2019年1月号
特集 - 人材交流で分かる銀行と大学の本気度
弘前大学 
地元銀行のエース級行員3人が大学に勤務

弘前大学は、みちのく銀行、青森銀行、青い森信用金庫から30代のエース級人材を常駐の連携推進員として受け入れている。地域が抱える課題を拾い集め、大学の研究成果を社会に生かしてもらうためだ。

銀行や自治体との連携強化

大学は、その機能として「教育」と「研究」が知られているが、近年は「社会貢献」が加わり、大きく三つの柱で運営されるようになった。社会連携や地域連携、産学官金連携などが社会貢献に含まれる。

弘前大学では、2017年4月1日から、青森県内の銀行や自治体との連携強化を目的に、県内自治体および金融機関から連携推進員の受け入れを行っている。受け入れのタイプは「常駐型」と「派遣型」の2種類で、2018年度は常駐型として西目屋村(にしめやむら)、青森銀行、みちのく銀行、青い森信用金庫からそれぞれ1人ずつ計4人が大学に勤務し、経費については、給与は派遣元負担、研修会や交通費などの実費を大学が負担する。一方、派遣型として平川市、鰺ヶ沢町、深浦町、藤崎町、西目屋村の5自治体からそれぞれ1人、計5人が大学と本業を兼務している。

自治体は地域が抱える課題解決の糸口として大学が持つ知見を活用し、銀行は地元企業の技術的課題などの解決の手助けをする。また、地域経済の活性化を促すことで、融資や投資といった本業で将来の顧客とつながる可能性もある。

一方、大学は限られたマンパワーだけでは拾い切れない地域の課題を自治体や銀行のネットワークから集約し、研究成果を還元することで社会貢献を図る。

みちのく銀行、青森銀行、青い森信用金庫の行員3人

県内の銀行からは、みちのく銀行の高瀬亮輔氏、青森銀行の藤川啓氏、青い森信用金庫の下總由衣氏の3人が、常駐型として弘前大学に勤務する。それぞれが出向元から正式に人事発令を受け、2017年4月から高瀬氏と藤川氏が、2018年4月からは下總氏が、同大学職員として、地元企業が抱える課題を大学の研究などに結び付け、その解決に当たる連携推進員となった。

左から藤川啓氏(青森銀行)、高瀬亮輔氏(みちのく銀行)、下總由衣氏(青い森信用金庫)


しかし、高瀬氏は融資先の査定手法の立案や融資業務の企画、藤川氏は融資窓口、下總氏は営業窓口と、それぞれ行内業務しか経験がなく、異動の話を聞いたときは、前例のない初めてのことで、大学に行って何をするのだろうと驚いたそうだ。

「大学とは協定を結んでいる程度の認識で、銀行員が大学に出向して何をするのかという疑問はありましたし、ほかの行員も同じ程度だったと思います」と青森銀行の藤川氏。そのため、当初は明確な目標があったわけでなく、大学側と試行錯誤を繰り返した。

企業から技術的な課題をヒアリングするにしても、一人で銀行の取引先や県じゅうの企業を訪問するのは現実的ではない。そこで、自分が大学で連携推進員の仕事をしていることを出向元の銀行に知ってもらうため、地区の支店長会議に出席し、大学との連携活動を発表した。さらに、関心を持ってくれた支店には直接出向き、地道に説明行脚をした。エリアの課題は、そのエリアを受け持つ支店が最も把握している。そのため、連携活動に積極的で理解ある支店長から企業を紹介してもらい、学内の最適なシーズを探し出し、共同研究に結び付けた。

高瀬氏は、「そもそも行内では、大学との社会連携は知られていません。そこは青森銀行と同様、行内周知が必要でした。地域の特徴から、課題の挙がる業種は農業系が多く、栽培方法や廃棄物処理、販路など相談内容は多岐にわたります」と話す。

営業窓口の優秀表彰を受けたこともある下總氏は、「信金は営業地域が限定されており、より地域性が強いため、金融機関と地域は運命共同体です。地域が活性化しなくては信金の存在意義もありません」と、大学に出向して半年ほどで、すでに危機感を募らせている。

公開できない顧客情報

もとをたどれば、3人は学外では競合する同業者だ。支店などから集めた自社の顧客情報の扱いには苦慮することもある。例えば、企業はA社、B社として顧客名は明かさないなど配慮が必要だ。全てをハンドリングする同大学の研究推進部地域連携コーディネーターの上平好弘氏は、「そこが最も気を使うところです。それぞれ、この短期間で具体的な成果案件が決まったものもあれば、決まりつつあっても公開できないところがつらいところです」と胸中を語る。

しかし半年から1年半足らずで何かしらの成果を出せたのは、各行の支店網から拾い集めた顧客の技術課題に対しどう対処すべきか、連携推進員の業務が分かりやすく明確化されたからだろう。同業他社とはいえ、お互い疑心暗鬼で仕事をしているわけではなく、同じ部屋で肩を並べて和気あいあいと仕事をする同僚だ。「企業名を伏せても、何となく話の前後からお互いの案件は想像できるものです。そこはあうんの呼吸でうまく距離を取りつつ、良い関係を築けています」と最年長の高瀬氏は強調する。

地域創生本部地域創生推進室で


地域に選ばれるために

「銀行や企業からすると、企業の課題解決は必ずしも大学である必要はなく、あくまでも解決手段の一つです。銀行が大学に人材を出している以上、ウィンウィンである必要があります。人材を出すメリットを大学が提示しないと継続しないのではないでしょうか」と藤川氏が危惧するように、大学と銀行の連携推進員制度は始まったばかりだ。性急な成果を求めづらく、短期間で何らかの実績を出しつつあるのはまれであるため、長い目で見る必要があるだろう。

「短期的に成果を出すのは難しいですが、その問題を解決することが大切で、『分かりません』では地域の金融を担う機関とは言えません。長期的には、将来会社が成長し、資金需要に絡んでいければいいのではないでしょうか」と高瀬氏は連携推進員制度の重要性を説く。

3行とも地域に根差した金融機関であることには間違いない。地域に選ばれるためには、地域からの要請に応えていかなくてはならない。

(取材・構成:本誌編集長 山口泰博)