2018年5月号
研究者リレーエッセイ
高分子薬剤の切り拓くNew Dimension
─副作用のない固型癌に普遍的な制癌剤は可能だ─(2)
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前田 浩 Profile
(まえだ・ひろし)

一般財団法人バイオダイナミックス研究所 所長/熊本大学名誉教授/大阪大学招聘教授/東北大学特任教授

EPR効果は腫瘍選択的薬物デリバリーの基本原理である

最近の日本DDS学会誌にEPR効果(enhanced permeability and retention effect)の発見の歴史を含むレビューを記しているが**1、そもそもEPR効果の発見の端緒は、別の研究から解ってきた。すなわち、細菌感染症(炎症)の血管透過(漏出)性の亢進(こうしん、つまり、浮腫の誘発)は細菌が産生するプロテアーゼが原因で起こるブラジキニンの生成などの炎症/起炎性因子の生成が真の原因であることを見いだした(図1**234

図1 ブラジキニン生成と分解のカスケード**14

ハーゲマン因子(Ⅻ因子)からカリクレイン・キニン生成に至るカスケード。微生物プロテアーゼは各ステップを活性化する。がん細胞由来のプロテアーゼも同様である。Kunitzは大豆由来のセリンプロテアーゼ阻害剤、CPNIはカルボキシペプチダーゼNインヒビター、ACEIはACE阻害剤のこと。


さらに、固型腫瘍部の血管透過性の亢進も同様にブラジキニンの生成によることを明らかにした**56789。この血管内腔から組織内への漏出性(leak)は、血漿(けっしょう)タンパクなど高分子物質が特に顕著で、低分子物質では正常組織も、炎症部もあるいは腫瘍部ともに同様である(図2)。さらに組織内へleakしたそれら高分子物質の回収(clearance)は通常はリンパ系によるが、腫瘍部では、それがほとんど滞っていることを見いだした**891011。実はこの事実をわれわれにはそれより前にすでに油性造影剤リピオドールを腫瘍の栄養動脈に動脈注射した例で証明していた**111213。リピオドールを正常の組織内に注射すると、リンパ系からのみ回収され、その回収経路のリンパ管をX線によって検出できる。まず、われわれはヒトの肝臓癌症例に対して、肝動脈よりスマンクス/リピオドールを動注すると、圧倒的な肝腫瘍選択性にデリバリー(ターゲティング)できることを見いだした**1112131415。この薬物の腫瘍部濃度と血液内濃度の比は2,000倍にもなる。つまり、この場合はX線CTによる造影した画像として検出でき、しかもそれが癌部にピンポイントするので著効を示すと同時に、副作用のない癌治療ができたのである。今ではこの治療作戦もEPRによるものであることが分かってきた。

図2 Enhanced Permeability and Retention(EPR)効果

高分子物質(エバンスブルーアルブミン複合体)(A、B)とアルブミン結合ローダミン(C)、および低分子物質ローダミン(MW約400)の原発移植癌(S180)(A、C)、及び肺転移癌(C26)に対する癌部選択的集積性を示す。Dの低分子物質(ローダミン)は癌部に集積しない。A-Dは各薬物を静脈内投与48時間後の画像。転移部病巣にも高分子はよく集まる(矢印部)(B)。


このような腫瘍選択的EPR効果の原因に、一つは癌組織と正常組織における血管の微細構造の違い(血管の外側のペリサイトの欠損など、血管内皮細胞の不完全性、規則性の欠如など)(図3**15、さらに血管の漏出性(透過性)を亢進する多くの血管作動性因子(表1)が過剰に産生されていることの二つによることを証明した**14。これら表1の因子は当然のことながら、腫瘍部のみならずその周辺の健常組織の血管にも作用する。EPR効果の定義として、特徴をまとめてみると表2のようになる**10

表1 EPR効果の因子**14



表2 EPR効果の特徴と注意点


図2に示したように移植癌にも、原発性癌にもあるいは転移癌にも、高分子(ナノメディシン)はEPR効果によって選択的に癌部に集まるが、健常組織には集積しない。これと同様に、図2Dのローダミンは低分子であり、腫瘍部選択性はないが、高分子化(BSA化ローダミン/牛アルブミン結合体)では腫瘍部に選択的に集積する。これは他の化学発癌剤で発生した自家癌の大腸癌でも乳癌でもみられるが、正常組織には高分子化薬剤は集まらず、EPR効果はないといえる**141516。ヒトの固型腫瘍でも証明されている**1

これらの事象は、かつて、放射性ガリウム投与によるシンチグラムによる癌部の画像化検出がよく行われたが、実はEPR効果によるものであるといえる。放射性Gaクエン酸[56Ga]は血中に投与すると血中の分子量約9万のトランスフェリンと結合し、高分子薬として挙動し、その集積は、生体親和性の最も高い高分子であるトランスフェリンの集積となる、故にEPR効果による腫瘍部への集積の現象に適合する訳である**17

図3 電子顕微鏡写真

健常な血管(A-D)と腫瘍部血管の走査電子顕微鏡写真**101415(本文参照)。Eの中央部は肝内転移癌の娘結節(経0.2mm)。


上述のように、EPR効果は血管作動因子の過剰な生成に加え(表1)、血管の細胞形態学上の微細構造の欠損にも起因している(図3**15図3は担癌マウスの血液内に水溶性ポリマーの原料を注射し、それを血管内で高分子化させると、血管のキャストができる。血管以外の組織のたんぱく質を濃KOH(水酸化カリウム)で溶かすと、全身の血管のキャスト(樹脂)ができる。それを走査顕微鏡で観察したのがこれらの写真(図3)である。上段のADが正常の組織の血管で、下段のEHが癌部で、そこで高分子の樹脂(ポリマー)が血管の外側に漏出している様子が見られる(EF)。あるいは血管が途中で切断している場合がGである。また、その腫瘍血管内皮細胞間の接合部(ジャンクション)に穴(OP. opening)があることを示している(H)。これらに対し、正常の血管では漏出することもなくスムーズで、規則性があり、血管内皮細胞間同志の接着部(junction)はタイト(D白矢印)である**15

(次号に続く)

●参考文献

**1
前田 浩.EPR効果の発見とその展開.Drug Delivery System.2018,vol.33,no.2,p.80-88.

**2
Matsumoto. Koki; Yamamoto, Tetsuro; Kamata, Ryuji; Maeda, Hiroshi. Pathogenesis of Serratial Infection: Activation of the Hageman Factor-Prekallikrein Cascade by Serratial Protease.Journal of Biochemistry. 1984, vol. 96, p. 739-749.

**3
Kamata, Ryuji; Yamamoto, Tetsuro; Matsumoto, Koki; Maeda, Hiroshi. A serratial protease causes vascular permeability reaction by activation of the Hageman factor-dependent pathway in guinea pigs. Infection and I mmunity. 1985, vol. 48, p. 747-753.

**4
Molla, Akhteruzzaman; Yamamoto, Tetsuro; Akaike, Takaaki; Miyoshi, Shinichi; Maeda, Hiroshi. Activation of Hageman factor and prekallikrein and generation of kinin by various microbial proteinases. Journal of Biological Chemistry. 1989, vol. 264, p. 10589-10594.

**5
Matsumura, Yasuhiro; Kimura, Masami; Yamamoto, Tetsuro; Maeda, Hiroshi. Involvement of the kinin-generating cascade and enhanced vascular permeability in tumor tissue. Japanese Journal of Cancer Research. 1988, vol. 79, p. 1327-1334.

**6
Matsumura, Yasuhiro; Maruo, Keishi; Kimura, Masami; Yamamoto, Tetsuro; Konno, Toshimitsu; Maeda, Hiroshi. Kinin-generating cascade in advanced cancer patients and in vitro study. Japanese Journal of Cancer Research. 1991, vol. 82, p. 732-741.

**7
Maeda, Hiroshi; Matsumura, Yasuhiro; Kato, Hisao. Purification and identification of [hydroxyprolyl3] bradykinin in ascetic fluid from a patient with gastric cancer. Journal of Biological Chemistry. 1988, vol. 263, 16051-16054.

**8
Maeda, Hiroshi; Noguchi, Youichiro; Sato, Keizo; Akaike, Takaaki. Enhanced vascular permeability in solid tumor is mediated by nitric oxide and inhibited by both new nitric oxide scavenger and nitric oxide synthase inhibitor. Japanese Journal of Cancer Research. 1994, vol. 85, 331-334.

**9
Matsumura, Yasuhiro; Maeda, Hiroshi. A new concept for macromolecular therapeutics in cancer chemotherapy: Mechanism of tumoritropic accumulation of proteins and the antitumor agent smancs. Cancer Research, 1986, vol. 46, p. 6387-6392.

**10
Maeda, Hiroshi; Sawa, Tomohiro; Konno, Toshimitsu. Mechanism of tumor-targeted deliverly of macromolecular drugs, including the EPR effect in solid tumor and clinical overview of the prototype polymeric drug SMANCS. Journal of Controlled Release. 2001, vol.74, p.47-61.

**11
Iwai, Ken; Maeda, Hirosh; Konno Toshimitsu. Use of oily contrast medium for selective drug targeting to tumor: Enhanced therapeutic effect and X-ray image. Cancer Research. 1984, vol.44, p.2115-2121.

**12
Konno, Toshimitsu; Maeda, Hiroshi; Iwai, Ken; Maki, Shojiro; Tashiro, Seiki; Uchida, Mitsukuni; Miyauchi, Yoshimasa. Selective targeting of anticancer drug and simultaneous image enhancement in solid tumors by arterially administered lipid contrast medium. Cancer. 1984, vol.54, p.367-2374.

**13
Konno Toshimitsu; Maeda Hiroshi; Iwai Ken; Tashiro Seiki; Maki Shojiro; Morinaga, Tetsuo; Mochinaga, Mizuho; Hiraoka, Takehisa; Yokoyama, Ikuzo. Effect of arterial administration of high-molecular-weight anticancer agent SMANCS with lipid lymphographic agent on hepatoma: A preliminary report. European Journal of Cancer and Clinical Oncology. 1983, vol.19, p.1053-1065.

**14
Maeda, Hiroshi. The link between infection and cancer: Tumor vasculature, free radicals, and drug delivery to tumors via the EPR effect. Cancer Science. 2013, vol. 104, p.779-789.

**15
Maeda, Hiroshi. Vascular permeability in cancer and infection as related to macromolecular drug delivery, with emphasis on the EPR effect for tumor-selective drug targeting. Proceedings of the Japan Academy, Series B, Physical and Biological Sciences. 2012, vol.88, p.53-71.

**16
前田 浩,方 軍,中村秀明.EPR効果を持つナノプローブによる革新的PDTへの大いなる期待.日本分子イメージング学会機関誌.2015,vol.9,p.3-10.

**17
Maeda Hiroshi; Matsumura Yasuhiro; Oda, Tatsuya; Sasamoto, Kazumi. Cancer Selective Macromolecular Therapeutics: Tailoring of an Antitumor Protein Drug. In Protein Tailoring for Food and Medical Uses (eds: R.E. Feeney and J.R. Whitaker). Marcel Dekker, Inc., 1986, p. 353-382.