2019年1月号
単発記事
龍谷大学と地域が深く結び付いている理由

龍谷大学の学生と地元農家や道の駅が相互に協力し、「儲かる農業」を模索している。学生と住民のコミュニティーができ、学生たちは、まるでその地域の住民のようになじんでいた。

食材費0円でピザ作り

2018年11月17日、一般財団法人愛の田園振興公社が運営する「道の駅あいとうマーガレットステーション(滋賀県東近江市)」に、龍谷大学農学部食料農業システム学科の学生と淡路和則教授が集合した。商品にならず捨ててしまう果物や野菜を農家から提供してもらい「0円ピザ」を作るという。

最初に向かったのは、田中大介さん・真理さん夫婦が経営するイチゴ農園「T-berry farm」だ。ハウス内にはミツバチが飼われ、受粉を促されたイチゴが赤く色付き始めている。田中さんから品種や直近の栽培管理の説明を聞き、ふぞろいで販売品にならない規格外のイチゴをもらい受けた。

イチゴ農園「T-berry farm」のハウス内で、
田中真理さんの説明を聞く。


次に向かったのは福永久嗣さんの梨農園である。すでに収穫が終わり梨園には一つも梨はないが、小さくて売り物にならない梨をとっておいてくれた。そして最後は白菜を栽培する森下靜子さんの畑に向かい、白菜を収穫した。淡路教授は「今日は頂いた食材でピザを作り、皆でいただきます。でも、具材集めをしてオリジナルピザを作ることが目的ではなく、地域の農家から商品にならない果物や野菜を頂き、農業の現場を教えてもらうことで交流を図ることが本来のねらいなのです」と、その意図を強調する。

福永久嗣さん(写真右から2人目)の梨農園で。右端が淡路和則教授。


森下靜子さんの畑で白菜を収穫。


規格や出荷基準に合わずに販売されない農産物がどれだけあるかを現場で知るために始めた「0円企画」だが、某テレビ番組の企画ほどルールは厳密ではない。農家のご厚意で、そのまま販売できそうなイチゴや梨を提供してもらえるところも地域ならではの良さだ。森下さんからの「1人1玉持って行っていいですよ」とのご厚意で、学生たちは畑で新鮮な白菜を収穫した。

頂いた食材を手にマーガレットステーション内のキッチンスタジオ「ローズマリー」に帰り、それぞれ自前のエプロンを着け、ピザ作りが始まった。

イチゴピザ作り


ピザのベースとなる米粉の生地作りや、ピザ窯の準備などは同ステーション館長の大平健太郎さんが慣れた手つきで全面的にサポート。ピザ作りの最中、イチゴ農園の田中さんや梨農園の福永さんらもステーションに集まってくれた。田中さんからのイチゴジャムや蜂蜜、ナスやベーコンなどの差し入れで、新たにピザの具材が加わった。そして、学生と農家が全員で協力して完成したピザは、皆でおいしくいただいた。

農学部は、2015年4月に設置された新しい学部にもかかわらず、地域との結び付きの強さが目に留まる。年間を通じ、いろいろな農作業に携わることは学生たちの学びに役立ち、また、地域のイベントの担い手として学生たちが積極的に参加することを、地元の誰もが当たり前のことのように感じている。

学部を創設し、いち早く研究会を発足

龍谷大学は、農学部発足の翌2016年度から滋賀県東近江市愛東地区で農業体験などに参加し、地元農家を中心に地域の人々との交流を深めてきた。その過程で、同地区における農業の課題を把握し、「儲かる農業経営研究会」を発足させた。発案の中心として尽力したのが、東近江市の小椋正清市長や東近江市愛東支所の奥村清和副支所長、そして淡路教授である。

その活動テーマは、「未来につながる儲かる農業経営」とし、愛の田園振興公社、湖東農業協同組合(JA湖東)、NPO法人愛のまちエコ倶楽部、愛東地区地域おこし協力隊、東近江農業農村振興事務所、東近江市(農業水産課、愛東支所)および農家の関係者、そして龍谷大学(農学部食料農業システム学科淡路教授および学生)と、多くの団体や個人が集結した。

1度だけで終わらない農業体験、祭りなどにも継続参加

2017年には、あいとうマーガレットステーションを中心に、愛東地区の農業の持続的発展と活力ある農村を実現する仕組みや手だてを考え、学生のアイデアを生かした活動を本格化させた。

例えば、同地区の農業が持続的に発展するためのアイデアを形にするには、地域に深く関わり実情を把握する必要があると考え、7月には、1泊2日でメロン祭りと梨の作業体験に出掛けた。「あいとうメロン祭り」では、カットメロンの販売を体験し、ステージプログラムのアシスタントを務めた。梨の作業体験では摘果や袋掛けを体験した。その際には、病害虫防除についても学習し、摘果された梨の利用と課題について意見交換した。また、シソジュースの試作や地元産の梅を使った梅ジュースの商品開発にも挑戦し、栽培品種の多様性と出荷スケジュールも学習した。

さらに8月は梨の収穫と選果を行い、「あいとう梨まつり」へも参加した。 いくつもある梨の品種を食べ比べ、味や食感の違いも学んだ。選果場で選果作業を体験後、直売所で品出しと販売もした。

9月には、ブドウの栽培管理を学ぶため、収穫作業、少量多品種という生産構造を生かす販売方法を検討。数種類のブドウを房から外して1粒ずつカップに入れた商品を開発し、「あいとうぶどうまつり」での販売に臨んだ。そこでブドウ品種の人気投票を行うことで消費者の嗜好(しこう)を調査し、今後の商品作りに役立てる。

そして10月には「大秋穫祭」への出店を検討、大秋穫祭やジェラート祭りのほか、愛東地区が実施してきた直売の歴史を事前に調べ、地元産のサツマイモを使ったスープや焼きおにぎりを作り販売した。ここでもステージプログラムのアシスタントスタッフの一員としてイベントの盛り上げに一役買った。

このほか、地域と大学の連携強化を目的にした取り組みとして、食料農業システム調査実習を実施。後日行われた成果報告会には多くの農家や関係者が集まり、温かな雰囲気の中で交流を深めている。

龍谷大学の社会連携活動では、一つのプロジェクトに対し複数の連携先、複数の作目に幅を広げ、栽培から流通、加工、販売など一連の流れを体験し、地域農業の生産構造を踏まえた商品開発や販売方法、さらに加工品のラベルデザインといった具体的な提案を行っている。

また、地域の祭りなどのイベントにも参加する。一度きりの連携活動でなく、ほぼ毎月マーガレットステーションのイベントに参加する「地域の担い手」のような存在だ。既存の地域の祭りやイベントだけでなく「0円ピザ」のような大学オリジナルのイベントも自発的に行っている。しかしそれだけで満足しているわけではなく、これまでの成果はあくまでも農業の一部分に限られたものだという。そして今後も農業体験の幅をさらに広げ、継続することで地域農業の発展を多面的かつ包括的に支援していくという。

龍谷大学の妥協しない社会連携の探求は続く。

(取材・構成:本誌編集長 山口泰博)