2018年11月号
特集 - 「飲・食」を集めて貢献 産学官
山形大学 
果物や野菜のおいしさをスマホアプリで簡単測定

野田 博行 Profile
(のだ・ひろゆき)

山形大学 学術研究院 准教授


「おいしさの見える化」システムの概要と原理

著者らが開発した果物や野菜の「おいしさの見える化」システム*123**1の概要を図1に示す。まず、タブレット端末やスマートフォンにおいしさの見える化アプリケーションソフトをダウンロードし、内蔵カメラを用い、野菜や果物を撮影する。次に、野菜や果物の画像を選択し、背景を除いた後、クラウド上の計算式で解析すると、直ちに「あまい」や「ふつう」、「すっぱい」、「にがい」などのコメントとともに味のレーダーチャートとBrix値(糖度の物理量)が表示される。

図1 野菜・果物のおいしさ見える化システム


おいしさの見える化の原理は以下の通りである。まず、野菜や果物の可視画像を赤(R)、緑(G)、青(B)に分解したRGBヒストグラムから平均値と標準偏差を抽出する。次に、Brix値や味覚センサーで測定した味覚値、グルタミン酸含量などの味要素とRGBの平均値、標準偏差および硝酸イオン含量や導電率との間の相関係数を求める。このうち、相関係数の高い(0.6以上)味要素の計算式をクラウドに実装し、計測した画像データと照合することによりおいしさを見える化する**23。既存の近赤外分光法による糖度測定(一部酸味)とは異なり、一度の測定で苦味や旨味など多種類の味要素を見える化できるのが長所である。

開発のきっかけ

開発のきっかけは、2009年の2月にさかのぼる。有機農業資材などを扱うマクタアメニティ株式会社(福島県伊達市)代表取締役の幕田武広氏から、福島県のアドバイザー事業の補助金を使ったコンサルテーションを依頼されて、筆者のこれまでの経験と知識を基に、当該企業の業態に即した新規事業を1カ月ほどかけて探索したことに始まる。

苦労した点

当初、アイデア先行で開発が始まったため、基礎データに乏しかった。そのため、マッチする補助金がなく、なかなか開発費用が捻出できず、開発の膠着(こうちゃく)状態が5年ほど続いた。その間、地道に基礎データを積み重ねるとともに知的財産を確保し、ようやく2014年に経済産業省の補助事業(ものづくり補助金のサービス分野)に採択された。これにより、4種類の野菜のデータが取得でき、実用化の可能性を見通せるようになり、おいしさの見える化システム開発の基盤が整った。その後は、経済産業省の補助事業「異分野連携新事業分野開拓計画」により、異分野企業による連携体構築と「商業・サービス競争力強化支援事業」の支援により加速度的に開発が進み、現在16種類の野菜、果物に適用できるまでに至った。

課題と今後の展望

おいしさの見える化システムにおける判定の成否は、野菜の味の基礎データとRGBデータおよび硝酸イオン含量、導電率から求めた計算式がいかに精度の高い予測値を算出するかにかかっている。小松菜やホウレン草、トマト、ミニトマトは味の振れ幅が大きく、相関係数が高いため比較的予測精度が高い。しかし、味の振れ幅が小さい白菜やキャベツ、レタスなどの結球野菜では、予測値の相関係数が低くなり予測精度がやや落ちるという課題がある。ただし、厳密な数値を求めない限り、実用上は問題ないと考えている。

当初、おいしさの見える化システムは、生産者用に利便性と農産物の付加価値向上を目的に、スマートフォンやタブレット端末に対応することを念頭に開発を進めた。そのため、多少精度が低下しても低価格化することを優先に考えた。現在、当初の目的は達成され、生産者への普及に努めている。しかし、展示会などでの聞き取りから、外食産業や輸出商社、農業生産法人などの大口ユーザーが興味を持っていることが分かった。今後は、固定型で高精度のおいしさの見える化システムにより大口ユーザーへの対応も検討していきたいと考えている。また、おいしさ以外の要素への展開も検討していきたい。

●参考文献

**1
“おいしさの見える化”.マクタアメニティ株式会社.
http://makuta-amenity.com/iot/,(accessed2018-11-15).

**2
野田博行.トマトのおいしさの見える化について.農耕と園藝.2018,no.6,p.33-37.

**3
野田博行.野菜のおいしさの見える化システムの開発について.野菜情報.2018,no.10,p.38-48.

*1
農産物判定システム、特許第5386753号

*2
農産物判定システム、特許第6238216号

*3
農産物判定システム、特許第6362570号