2019年1月号
巻頭言
次の100年に向けた産学連携
顔写真

大井 滋 Profile
(おおい・しげる)

JX金属株式会社 代表取締役社長



「まず何よりも、変化を脅威ではなく機会としてとらえなければならない」これは、近代経営学の祖、ピーター・ドラッカーの言葉です。

当社の歴史は、創業者・久原房之助が1905年に開業した日立鉱山に源を発します。鉱山事業では、銅を製錬する過程で生じる硫黄酸化物などに起因した煙害を解消するため、世界一の高さの煙突を、社運を賭け建設するなど、地域社会と共に歩んできた自負があります。現在では、チリの銅鉱山の運営、国内での銅の製錬、リサイクルに加え、電子材料および金属加工に至るまで、有機的なつながりを持った事業を展開し、資源と素材を社会に安定的に供給することを通じてさらなる持続可能な社会の発展に貢献していきたいと強く願っております。例えば、スマートフォン(スマホ)の中で複雑に折り曲げても電気を通す圧延銅箔(はく)、また、半導体製造に必要なスパッタリングターゲットなどは、人目には触れることはほとんどありませんが、重要な役割を担う材料であり、当社の主要製品でもあります。

「鉄は国家なり」との言葉は有名ですが、「銅は文化なり」であると思います。今日の文明を支える情報通信では、電気や情報の伝達が必須です。銅は電線や電話回線に使用されてきましたが、われわれの日常生活に欠かせないスマホやパソコンの中では、銅などの微細な配線材料がより重要な役割を担っております。

なぜ、現在、配線技術が重要かについて少し触れさせていただきます。例えば、日本人の主要死因の一つに脳梗塞があります。これは、脳細胞自身が原因ではなく、血管が詰まることにより、脳に心臓から新鮮な血液が届けられないため、脳が壊死(えし)するものです。これをスマホの回路に例えると、人間の血管に相当するのが配線と言えます。集積回路がどんどん微細化する中で、物理的制約で電気が通せなくなり、時代が求める飛躍的な情報処理に大きな問題が生じております。

それでは、これをいかにして解決するか。当社は、産学連携に大きな期待を有しております。革新的なブレークスルーを実現するには、1社だけの力では到底不可能で、世界中のアカデミア、ベンチャー企業を含めた広い業界の結集が必要です。

当社は、2018年6月、東北大学発ベンチャー企業である、「マテリアル・コンセプト」に出資を行い、同社の事業を支援させていただいております。また、同年9月には東北大学と組織的連携協力協定を締結し、本協定の趣旨を具現化するため、2019年度には、配線材料技術~インターコネクト~に取り組む研究講座を設置し、さらに、2020年度の開設に向けて、東北大学の革新材料創成センター(仮称)のための研究棟を寄贈予定です。本研究棟がインターコネクト分野を含めた産学官連携の拠点となることを目指しております。

文尾に、再度、ドラッカーの言葉を引用させていただきます。「未来を予測する最良の方法は、未来を創ることだ。未来を予測しようとすると罠にはまる」

大学の優れた研究成果を社会に還元し、より良い社会を実現するよう当社としては微力ながら全力で取り組む所存であります。