2018年8月号
特集 - 就職戦線異状あり!イノベーションの発火点データサイエンス
早稲田大学
「高度データ関連人材」としての博士の育成
顔写真

朝日 透 Profile
(あさひ・とおる)

早稲田大学 博士キャリアセンター センター長/理工学術院教授、D-DATaプログラム実施責任者

背景と目標

経済のグローバル化が一段と深まりつつある中、国際間の産業競争はますます激化し、他方で環境問題や貧困格差など地球規模の課題が陸続と現出している。かかる状況下で、高度な専門性を武器に課題の解決に貢献できる人材として、大学で研さんを積んだ博士号取得者(以下「博士人材」)が学理の考究にとどまらず、社会で広く活躍することが求められている。

一方、近年、急速に進化した情報科学とその技術は社会のあらゆる領域に浸透し、「知のありかた」を大きく変えようとしている。

早稲田大学では、このような現状認識のもと、博士人材にAI、IoT、ICT、ビッグデータ解析、サイバーセキュリティーのスキル(データ関連スキル)を習得させ、社会の多様な分野へ展開できる人材として日本および世界に輩出すべく、2017年より国内外の大学、研究機関、企業などと共に「高度データ関連人材育成プログラム」(D-DATa: Development of Data Analysis Talents Program)*1をスタートさせている。

人材育成

本プログラムは、人材の掘り起こしから育成、産業界への輩出まで一貫かつ徹底したキャリア支援を行うものである。プログラムの具体的な運営は、博士キャリアセンター*2が担当している。当センターは、2008年に前身であるポスドク・キャリアセンターを再編して設立され、以来、キャリア相談などの進路支援に加え、博士人材にコミュニケーションやリーダーシップなど、実践的なスキルを身に付けさせるカリキュラムを数多く実施してきた。

本プログラムに関し、当センターでは、理工系から人文・社会科学系まで幅広い分野を対象として、「データ関連スキル」×「高度な専門性」を身に付けた高度データ関連人材を育成するカリキュラムを、早稲田大学データ科学総合研究教育センター、グローバルエデュケーションセンターなど他箇所と横断連携して実施している。博士人材は文理を問わず、データ関連スキルを高い専門性と併せ持つことで、実社会で活躍するための大きな武器とすることができる。

また、本プログラムは博士人材を主な育成対象としつつも、「博士の卵」である学部生と修士課程学生、さらには社会人にもカリキュラム受講の資格を与えている。学部生と修士課程学生に対して「博士課程進学によって実践的かつ高度なスキルを身に付けることができ、より良いキャリア選択につなげることができる」という認識を促進し、いまだにわが国にまん延している「博士課程進学は生涯のキャリアパスにおいて不利になる」という誤解を払拭(ふっしょく)する狙いもある。

プログラムの構成

本プログラムは、理想的な高度データ関連人材の像を「データ利用サイクルの技法と幅広い分野のデータ処理手法の知見を備え、それに基づいて実際にデータを処理し、課題解決まで導くことができる人材」と定義し、基礎研修プログラムと実践研修プログラムの二つの柱から構成されている。

基礎研修プログラムは、難易度、スキル分類、処理フェーズ、分野の各観点を軸に幅広い講座が用意されている。このうち、難易度が「入門・基盤・応用」の講座は、基礎力にばらつきのある非情報系学生に一定の情報解析スキルを身に付けさせ、プログラム参加のハードルを緩和させる工夫がなされている。また、先端の応用技術や高度専門技術を習得する仕組みを含んだ領域別コースも用意され(現在は5コースが展開)、進化の著しい情報技術の動向に即応した教育が可能となっている。また、短期集中型の特別セミナーとして「AI入門ブートキャンプ」(写真1)、「CUDA プログラミング集中セミナー」、「Micro MBA」なども他プログラムと連携して実施し、受講生のレベルやニーズに柔軟に対応している。

写真1 基礎研修プログラム AI入門ブートキャンプ

実践研修プログラムは、基礎研修プログラム受講者を選抜実施しているもので、「中長期インターンシップ」「実践型Project Based Learning(PBL)」「On the Project Training」の三つの形式がある。いずれも、基礎研修で培ったデータ関連スキルの実践力を高め、企業内で早期活躍や新規事業立ち上げが可能なレベルに昇華させることを目的としている。「中長期インターンシップ」は約20社の企業で受け入れ可能となっており、PBLはプロジェクト開発、データと課題提供、講師派遣など多様な形態で13以上の機関と連携している。

なお、学生がプログラムに応募する際は、アプリケーションシートを提出させ、高度データ関連人材としての素養や受講動機、データ処理に係る研究実績などから選抜を行い、それぞれのスキルレベルと専門性に応じた適切なカリキュラム受講のアドバイスや指導をしている。また、プログラムの全過程を通じて当センターが学生からの相談にきめ細かく対応しており、学生のキャリアパス開拓を一貫して支援する体制が整えられている。

コンソーシアム

プログラムの理念を具体化し展開していくために、早稲田大学が代表機関となり、国内外の大学や研究機関、企業、経済団体などと共に「高度データ関連人材育成コンソーシアム」を結成している。コンソーシアム参画機関のお茶の水女子大学、山形大学、東京理科大学、日本女子大学などでも本プログラム参加募集が行われ、所属学生が受講している。参画機関の国立研究開発法人理化学研究所、国立研究開発法人産業技術総合研究所とは、コレド日本橋にあるWASEDA NEOにおいて、人工知能に関する領域別コースを協同で開講し、両機関から講師の派遣を得ている。また2017年度は、本プログラムの博士課程学生が海外参画機関であるドイツ・ボン大学へインターンシップ派遣された。

進捗と課題

2017年10月にスタートして以来、本プログラムは学内外から当初の予想を上回る反響を得ている。初年度の登録人数は167人であった。内訳は、博士課程学生28人、博士号取得者7人、修士課程学生などその他が132人となっている。なお、博士課程学生と博士号取得者の中で32人の登録者が情報通信系以外を専門とする者であった。

開講中の基礎研修プログラム科目の様子は、受講生の熱気によってしばしば「沸騰」しているかのようである。いくつかの講義は、平日昼間に研究業務のある博士や社会人の利便性を考慮し夜間や土日に開講されているが、意欲的な受講生の参加が衰えることはない。本プログラムの方向性が、博士人材を中心に確かな支持を得ていることを実感している。

最後に、今後の課題を述べて結びに代える。

本プログラムは、文部科学省「データ関連人材育成プログラム」*3の採択を受けて開始されたものであるが、公的補助が終了した後も長期に持続可能な教育プログラムとして機能するために、企業(産業界、金融界)からの協賛金獲得に積極的に取り組んでいる。質の高いプログラムを定着させ、長期的に持続させるためには、プログラムの財政的な自立が不可欠となるからである。本プログラムでは提供科目を適宜見直し、市場価値の高いデータ関連人材を育成すべく、カリキュラムの検討と開発を続けたい。