する学生の反応に心配はあったが、立ち上げから約1カ月で10人近い入部希望があった。多くは地域協働学部の須藤講師の指導学生であったが、教育学部の留学生や他大学からも入部があった。

大学で起業といえば、教員の革新的研究シーズによるベンチャー設立がイメージされる。しかしながら近年は、高齢化に付随する介護や福祉、中山間地の過疎、買物難民などの社会課題が深刻化し、社会起業家のニーズが高まっている。他方、近年の若者の傾向として、明治大学の小田切徳美教授が提唱するように、田園回帰の志向があり、学生の将来の仕事観において必ずしも高収入を求めず、社会貢献意識が高まっているとの声もある。中山間地で一人役の雇用を賄うだけの収益を上げることは困難だが、行政縦割りを取り払い、小規模分散的な資源や仕事を上手くつなぎ合わせることによって、連結決算で黒字経営を図る考えを島根県中山間地域研究センターの藤山浩氏が提案しており、高知県においては四万十市の大宮産業株式会社の事例もある**2。これらを鑑み、学生の社会貢献意識の向上と地方の社会課題の深刻化の両方への対応として「起業部」が有効と考えている。現在のところ、具体的な活動事例として高知市内におけるコ・リビングスペース(写真3)の設置や、学生によるカーシェアリング事業が部員主導により検討中である。

写真3 コ・リビングスペースでのミーティング

今後の展望

起業部を1年間運営する中で、いくつか今後の展望を考え直す示唆があった。起業において最も重要な条件として、実現に向けた強固な意志が求められるが、特に1、2年の若い年代では最初から強固な意思を持つことは難しい。従って、学生への教育プログラムと考えるならば、まず優先すべきは意識改革であった。この対策として、部員の一歩先を行く起業準備中の社会人との交流・連携を図る。現在、高知県庁も起業を強力に推進しており、産業振興推進部産学官民連携・起業推進課が「KOCHI STARTUP PARK」を設置し、これから起業に取り組む方やすでに起業準備を進めている方を対象とした、さまざな実践型の支援プログラムやメンターとの事業相談、新たな価値の共創のための交流の場の構築など、多くの支援策を講じている。これらは学生も参加可能だが、まだ意思が醸成しきっていない学生が社会人の集まりに飛び込むには勇気がいる。従って、起業部の位置付けはKOCHI STARTUP PARKへ部員が参加するための誘導とサポート、そして参加後の振り返り学習とアフターケアとなるよう考案中である。

学生は意外と多忙であり、休日も実習やレポートに追われる。社会を変えたいと思う漠然とした「何か」があっても、日々の忙しさから置き去りにされる。学生の自由な発想に基づく行動は、その成否に関わらず住民や社会に対して少なからず影響を与える。置き去りにされることなく「何か」を実現できるよう、県とも連携しながら後押しすることで、社会課題に対する閉塞(へいそく)感を抱える地域の変革の一助になることを期待している。

●参考文献

**1
須子善彦.オンライン大学において「学習する組織」を実現する挑戦:自分事からはじまるプロジェクト学習手法「マイプロジェクト」の可能性.ビジネス・ブレークスルー大学レビュー.2014,No.3,p.66-80.

**2
藤山浩.“集落地域への人口定住を支える『小さな拠点』~決め手は“合わせ技”の循環づくり~”.国土交通省.
http://www.mlit.go.jp/kokudoseisaku/kokudoseisaku_tk3_000054.html,(accessed 2018-05-15).

*1
農耕型スタートアップ・プロジェクト「おこめつ部」
http://okometsubu.com/index.html (accessed 2018-05-15)

*2
崇城大学☆起業家育成プログラム
http://www.sojo-v.com/ (accessed 2018-05-15)