2018年7月号
単発記事
本田圭佑選手が第二の故郷へ恩返し
金沢大学がスポーツで地域活性化

金沢の星稜高校サッカー部OBで、メキシコ1部リーグ・パチューカで活躍した本田圭佑選手が「地元金沢に恩返しをしたい」と、自身のマネジメント会社を通じて金沢大学のスポーツ施設を整備。双方の思いが一致し、スポーツを通じた地域の活性化事業が動き出した。

人工芝に照明設備を備えたサッカー場

「金沢大学スポーツ・地域活性化ドリームプロジェクト」は、金沢大学(以下「金大」)と本田選手のマネジメントを行うHONDA ESTILO株式会社(ホンダ・エスティーロ、現SOLTILO株式会社)と金沢市の産学官連携による地方創生プロジェクトだ。

金大の角間キャンパス中地区東端は、主に課外活動で使用される陸上競技場やサッカー場、馬場、テニスコートなどのスポーツ施設が集中する。江戸時代に加賀、能登、越中を所領とした加賀藩主前田家の居城である金沢城内のキャンパスは全国でも珍しく、「お城の中のキャンパス」として親しまれてきたが、1989年から順次角間地区に移転。30年弱を経た施設は経年による老朽化が否めないが、近年の運営費交付金減額などの影響もあり、施設更新に二の足を踏んでいた。サッカー場は土のピッチのため、雨が降れば水たまりでぬかるみ、照明がないため、夜間練習は近隣の北陸大学のグラウンドを借りるなどしてしのいできた。

リニューアルされたサッカー場と陸上競技場

HONDA ESTILOは、本田選手自らプロデュースする「ソルティーロ・ファミリア・サッカースクール」を、全国各地で70校以上運営する。千葉県千葉市・海浜幕張駅から程近い「ZOZOPARK HONDA FOOTBALL AREA」は同社プロデュースのサッカー場で、サッカースクールをはじめさまざまなイベントを開催し、地域活性化に一役買っている。

そんな実績を引っ下げて、HONDA ESTILOがサッカーを通じた地域貢献、少年サッカー教室などを中心に、学生や地域住民も活用できるようにしたいと、金大の施設のリニューアルを行った。具体的には、サッカー場2面(フルピッチ縦105m×横68mと、少年サッカー用ピッチ縦80m×横50m)と、隣接する陸上競技場(400mトラックの内側)にもフルピッチ1面を設け、その全てにロングパイル人工芝を敷き詰めた。さらに夜間練習用の照明も14機設置。その費用の全てはHONDA ESTILO側が負担した。

リニューアルされたサッカー場

金大にとっては、老朽化が進む学内施設の再整備費用を肩代わりしてもらえる上に、その施設の運営管理も任せられる。また、整備し、利便性の高まった施設を地域住民に使ってもらうことで地域にも貢献でき、まさに「渡りに船」となった。

サッカー場の呼称は「金沢大学SOLTILO FIELD」としているが、今後はHONDA ESTILO側がネーミングライツ・パートナーや広告バナー看板のスポンサーを募り、費用負担軽減を図る。そして大学の施設でサッカー教室やイベントを開催することで地域活性化を目論む。現在は、サッカー場の管理運営団体を通して一般利用も可能となっている。

市民が利用できるサッカー場を金沢市に増やしたい

金大の学長秘書室長の田中剛氏によれば、市内最大の西部緑地公園陸上競技場(天然芝ピッチ、ナイター設備、2万人収容のスタンド)、次いで金沢市民サッカー場、小学生などが練習に使用する犀川(さいがわ)河川敷の、まめだ簡易グラウンドが代表的なサッカー場で、サッカー人口が多い割には、練習できるサッカー場が少ないという。

金沢市は加賀百万石の歴史観光都市以外に「スポーツ市」という一面も併せ持つ。金沢市内の星稜高等学校は全国高等学校サッカー選手権大会で優勝するなど上位入賞の常連校で、本田選手をはじめ橋本晃司選手、鈴木大輔選手など多くのJリーガーを輩出している。大阪府摂津市出身の本田選手は、星稜高校サッカー部に所属し活躍していたため、第二の故郷でもある金沢に恩返しをしたいと常々考えていたという。「子どもたちにサッカーのできる場所を増やしてあげたい」と、HONDA ESTILOを通じ、石川県や金沢市などにその候補地を相談していた。その話を聞きつけた金大の山崎光悦学長が「これは地域貢献にもなる」と手を挙げた格好だ。

プロジェクトに際し、本田選手は昨年6月、ワールドカップ最終予選でイラク戦を戦った後、イラン・テヘランからUAE・ドバイを経由し、中国・上海でのイベント開催を終え、小松空港に降り立った。金大で講演するための里帰りに、並々ならぬ意気込みを感じる。

金沢大学で特別講演する本田圭佑選手。座席360人の講義室には立ち見を含め600人近くが殺到。その外には800人近くが集まった。(写真提供:金沢大学)

民間資金を活用した施設整備の先駆けに期待

しかし、大学にとってはうれしいことばかりではない。大学の土地や施設に対し、サッカー場のネーミングライツや継続的な広告掲出には文部科学省との調整が必要だった。通常、教育機関である大学の土地や施設は固定資産税が免除されているが、営利が絡むと話は別だ。従って固定資産税支払い手続きは市との調整が必要で、煩雑な手続きをクリアした上で相応分を支払うことになる。

「国立大学に人工芝のサッカー場が3面あるのは珍しく、しかも夜間練習までできるのはここだけではないでしょうか。グラウンド自体の使い勝手が良くなったことで、多くの人が集まる場になれば」と田中室長。

2020年東京オリンピック・パラリンピック開催を契機に、スポーツ産業の発展やインバウンド、日本を訪れるビジネスパーソンも増加傾向にあるといわれる。そして、さまざまな分野で投資が加速し、付随効果も含めた経済効果は計り知れず、GDPと雇用増が期待される。そんな中での民間資金を活用した公共施設整備の先駆け故、馬場、テニスコート、北地区の体育館など、そのほかの設備にも波及すればと期待を膨らませる。さらに田中室長は「学生が海外インターンシップにも参加できれば」と、HONDA ESTILOが持つ海外ネットワークにも期待をにじませた。

大学スポーツ・アドミニストレーターの配置など、大学のスポーツ活動を支援する「平成29年度大学スポーツ振興の推進事業」選定大学は、青山学院大学、大阪体育大学、鹿屋体育大学、順天堂大学、筑波大学、日本体育大学、立命館大学、早稲田大学だ。金大はこの事業の選定は受けていないが、自力でもやれる姿勢を示すことで大学の価値を上げようとしている。

(取材・構成:本誌編集長 山口泰博)