2018年5月号
海外トレンド
米国サンフランシスコに見るスタートアップ アクセラレーター
〜INDIE BIOの挑戦〜
顔写真

土居 修身 Profile
(どい・おさみ)

前愛媛大学 社会連携推進機構 知的財産センター長 教授


INDIE BIOとはどのような存在か

写真1 INDIE BIOが入居するビルの入り口

目指すINDIE BIO(インディーバイオ)は米国サンフランシスコのダウンタウンのメインストリートから少し離れた裏通りの薄汚いビルにあった(写真12)。元は倉庫か何かだったらしい。われわれは、以前本誌でも紹介した、四国の産学連携を四国サイズで推進するための体制構築を目指して四国の国立5大学で構成している、四国産学官連携イノベーション共同推進機構(SICO)から派遣された三匹の侍だ。ミッションは米国サンフランシスコにおける民間ベースのスタートアップ支援の実情調査だ。日本で下調べをした段階では、INDIE BIO訪問の目的をスタートアップ・インキュベーターの調査と位置付けていた。ところが、面談を約束していたアレックス(30歳代とおぼしき好青年)と少し話した段階で、われわれはINDIE BIOに対する認識を一変させなくてはならないことに気が付いた。INDIE BIOはインキュベーターではなくアクセラレーターなのだ。

写真2 INDIE BIOのオフィスとラボ

アクセラレーターは主にスタートアップ企業の成長を「加速する」ことを目的にしている。その支援期間はあらかじめ設定されており、数週間から数カ月とインキュベーターのそれより非常に短期である。INDIE BIOでは、単なるアイデア段階のものでも、そのアイデアがエキサイティングで大きなマーケットを目指すものであれば入居対象となる。もちろん企業の設立そのもののサポートも受けられる。何より特徴的なのは入居が許される期間だ。インキュベーターでは2年くらいの入居が一般的だが、INDIE BIOではたった4カ月だ。基本的には4カ月で全てのプログラムを終え退去しなくてはいけない。「4カ月くらいで一体何ができるというのか?」当然われわれも疑問を投げかけた。答えは明確だった。「スタートアップに時間のプレッシャーをかけるためである」がその答え。そして、それを可能にするためINDIE BIOはスタートアップにシード資金と訓練プログラムを提供しているのだ。何と!入居したら入居費を支払うのではなく逆に25万ドルの資金がもらえるのだ。その代わりINDIE BIOはスタートアップから8%の株式を譲り受ける。プログラムでは10年先のビジョンと短期の目標が設定され、後述するメンターの手厚い支援を受ける。最重要なブレークスルーを4カ月の短期間で成し遂げ、さなぎが蝶へと不連続的にジャンプするのだ。

INDIE BIOはベンチャーファンドであるSOSVをバックに持つ創薬、メディカルケア、メディカルデバイスなどの幅広いバイオ分野の民間スタートアップ支援機関だ。設立してからまだ3年。現在の入居は14社で、これまでの入居企業の累計は81社。まだIPOの実績はないが、INDIE BIOを卒業した企業は1億2000万ドル以上の出資を集めており、総資産価値は5億5000万ドルと評価されているそうで、あと2~3年でEXIT(IPOやM&A)できる企業が出てくると期待されている。

INDIE BIOのメンターたち

INDIE BIOには常駐メンター6人と外部メンターがいる。常駐メンターのバックグラウンドはさまざまだ。うち3人は博士号取得者でそれぞれ異分野の技術的な専門家。デザイナーやマシンラーニングの専門家もいる。どのスタートアップを入居させるのかも基本的にはこの6人の常駐メンターが決定する。もちろん外部の専門家にも相談する。INDIE BIOに入居を希望するスタートアップたちは、この常駐メンターの厳しいチェックを突破しなくてはいけない。何度も何度もインタビューされ、インタビューの都度宿題が出され、次回のインタビューでこれに答えなくてはいけない。

驚くべきは外部メンターだ。何と世界中に200人いる。しかも全てボランティア。ディナー会、セミナーなどの集まりで出会った人に依頼するようだ。要は友人、友人の友人、そのまた友人という形でネットワークを広げていったとのこと。彼・彼女たちがボランティアで参加してくれる理由はいくつかあるとのこと。一つ目は、エキサイティングなイノベーションに関わりたいという好奇心、二つ目は、自分のこれまでのキャリアを生かして若い人たちをサポートしたいという情熱、そして三つ目は、あわよくば優良な案件に投資したいという少しの「スケベ心」のようだ。

メンターはサンフランシスコの人に限らない。もちろん地元サンフランシスコの人はface to faceで支援ができるので効果的であるが、例えば欧州のメンターはTV電話などでサポートする。外部メンターのメンバーシップは特にない。内部的にリストは作成しているが、明確な義務や約束はないとのこと。ウェブで紹介しているメンターもいるが、掲載を希望しない人もいる。ただ、新たにメンターに加わってもらう際には、その人に電話して、これまでのキャリア、何を成し遂げたいのかなどをヒアリングするとのこと。日本のサラリーマンメンターのような七面倒な採用手続きはない。アレックスは明言しなかったが、雇われ外部メンターは役に立たないというニュアンスがひしひしと伝わってきた。

われわれは何から始めるべきか

写真3 インタビュー風景(左から筆者、兼平重和徳島大学特任教授、アレックスINDIE BIOプログラムディレクター)

四国では、前述のSICOが中核となって、スタートアップを継続的に創出できる新たなエコシステム(四国大学発スタートアップハイウェイ構想:仮称)を立ち上げる議論が始まっており、四国でINDIE BIOのようなエコシステムを構築するためのアドバイスをアレックスに求めた(写真3)。彼いわく、「まずはラボを作ること」。前述のINDIE BIO紹介のところで書き忘れたが、INDIE BIOは最新鋭のバイオテクノロジーのラボを持っている。入居者は24時間いつでもこのラボにアクセスすることができる。もちろんこのラボで設備できる機器にはどうしても限界があるので、大学や公的な機関とのパートナーシップを活用して、入居者が必要とする研究環境を提供できるように努めているとのことだ。彼が二番目に挙げたのが、「科学者とビジネス界の人たちが日常的に意見交換できるオープンな場の設定」だ。これは以前本誌で紹介したコロラドのRVC(ロッキーズベンチャークラブ)**1のようなスタートアップコミュニティーのことだと理解した。その場で日常的にアイデアを交換し、刺激し合う自由な雰囲気の環境が必要なのだ。彼が三番目に挙げたのが前述の「メンターの組織化」で、会社設立や法律問題などにも明るい専門家のネットワークが求められる。そして、彼が最後に最も重要で難しいとの前置きで指摘したのが、「スタートアップを育てる有効なプログラムの策定」だ。当然このプログラムの策定にはメンターたちの献身的な尽力が欠かせない。この支援プログラムの策定はスタートアップの人たちと相互に意見交換しながら行わなければならないとのことだ。

米国でもINDIE BIOのような、ファンドがベースとなったアクセラレーターはまれとのこと。であれば、四国においてわれわれがINDIE BIOモデルの四国版を導入することに成功すれば、世界的にも特筆的な取り組み例とすることができるのだと意を強くした。

終わりに

彼の発言の中で最も印象に残った言葉の一つに「世界中に科学者がいる。そして世界には素晴らしいサイエンスがある」がある。INDIE BIOに入居した81社のうち、大学発のスタートアップは約75%とのこと。博士号取得者の全員が大学や企業の研究者になれるわけではない。彼・彼女らの多くは、研究者とは別のキャリアに移らなければならないのだ。INDIE BIOはこのような現実を直視した活動を民間ベースで展開しており、「科学者を起業家に変える」というINDIE BIOのキャッチフレーズがそれを如実に表している。

●参考文献

**1
土居修身.“コロラドのスタートアップ事情~ロッキーの懐、赤い大地に息づくスタートアップたち~”.産学官連携ジャーナル2017年9月号.
https://sangakukan.jst.go.jp/journal/journal_contents/2017/09/articles/1709-06/1709-06_article.html,(accessed 2018-05-01).